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「サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた」第11回久永啓さん(データスタジアム株式会社)

2016.02.08

構成=菅野浩二 写真=野口岳彦

サッカー業界への就職・転職を考えている皆さんにとって、価値ある情報を得られる場所へようこそ。連載『サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた』では、これまでも、サッカーにかかわる仕事に取り組むプロフェッショナルたちが、その業務内容ややりがい、必要な能力などを教えてくれました。

今回は、データスタジアム株式会社でアナリスト、つまりデータ分析のスペシャリストとして活躍する久永啓(ひさなが・けい)さんにお話を伺いました。4月から男子・女子サッカーの専門学校「JAPANサッカーカレッジ」のサッカービジネス科2年生に進級する齋藤健人(さいとう・けんと)さんが、インタビュアーとしてその専門性を引き出していきます。サンフレッチェ広島でコーチを務めた後に転職し、「いずれはデータ分析を生かして日本代表のW杯優勝に貢献したい」と話す久永さんの仕事論は、学ぶべき要素にあふれています。

JAPANサッカーカレッジは、「サッカーにかかわる仕事に就きたい」人たちのための専門学校です。

仕事の内容を教えてください。

「データ分析を提供する」というものと「データ分析を広める」という2つの業務が大きな軸です。

シュート数やパスの本数、ボール支配率といったベーシックなものから、パスの方向や長さ、あるいは走行距離も攻撃の時と守備の時のものを出すなど、幅広くデータを扱っています。データは弊社の専門スタッフが手動で入力するものと、半自動的に取得できるものがあります。

「データ分析を提供する」という点で言うと、契約しているJリーグの各クラブに対して、データ分析を用いたサポートを行っています。専用の分析ツールや要望に応じたデータの提供を通じて、そのチームの勝利や選手のパフォーマンス向上のお役に立てるように心がけています。

「データ分析を広める」という面では、私自身はこの分野の発展が日本サッカーの強化に結びつくと考えています。2015年はとある大学でスポーツアナリティクスを学ぶ講義を担当させていただきました。

データ分析に興味を持ったきっかけはなんだったんですか?

2012年から2シーズン、サンフレッチェ広島のコーチを務めたことがきっかけです。森保一監督のもとで分析担当という役割を担い、対戦相手の特長や弱点を洗い出し、攻略法を提案する中でデータ分析の可能性に気づいたんです。勝利のためには、主観だけではカバーできない情報を客観的なデータから導き出す必要がある。そう感じていた時に、データ分析のスペシャリスト集団である今の会社とつながり、入社に至りました。

実は私自身が選手として本格的にサッカーに取り組んだのは高校生まででした。ですから、サッカーの指導者になるための勉強をした大学と大学院時代には、やはり選手キャリア以外での武器が必要だと感じました。プロのコーチになるには、日本代表の元選手や元Jリーガーの方たちと勝負するわけですからね。分析の分野に足を踏み入れたのは、自分の強みを作るためでもあったんです。

今のお仕事のどこにやりがいを感じますか?

データを駆使した分析の分野で、日本サッカーの成長に携われていると実感を持てるのがこの仕事の魅力ですね。

アナリストの役割は、これからどんどん重要度が増すと思っています。時代の流れから見て、サッカー界もITをより活用する方向に向かうはずですし、私自身は日本が世界と互角に戦っていく上では、客観的な数字を効果的にパフォーマンス向上につなげる分析力が大きな武器になると信じています。実際、2014年のW杯では、データ分析を重視したドイツ代表が優勝して話題になりましたよね。

データ分析を仕事にする上で必要な能力はなんですか?

まずは大前提として、サッカーへの理解度の高さが絶対条件だと思います。その上でデータや数字を読み取る力が求められます。

アナリストの仕事は、ただ数字を見ているわけではありません。我々は“解釈”と言いますが、データや数字から何を読み取れるかがとても重要です。監督によっては「走行距離が長いからといって必ずしも良いサッカーができているわけではない」と話す方もいます。走行距離が長くても、相手ボールを追って走らされている場面が多いと自分たちのサッカーができていないと感じるチームもあります。また、パスの本数が多いといっても、その方向やエリアなどによっては戦術が機能していないととらえるクラブもあるわけです。データを正しくパフォーマンス向上につなげるには、対象チームがどういったサッカーを目指しているか深く理解していなければなりません。

学生のうちにやっておいたほうがいいことを教えてください。

やはり現場に足を運ぶことは重要です。私自身、大学時代はフランスW杯やシドニー・オリンピック予選を国内外で生観戦し、そこで接する人たちからサッカーについて学べましたし、大学院では日本サッカー協会の指導現場サポートで自分の可能性を広げてくれる人たちに出会いました。サッカーが好きな人はサッカーを通してつながることが多いので、現場で人脈を広げていくといいかもしれませんね。

サッカーはグローバルなスポーツですし、海外から多くを学ぶことも視野に入れるといいのかなと思います。海外リーグを生で観ることで気づくこともあるはずですし、分析にかかわりたいのであれば、データ分析が浸透しているヨーロッパで学ぶのも一つの考え方でしょうね。

データ分析はサッカー観戦も変えていきますか?

言葉とは違って、数字は多くの人が共通認識を持てるものです。それを試合と絡めることで、サッカーの魅力もアップすると思っています。これからの数年間で、テレビだけでなくスタジアムでも、リアルタイムでデータを楽しむのが普通になっていくかもしれません。

ある選手のパスの傾向はどうなのか、あるいはボールを受ける位置はどこが多いのか。試合観戦の際にもサッカーを楽しむための客観的な視点がもたらされ、同時にデータに対する的確な解説があれば、日本のサッカー文化はより成熟していくはずです。

将来的な夢を教えてください。

私が目指しているのは、日本サッカーの強化と発展、そして日本代表のW杯優勝です。アナリストなのかコーチなのか、かかわり方は分かりませんが、日本代表が強くなるための仕事をしていきたいですね。私の好きな言葉に「信じる者は信じる道に導かれる」というものがありますが、その思いを胸に日本サッカーに貢献していきたいと思っています。

この仕事はまだまだ可能性があります。繰り返しになりますが、日本サッカーを強くする上では、客観的な数字をチームの強化につなげるデータ分析がとても重要になってくる。今の仕事を通してアナリストという役割の知名度や地位を上げていきたいですし、若い世代の中から、アナリストという立場で日本サッカーの発展を目指す人材がどんどん出てきてほしいですね。


サッカーの仕事を直接教えてくれた人
久永 啓(ひさなが・けい)さん

2014年にデータスタジアム株式会社に入社。現在はフットボール事業部に加え人材開発チームに所属する。岡山県立玉野光南高校を卒業後、早稲田大学人間科学部に入学。その後、筑波大学大学院修士課程体育研究科で学ぶ。同研究科を修了後、2006年にサンフレッチェ広島に入団。アカデミーコーチを経て、2012年から2シーズンにわたってプロチームの分析担当を務めた。日本サッカー協会公認B級コーチとイングランドサッカー協会公認コーチングライセンスのレベル1コーチの資格を持つ。「データのおもしろさに関しては、弊社が運営している『Football LAB』(http://www.football-lab.jp/)というサイトをぜひチェックしていただきたいですね」と話す。

データスタジアム

サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた
・「視聴者から反響があった時は本当にうれしい」第1回 岡 光徳さん(テレビ朝日 GetSports)
・「サッカーの仕事を始めたきっかけは、日本サッカー協会への出向」 第2回 松本健一郎さん(西鉄旅行株式会社)
・「サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた」 第3回 山崎祐仁さん(株式会社 ニューバランス ジャパン)
・「サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた」第4回 上野山信行さん(株式会社 ガンバ大阪)
・「サッカー愛とビジネススキルを兼ね備えた人材」が求められている 第5回 幸野健一さん(アーセナルサッカースクール市川)
・「『人から可愛がられる』という要素が仕事スキル以上に重要かもしれません」 第6回 岡本文幸さん(鹿島アントラーズ)
・『どんな付加価値を与えられるのか』を明確に設定しておくことが大事」 第7回 渡邉和史さん(日本コカ・コーラ株式会社)
・「情熱さえあれば『ええもん』を作ることができる」 第8回 青井俊輔さん(ミズノ 株式会社)
・「仕事というのは向き不向きではなく、自分が変われば何だってできるもの」 第9回 山川幸則さん(FC東京 ホペイロ)
・「好きなことを仕事にする難しさをたくさん経験しました」 第10回 澤田勝徳さん(株式会社日本テレビサービス)

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