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「『人から可愛がられる』という要素が仕事スキル以上に重要かもしれません」 第6回 岡本文幸さん(鹿島アントラーズ)

2015.09.08

構成=波多野友子 写真=兼子愼一郎

将来、サッカー関係の仕事に就きたいと考えているけれど、どんな業種や職種があるのかよくわからない……。そんな疑問を抱いている人にぜひ読んでいただきたいのが、この連載『サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた』です。今回は、男子・女子サッカーの専門学校「JAPANサッカーカレッジ」の事務局長として若者の夢をサポートする、藤田耕一(ふじた・こういち)さんがインタビュアーを務めました。

今回お話を伺ったのは、株式会社鹿島アントラーズFCの事業部営業グループのグループ長、岡本文幸(おかもと・ふみゆき)さん。鹿島で生まれ育った岡本さんが入社以来大切にしているのは、“地元に愛されるクラブづくり”です。その具体的な取り組みや、仕事をする上で岡本さんが大切にしていることなどについて、熱く話してくれました。

現在の仕事を始めた経緯を教えてください。

私は、鹿嶋で育った根っからのサッカー小僧でした。子どもの頃から住友金属工業蹴球団(鹿島アントラーズの前身)の練習場にちゃっかり押しかけては、選手の皆さんにサッカーを教えてもらっていたんです(笑)。その選手たちが、現在の上司にあたる方々です。

先輩方の助言もあり、15歳で単身奈良のサッカー強豪校へ入学し、全国大会を経験しました。その後、東京の大学で4年間プレーしたものの、当時はプロ選手になるというイメージがどうしてもわかず、そのまま現役を引退しました。その後、一度は建築業界に進みましたが、やはりスポーツに関わる仕事がしたいと思って、27歳でスポーツコンテンツ専門の制作会社へ転職したんです。

当時はJリーグ創成期。同期の秋田豊選手や永井秀樹選手らの活躍する姿が、とてもまぶしく見えました。「どうして彼らの裏方をやらなきゃいけないんだ」と頑なにサッカー案件を拒んでいましたが、結局わき起こる情熱には抗えませんでした。取引先の広告代理店から発注を受け、Jクラブのコンテンツ制作や日韓ワールドカップのチケッティング業務などに携わり、その後2006年に鹿島アントラーズFCに入社しました。幼い頃につながったご縁が、私を導いてくれたんですね。

実際に岡本さんは、どんな仕事をしているのですか?

現在は事業部営業グループのマネージャーとして、「スポンサー」「チケット」「ファンコミュニケーション」「マーチャンダイズ」の4つの大きな柱を中心に、クラブ全体の収入にかかわる業務を統括しています。

Jリーグバブルの時代に比べ、最近は収益を得るために様々な工夫が必要になってきました。例えばスポンサー企業に対しては、冠試合を行うことに加えて、スタジアムでその企業の商品をより多く売るための魅力的なプロモーションを企画します。大手スーパーのインストアキャンペーンであれば、スポンサーであるスーパーの満足だけでなく、周辺住民の方たちも喜ぶようなコンテンツを提案することも大切です。ほかの3つの業務も同様ですが、「かゆいところに手が届くような企画とサービス」を提供することが、僕たちの役目だと思っています。

鹿島アントラーズが大切にしている“地域連携”について詳しく教えてください。

クラブとしてお金を集めることは大切ですが、そのためにはまず地域の人から支持されることが必要だ、という理念のもとで活動しています。

2006年、入社した私が最初に任されたのが、地域とクラブのパイプ役となるホームタウン業務でした。2007年には「アントラーズホームタウン協議会」を発足させ、行政との連携をよりスムーズな形に整えました。この事業をベースとして、鹿島アントラーズは「地元に愛されるクラブづくり」を本気で目指しています。

2015年8月3日に開業したばかりの「アントラーズスポーツクリニック」は、Jクラブとしては初となる医療事業への挑戦です。周辺地域が抱える深刻な医療過疎問題に対して、私たちが提供できるのはチームドクターという財産だったんです。
また、現在構想中なのが芝生の生産事業です。耕作放棄地が多いこの地域で芝生を作り、スタジアムの傷んだ芝を頻繁に張り替える。このことでカシマスタジアムを地元の学校に開放し、運動会などのイベントに活用してもらうことができると考えています。

他のクラブに負けない、鹿島アントラーズの強みとは?

22年前につくられたクラブハウスが、鹿島アントラーズの誇る財産ですね。同じ建物の中で、社長以下すべてのスタッフが一緒に働いています。もちろん選手もすぐ隣に併設されたグラウンドで日々練習に励んでいます。

私はよくスポンサーさんから選手のサインを頼まれるんですが、クラブハウスではいつでもすぐに選手に会うことができるんです。選手からも、「よっ、おかもっちゃ〜ん」なんて気軽に声を掛けられますし(笑)。スタッフと選手の関係に一定の距離があるクラブもある中、この風通しのよさはとても大きな強みだと感じますね。他のJクラブも、クラブハウス新設の際には必ずここに見学に訪れるほどなんです。

仕事をする上で、やりがいを感じる瞬間を教えてください。

当然ですが、チームが勝ってくれることが一番のやりがいです。なぜなら、私たちは“全員で”勝ちに行っているからです。最前線で戦うのは選手ですが、そこまでのプロセスにおいてはスタッフと選手たちがWin-Winの関係を築いています。

例えば事業部スタッフが、スポンサーとの関わりや地域連携を強化することで収益を上げ、チームのために動きますよね。同時に選手たちも、年間シートをまとめて購入することなどによって、見えないところで会社の収益のために動いてくれているんです。互いに仕事を任せっぱなしにするのではなく、補い合って戦う上でチームが結果を出たときは、本当にうれしいですよね。

学生時代にやっておいてよかったことは?

まずはスポーツでしょうか。社会に出て初めて、理不尽な出来事にぶつかる人は結構いると思うんです。ただ、理不尽さを乗り越える力というのは、自分を律したり我慢したりすることが不可欠なスポーツを通して、養っておくことができるものだと私は思います。

もうひとつは、できるだけ多くの人と“ウェットな”関係を築くこと。今の時代、何事もメールひとつで済ませられますけど、やっぱり直接コミュニケーションを取ることで生まれるものが絶対にあるんですよね。僕は昔から周りの大人になんでも相談するタイプでしたが、そのことで道を拓いてもらったと感じることが多々あるんです。

今後、どんな若者と一緒に働きたいと思いますか?

問題に直面してもすぐに諦めない、熱さを持った人。初めから限界値を低めに設定してしまうようなタイプは、若手としては物足りないと感じます。経験から生まれるスキルでは、当然僕らに勝ることはできないわけですから、いかに先輩に“このスタッフをサポートしたい”と思わせるかがポイントではないでしょうか。壁にぶち当たっても諦めないスタッフというのは、必ず周りが放っておかないんですよ。特に事業部のように社外の人間とも多く関わるような部署では、「人から可愛がられる」という要素が仕事スキル以上に重要かもしれませんね。


サッカーの仕事を直接教えてくれた人
岡本文幸(おかもと・ふみゆき)さん

スポーツコンテンツ制作会社、大手広告代理店を経て、2006年に株式会社鹿島アントラーズFCに入社。初のホームタウン担当として多くの実績を残す。2013年、事業部営業グループマネージャーに就任。自らの特技については次のようにコメント。「僕の特技は、どんな所でも知らない人とすぐ打ち解けられることなんです。仲良くなった地元の事業者の方や、農家のおじさんとたわいのない話で盛り上がっているうちに、『おっ、君、鹿島アントラーズの人なの? じゃあスポンサーになってあげようかな』なんてサプライズもたまにあるんですよ(笑)」

鹿島アントラーズ

サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた
・「視聴者から反響があった時は本当にうれしい」第1回 岡 光徳さん(テレビ朝日 GetSports)
・「サッカーの仕事を始めたきっかけは、日本サッカー協会への出向」 第2回 松本健一郎さん(西鉄旅行株式会社)
・「サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた」 第3回 山崎祐仁さん(株式会社 ニューバランス ジャパン)
・「サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた」第4回 上野山信行さん(株式会社 ガンバ大阪)
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