2015.05.11

「サッカーの仕事を始めたきっかけは、日本サッカー協会への出向」 第2回 松本健一郎さん(西鉄旅行株式会社)

構成=菅野浩二 写真=野口岳彦

サッカー業界への就職・転職を考えているけれど、どんな業種があって、どんな仕事内容があるのか、いま一つよく分からない。そんな悩みを持つ人たちにおあつらえ向きの連載企画が、この『サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた』です。

今回、インタビュアーを務めたのは石川幸代(いしかわ・さちよ)さん。男子・女子サッカーの専門学校「JAPANサッカーカレッジ」のサッカービジネス科2年生で、サッカーにかかわる仕事に就きたいという夢を抱いています。サッカー日本代表観戦ツアーを始め、サッカー関連の旅行や遠征を多く手がける西鉄旅行株式会社の松本健一郎(まつもと・けんいちろう)さんに、仕事にまつわるあれこれを聞きました。

今、どんな仕事をしているのですか?

私どもは旅行会社ですが、その中で私はスポーツチームに関わる旅行関係の業務を統括しています。Jクラブであったり、サッカー日本代表であったり、サッカーのプロチームのお客様が多いですね。分かりやすく言うと、チームの遠征の手配やサポートをしたり、その試合を観るメディアやスポンサーの方々の旅行、はたまたサポーターの皆様の応援ツアーのお手伝いをしたり、というのが主な業務内容です。観戦ツアーに関しては『トライアンフ』という専門ブランドも手がけていて、幅広い展開に取り組んでいます。

最近では外国からのサポーターさんのお手伝いもしています。3月に行われた日本代表とウズベキスタン代表の試合ではウズベキスタンから100名くらいのお客様が来たんですが、そのツアーのお手伝いをさせていただきました。

サッカーの仕事をするようになったきっかけはなんですか?

入社したのは1995年で、そもそもは法人様の社員旅行や海外の視察旅行などを担当していました。それが、2002年の8月に会社のほうから「日本サッカー協会に出向してくれるか」と言われまして。サッカー協会では技術部に配属され、最初は女子チームや指導者養成などのお手伝いをしていました。

2003年には代表チームの主務という立場をいただいて、ジーコジャパンを手伝うようになりました。海外遠征があると必ず現地に下見に行って、練習場の調整や取材用のミックスゾーンのチェック、スタジアムの看板の確認など、周りの方と協力して頑張りましたね。

今の仕事の魅力を教えてください。

旅行の仕事の面白さは既存のものと違うものを作っていけること。そこに尽きると思います。目に見える物を作るわけではないので、既成概念にとらわれずに済むんです。サッカーで言えば、温泉がある地域同士の試合で何か企画してみたりと、いろんな商品を作れるのは本当に楽しいですよ。

旅行というのは、サッカーの試合と同じで最初は形が見えないもの。パンフレットなどはあくまで事前情報であって、お客様が行って帰ってきて始めて、旅行の価値が決まるんです。ですから、形が見えない最初の段階できちんとお客様とコミュニケーションを取ってお互いのイメージのずれを埋めて、旅行を終えた皆様に「ありがとう」と言ってもらえると本当にうれしいです。

仕事をする上で特に意識していることはなんですか?

先回りして考える、ということですかね。起こりうることをある程度予測しておく、ということはとても大切です。

先ほど申し上げましたように、旅行というものは終わるまで形が見えないわけです。サッカーの例で言えば、突然大雪が降って飛行機が遅延したり、2004年でしたか、インドのカルカッタでやった日本代表の試合でスタジアムが停電したりしたことがあります。ですので、不測の事態も想定して、違うルートで帰国する方法や別のホテルに宿泊するプランなど、常にオプションを2つか3つ考えておくようにしています。

お務めの会社の強みはどんな部分ですか?

私どもとスポーツ団体の関係は古く、1952年、ヘルシンキ・オリンピックの選手団派遣をお手伝いしたのが最初の大きな関わりでした。そういった経験値もありますし、Jクラブや日本サッカー協会など、法人のお客様に対する営業活動には自信を持っています。

旅行素材は基本的にどの会社さんもほぼ同じです。旅行会社が違っても、飛行機の座席は飛行機の座席ですし、ホテルはホテルですよね。そうした中で、私どもが法人のお客様と長くお付き合いさせていただけているのは、きちんとお客様の立場に立ち、省力化やコストを抑えるプランなどを提案して、しっかりとした信頼関係を築けているからだと思います。

今後、新たに挑戦したいことはありますか?

この4月から市場創造部のスポーツ事業推進担当という役割を拝命しておりまして、そちらの業務にも注力していきたいなと思っています。これまでの経験を踏まえ、サッカーを始めとするスポーツを軸に新しい事業を作っていけるのにはやりがいを感じています。

価値あるコンテンツとしてお金を使っていただけるような旅行や企画をどんどん仕掛けて、お金が循環していくような流れを作るのが目標ですね。私どもが考えた企画でそれぞれのクラブの収益が上がり、多くのファンや地域も豊かになれば、それがサッカー文化の成熟につながると思っています。

学生時代にやっておくべきことはなんだと思いますか?

勉強もそうですし、いろんなことをやったほうがいいと思います。一見無駄に思えても、社会人になって役立つことはたくさんありますから。ぜひそういったお気持ちを持って頑張っていただきたいですね。

私自身、学生時代は遺跡発掘のアルバイト、30センチくらいを掘るような力仕事を4年間ずっと続けたんですが、それが今生きていると思います。バイトが終わって、毎日のようにおじさんたちと飲みに行って、そこでコミュニケーション力が鍛えられたんです。私自身の経験を踏まえると、学生のうちは意識的に年上の人と話すようにしたほうがいいのかもしれませんね。気心知れた仲間だけだと、世界も狭くなってしまいますよね。会社というのは、20代から60代までの人間がチームになって一つの物事に取り組んでいく組織のことです。学生のうちから年上の人とのコミュニケーションに慣れておけば、そういった環境にも早く溶け込めるはずです。

今後、どんな若手と働きたいですか?

自分の言葉できちっと話せる人。これに尽きますね。旅行会社なのでもちろん英語力も大切ですが、自分のやりたいことや思っていることをきちんと言葉にして相手に伝えられる日本語力、それを持っている人間はやはり頼もしいです。

あとは、分かりやすい言葉で言えば、ガッツがあるかどうかですよね。若いうちは失敗していいんですよ。先輩や上司はそれをフォローするためにいるんです。失敗は次に生きますし、若い人たちにはミスを恐れない強い気持ちを持っていてほしいですね。


サッカーの仕事を直接教えてくれた人
松本健一郎(まつもと・けんいちろう)さん

西鉄旅行株式会社東京スポーツ支店長。市場創造部課長(スポーツ事業推進担当)も兼任する。2002年の日本サッカー協会への出向をきっかけに、サッカーを軸とするスポーツチームに関わる旅行素材の斡旋や手配の業務に携わる。「仕事をする上では、お客様に喜んでもらえることが大切。それから、対価としてお金を払ってもらって始めて仕事になるわけで、そうでなければ趣味や自己満足になってしまいます」と話す。

【サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた】
●「視聴者から反響があった時は本当にうれしい」第1回 岡 光徳さん(テレビ朝日 GetSports)