[写真]=ムツ カワモリ
南野拓実、三笘薫に続き、遠藤航も負傷離脱し、海外メディアからは「さすがに厳しい」という声も挙がっていた日本代表。FIFAワールドカップ2026 グループステージ初戦のオランダ代表戦では、確かにボール支配率やシュート数で上回られ、苦しい展開を強いられた。
そういった中でも、粘り強く諦めずに戦い続けるという日本らしいマインドは健在だった。被弾しても積極果敢にアタックする姿勢を前面に押し出したのだ。それが結実したのが、日本代表が決めた2つのゴール。前者は中村敬斗が“敬斗ゾーン”と言われる左45度の位置からカットインシュートをお見舞い。対面のデンゼル・ダンフリースの股抜きするという堂々たるものだった。そして後者はジョーカー伊東純也の右CKに鋭く反応し、確実に合わせたのが、同じく切り札の小川航基。小川の放ったヘディングシュートは、鎌田大地の頭をかすめて枠の中に吸い込まれていったのだ。
「結局のところ、どれだけデカいDFがいようが、いいところにボールがいい形で入って、自分がいいタイミングで入り込めば、今日みたいに高いDFの中でもしっかりとゴールを取れる。それがサッカーの面白さ。ゾーンの間にウィークポイントがあるので、そこをしっかり見つけられたのかなと思います」と背番号19を着ける男はしてやったりの表情を浮かべた。その嗅覚を持ち合わせているからこそ、「自分はゴールを取ることに一番自信を持っている」と公言できるのだろう。
しかしながら、公式記録上の得点者は鎌田。小川は“同点弾未遂”となってしまった。「僕のゴールじゃないから、なんかモヤモヤします」と本音を吐露する。鎌田からは「俺のゴールなのにお前が喜びすぎるから、俺のゴールじゃないみたいな雰囲気になった」と逆ギレされたことを冗談交じりに明かしつつ、笑っていた。結果的には悔しい形にはなったが「大地くんが触っていなかったら、キャッチされていたかもしれないので。まだここから長いので、しっかりと正真正銘のゴールを決められるようにしたいと思いますね」と前向きにコメントできる明るさとオープンマインドが小川の魅力。そこに今の日本代表が救われていることは事実だろう。
まさに“ミスターポジティブ”と名付けたいくらいの男だが、これまでのキャリアは順風満帆とは程遠かった。ご存じの通り、2017年のFIFAU-20ワールドカップ(韓国)ではエースFWとして板倉滉、堂安律、冨安健洋、久保建英らと共闘。東京五輪世代の点取り屋に君臨すると見られたが、ジュビロ磐田などでコンスタントな活躍が叶わず、長い停滞期間を強いられたのだ。「J2ですら試合に絡めない時期もありました。そういう時も『必ず僕は結果を出す』『花開くタイミングが来る』と信じて、小さいことからやってきた。それは間違っていなかったなと思います」と本人はしみじみと言う。
4年前のカタール大会で日本代表がクロアチア代表に敗れ去った時を思い返しても、小川は当時J2の横浜FCの一員。中村俊輔コーチが引退した年で、小川は26得点をマークしてジャンプアップしたものの、日本代表に呼ばれるような状況ではなかった。「クロアチアに負けた日から『次は俺がやってやる』という気持ちでしたし、テレビで見た光景は今も覚えています。その気持ちをインスタにも投稿しました。そこから4年がかりでずっと目指してきた舞台に立てた。試合前には『いよいよ始まるんだ』と足が震えるような気持ちにもなりました。この緊張感を楽しみながら、いろんな人の思いを背負って戦わなきゃいけないんだなと感じました」と語る小川。試合前にはペナルティスポットの前に立ち、ゴールを見据えながら、武者震いしていたという。
そこまでの強い感情が湧き上がってきた背景にあったのが、試合前にホテルで行われたミーティング。離脱した遠藤のビデオメッセージが最後に流されたことで、多くの選手が感極まり、闘志を奮い立たせたのだ。「航くんの顔を見るだけでそばにいる気がしますし、みんなを見守っているような感じがしました。航くんは『家族のために、日本中の人々のために戦うところはもちろんあるだろうけど、まずは自分自身のためにやってほしい』と言っていました」。これを受け、小川は試合前にゴールを見ながら自分と向き合い、同点ゴールをお膳立てするという大仕事をやってのけたのだ。
こうして鮮烈なワールドカップデビューを果たした。28歳というのは遅咲きだが、小川の場合はここからが旬。次戦のチュニジア代表戦から明確な数字を残し、チームを勝たせていくことができれば、ここまでの苦労も報われる。そのチュニジア代表は初戦でスウェーデン代表に1−5で大敗。次戦は勝負を賭けてくると見られるため、日本代表にとっては難しい戦いになるかもしれない。そこで確実に仕留められる男・小川が持てる能力を遺憾なく発揮してくれれば理想的。本当の勝負はここからだ。
取材・文=元川悦子
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