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王者レアル・マドリーのシーズン総括。マドリディスタが確信する“黄金時代”の到来

2012.05.25

ワールドサッカーキング 2012.06.07(No.216)掲載]
 2年目でビッグタイトルを獲得する公約を果たし、4シーズンぶり32回目のリーガ優勝を達成した“モウ・マドリー”。無敵のバルサを乗り越えたチームはいかなる進化を遂げて栄光を勝ち取ったのか。黄金時代到来に向け、確実な一歩を踏み出したレアル・マドリーの今シーズンを現地記者が総括する。

Text by Jose Felix Diaz Fernandes, Translation and organization by Minato TAKAYAMA

■2年目で打倒バルサを果たしたモウリーニョ

 ジョゼ・モウリーニョ2年目のシーズンはポジティブな結果だったと言えるだろう。昨シーズンのレアル・マドリーは、コパ・デル・レイのタイトル獲得のみに終わった。これはマドリーのような伝統と歴史を誇るチームにとっては物足りないものである。それに比べると、今シーズンのマドリーは4シーズンぶり32回目のリーガ優勝を達成し、チャンピオンズリーグ(以下CL)でも準決勝に進出。バイエルンの前に敗退したとはいえ、ツキがすべてを支配するPK戦での敗退であったことに、マドリディスタ(マドリーのフン)の多くは悔しがりながらも希望を抱くことができた。

 ジネディーヌ・ジダンのゴールでレヴァークーゼンを下し、クラブ史上9回目のビッグイヤーを手にしたのが2001ー02シーズン。その10年後にヨーロッパの王座に復帰するという夢が準決勝でついえたことは、マドリディスタにとって非常に残念なことである。しかし、モウリーニョにとっての今シーズンの最大目標はバルサを倒すことだった。カンプノウでバルサを倒して、リーガ優勝を決定づけたことはマドリディスタを満足させるに十分な“成果”と言えるだろう。その上でCLの決勝に進むことができていたら、マドリーの真の勝利の年として位置づけられていたのだが……。

 それでも、コパ・デル・レイ優勝のみにとどまった昨シーズンに比べれば、はるかにポジティブなシーズンだったと言える。モウリーニョと彼が率いるスーパースター軍団の戦いぶりは来シーズン、10回目の欧州制覇の実現を期待させるだけのものだった。

■野望溢れるマドリーと落日のバルサ王朝

 今シーズンのマドリーは、その実力がバルサと同等だということを証明した。しかし、意地悪な見方をすれば「マドリーがバルサを上回ったのではなく、バルサが衰えた」とも言える。確かに、バルサは“沈下”とは言わないまでも、“劣化”を起こし始めているのは確かだ。この3年間、バルサはほぼすべてのタイトルを独占して文字通り無敵であった。マドリーがどれだけ永遠のライバルであることを主張しても、そんなことが無意味であるかのように圧倒的な強さで勝ち続けていたのだ。だが、今シーズンのバルサにはこれまでは見られなかったような単純なミスがいくつも見られた。かつてのバルサは“完璧なマシーン”だったが、自信過剰、疲労、モチベーションの低下など様々な原因がバルサのサッカーを劣化させたようだ。

 一方、マドリーはハングリー精神に満ち溢れていた。モウリーニョを始め、マドリーの選手、スタッフ、そして、マドリディスタの全員が、大きな野望を抱いていたのだ。マドリーにその野望を植えつけたのはモウリーニョである。彼は独特のコミュニケーション能力で、チーム全体に魔法を掛けた。マドリーを旺盛な闘争心を持つチームへと変身させたモウリーニョの能力は評価に値する。彼はレギュラー選手、控えの選手を問わず、チーム全員にモチベーションを植えつけ“戦う集団”へと変貌させたのだ。

 勝利とタイトルが日常化してしまったバルサと、強い気持ちでタイトルを追い求めるマドリーの間に、最後の瞬間まで戦い抜くという気持ちに違いがあったのは当然の結果だったと言える。最後の最後は、「勝ちたいという気持ちが強いほうが勝つ」ということが証明されたシーズンだったと言える。

 今シーズンのマドリーとバルサの明暗は、“政権交代”の予兆とも捉えることもできる。マドリーはモウリーニョの確かなビジョンの下、来シーズンも成長し続けるはずである。なぜなら、彼の頭には「現状維持」という考えは存在しない。モウリーニョがマドリーの監督である限り、マドリーは進化を続けるはずだ。一方、バルサはジョゼップ・グアルディオラが辞任を表明し、チームの指揮権はアシスタントコーチのティト・ビラノバに委ねられることになった。彼は、グアルディオラのサッカー、バルサのサッカーを熟知する人物。バルサのサッカーが継承されることに関して、多くのクレ(バルセロナのファンの愛称)はビラノバの監督就任を好意的に受け入れているようだ。ただ、リオネル・メッシ、カルラス・プジョル、セスク・ファブレガス、アンドレス・イニエスタ、チャビなど、世界屈指のスーパースターをまとめ上げる困難なミッションを、トップチームの監督経験のない人物に託すのはバルサにとって危険な賭けであると言わざるを得ない。

■強じんな精神力がバルサ越えの要因

 マドリーが打倒バルサを果たした要因については、「カウンターの精度が上がった」、「強力な攻撃陣が機能した」など、チームの完成度が高まったことを理由に挙げる人が多い。だが、最大の要因は精神面の強さにある。

 マドリーは、昨年の12月にホームのサンティアゴ・ベルナベウで行われたクラシコで、1ー3の完敗を喫した。開始早々にカリム・ベンゼマのゴールで先制したものの、前半のうちにアレクシス・サンチェスに同点ゴールを奪われると、後半にチャビとファブレガスにゴールを決められ完敗した。ホームで屈辱的な敗戦を喫したことで、多くのマドリディスタは昨シーズンの悪夢ーークラシコで敗れた後に失速して首位から陥落するーーがまた繰り返されるのかと思った。この試合、マドリーは明らかにバルサに劣っていることを露呈した。昨シーズンまでのマドリーだったら、この時点でガタガタと音を立てて崩れ落ちていたことだろう。だが、今シーズンのマドリーは違った。マドリーは翌週に敵地でのセビージャ戦でゴレアーダ(大量得点)による勝利を手にすると、続くホームのグラナダ戦でも5ー1の大勝。彼らはバルサ戦での完敗後、かつてなかったような驚異の反発力を示したのだ。

 そして、彼らはバルサに敗れた次の試合から11試合連続勝利を記録した。マドリーが11試合で勝ち点33を手にしたのに対し、クラシコで快勝したことによって気が緩み集中力を欠いたバルサは、その後、格下のエスパニョールやビジャレアルと引き分け、オサスナ戦ではまさかの敗北を喫している。マドリーが第27節のベティス戦で勝利した時点で、バルサとの勝ち点差は10ポイントにも開いていた。グアルディオラはこの時点で敗北宣言をせざるを得なかった。

 モウリーニョのマドリーのスタイルにバルサのように華やかさはない。しかし、ゴールを奪うという点ではバルサをはるかに凌駕していた。選手は試合中、高い集中力を維持して戦術を遂行し、どんな相手でも一切手を抜こうとはしなかった。“完璧なマシーン”として機能したマドリーは、パワーとスピードを融合させた独自のスタイルでバルサを上回ったのだ。

■驚異的な得点力を見せた3人のアタッカー

 今シーズンのマドリーは、多くの記録を塗り替えている。5月にはサン・マメスでのアスレティック・ビルバオ戦で勝利し、アウェーでの勝利数を15として、リーガの新記録を樹立(それまでの記録は2010ー11シーズンのバルサの14)。さらに、第37節のアウェー戦でも勝利を収め、記録は16に伸びた。

 史上初めて勝ち点100の大台を突破し、何より驚くべきは、総得点で121を記録し、89ー90シーズンにジョン・トシャック監督の下で“キンタ・デル・ブイトレ”とウーゴ・サンチェスらが記録したシーズン107ゴールを大きく上回ったことだ。とりわけ、クリスチアーノ・ロナウドが46ゴール、ゴンサロ・イグアインが22ゴール、ベンゼマが21ゴールと、前線の破壊力は過去に類を見ないほどすさまじいものだった。

 3人の中でもC・ロナウドのパフォーマンスはまさに圧巻だった。“CR7”にはメッシのような“悪魔のドリブル”はない。だが、彼は体内に秘めた強烈なパワーを全開にしてゲームを支配した。C・ロナウドが驚異的な得点力の持ち主であることは誰もが知っていることだが、今シーズンの彼は誰よりも勝負強いアタッカーでもあった。これまでは大舞台のプレッシャーに弱い選手と見なされていたが、カンプ・ノウでのクラシコで決勝ゴールを挙げ、ビッグマッチでも本領を発揮できるだけの精神力が備わっていることを証明してみせたのだ。

 C・ロナウド、イグアイン、ベンゼマの3人は、公式戦で100以上のゴールを記録。これは史上最強のトリデンテ(3トップ)と言われたバルサのサミュエル・エトオ、メッシ、ティエリ・アンリのトリオにも優るものである。そして、この3人の得点能力を最大限に引き出したのがメズート・エジルである。エジルは、恐らくリーガで最も視野の広いプレーヤーだろう。彼の絶妙なパスがあったからこそ、前線の3人がゴールを量産したとも言える。エジルのテクニックの高さ、相手DFが予測できないようなパスをフィードする能力は、世界屈指のレベルにある。リーガ優勝の立役者として、3人のアタッカーに加えてエジルの名も挙げておくべきだろう。

■モウリーニョの続投で黄金時代の到来へ

 マドリーには、来シーズン、大きな目標が2つある。一つは、ビラノバ率いるバルサを再度リーガで制圧すること。そしてもう一つは、今シーズン、PK戦の末に涙をのんだCL優勝の夢を実現することである。その目標を達成する上で最も重要だった指揮官の去就問題は、モウリーニョ自身が自らの口で続投を明言し、2016年までの契約延長にサインが結ばれたことで決着した。主力の去就についても、現時点でシーズン後にマドリーを離れるのではと懸念されているのはイグアインのみ。他の選手はモウリーニョに戦力外と見なされた選手を除き、全員が残留する予定である。

 モウリーニョが続投するということは、マドリーが“世界最強”に向けて常に進化を求めるということである。会長のフロレンティーノ・ペレスは、その目標を達成するための出費は惜しまないと明言している。会長が手にする補強リストには、サンパウロのルーカス、ビルバオのハビ・マルティネス、チェルシーのブラニスラフ・イヴァノヴィッチ、さらにミランのズラタン・イブラヒモヴィッチなどの名前も含まれている。

 来シーズン以降も勝ち続けるために、マドリーは今のリズムを保っていくべきだろう。ダイナミズム溢れるカウンターの精度を更に高め、フィジカルコンディションを常に保たなくてはならない。そして何より重要なのは、バルサを打ち倒す大きな要因となった“壮大なる野望”を持ち続けることである。マドリーとモウリーニョの勝者のメンタリティーがあって初めて、“白い巨人”がリーガとヨーロッパを支配する黄金時代がやってくるのだ。

 マドリッドでは、既に多くの人が、「来シーズンもマドリーがリーガを制する」と信じている。「バルサを世界の頂点に導いたのがグアルディオラだ」と思っている人にとっては、グアルディオラの監督辞任はバルサ王朝の終焉を意味するのだろう。

 マドリーはこれまで、常に大きな疑問を抱きながらシーズンをスタートしてきたが、来シーズンに向けて、より多くの疑問を抱えているのはバルサのほうだ。トップチームの監督としての経験を持たない若き指揮官が、果たしてバルサを適切に指導することができるのか。この点に疑問を持つ向きも少なくない。

 一方、マドリーはかつてなかったような安心感と自信を持って新シーズンを迎えられるはずである。マドリーにおいて、モウリーニョはトップチームに関する権限のすべてを掌握している。選手の獲得と放出など、トップチームの人事に関しては、一応、ペレス会長と、モウリーニョ支持派のホセ・アンヘル・サンチェスGMの3人が相談して決定するということになっている。だが、最終決定権を有するのはモウリーニョである。

 加えて、チーム全体が大きな野望を抱いていることも重要な要素である。今シーズンのマドリーはバルサを倒すことに成功したが、完全にバルサを凌駕したとは言い切れない。モウリーニョの意識の中ではいまだ「打倒バルサ」は実現していないのである。モウリーニョは、バルサを追い越し、そして完全に引き離すために、今後も死力を尽くすつもりである。現在の両チームが置かれている状況を総合的に判断すると、モウリーニョがオーダーメードして作り上げたチームが大きな勝利を手にすると考えるほうが合理的なはずだ。

 ここ数年、マドリディスタはいつも、タイトル獲得は“夢物語”だと思いながら新シーズンを迎えてきた。だが、今やその“夢物語”は現実のものとなり、モウリーニョが築き上げた“ユートピア”での生活を最大限にエンジョイしようとしている。

 そう、マドリディスタたちは今、“黄金時代”の到来を確信しているのだ。

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING @SoccerKingJP』の編集長に就任。

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