高川学園MF林晴己 [写真]=安藤隆人
全ての始まりは1年前、2020年度の選手権初戦だった。高川学園は4人のJリーグ内定選手を擁した昌平と戦った。
下馬評では昌平が有利と言われていたが、立ち上がりに当時2年生のFW中山桂吾が先制弾を挙げると、そこからピッチを広く使った鮮やかなパスサッカーと、前線からの連動したプレスを披露して、昌平を押し込むシーンを増やした。69分にも追加点を挙げ、2-0のリードを奪うと、試合は完全に高川学園ペースになった。
スタジアムにいた多くの人たちも、このまま金星を挙げるかと思っていたが、試合終盤になって動きが硬くなっていったのは高川学園だった。
ミスが目立つようになると、一気に試合の流れは昌平に傾いた。80分にミスからのカウンターで失点すると、後半アディショナルタイム5分にもミスからカウンターで絶好の位置でのFKを与えてしまった。この試合のラストプレーとなったが、同点弾となっていまい、まさに土壇場で追いつかれ、結果的にPK戦の末に涙を飲んだ。
「もう頭の中が真っ白になりました。リードして優位のはずなのに、こっちが慌ててミスをしてしまった」と2年生ゲームメーカーとして出場をしていたMF林晴己が口にしたように、掴みかけていた勝利を自分たちのミスで落としてしまった。
「新チームの立ち上げの時から、『あの昌平戦を絶対に忘れるな』と選手たちに言い続けてきました」(江本孝監督)
この敗戦のピッチに立っていたのはCB加藤寛人、左SB奥野奨太、林、中山、MF北健志郎、FW小澤颯太の6人。彼らが中心となって、悔しさを糧に成長をする1年がスタートをした。
主将を務める奥野は、「あんな悔しい思いはもうしたくありません。みんなとはあの試合の話をしますし、選手権であの借りを返すためにチームとしてまとまらないといけないと言い聞かせながらやってきました。『惜しかったチーム』ではなく、『勝ち切ったチーム』になりたい」と話す。
江本監督、選手たちの気持ちが一つになった状態で新チームがスタートしたことで、春の中国新人大会で優勝という結果を残すと、インターハイでは初戦で静岡学園に0-2で敗れたが、技巧派軍団を相手に真っ向勝負で接戦を演じた。そして今予選では5試合で32得点無失点という圧倒的な結果で3連覇を達成。
「選手権で成長をした姿を見せる」という合言葉を1年間持ち続けたチームは、十分に全国でも戦える戦力を揃えたチームになった。185センチのGK徳若碧都(3年)は抜群のキック力とセービング力を持ち、加藤と期待の1年生CB藤井蒼斗のコンビ、激しいアップダウンを繰り返し、攻守にアクセントを加える奥野らが束ねる守備は固い。さらに、注目すべきはアタッカー陣で、今年から右サイドハーフにコンバートし、独特のステップとボールタッチを刻むドリブルでチャンスを作り出す林、決定力抜群のストライカーである中山のホットラインの破壊力は抜群で、ここに大きなポテンシャルを秘めたFW山本吟侍(1年)もおり、攻撃のバリエーションも豊富だ。
準備は整った。あとは選手権で1年間の集大成を披露するのみ。初戦の相手はインターハイ4強の星稜と相手にとって不足はない。一気に上まで駆け上がらんとモチベーション高く臨む。
取材・文=安藤隆人