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【神村学園】予選直前に主将が大けが…抜水への想いを胸に団結<第100回高校選手権>

2021.12.30

夏のインターハイ予選時の抜水昂太 [写真]=松尾祐希

「抜水を日本一のキャプテンにしよう」。誰からも信頼され、慕われる男は神村学園に必要不可欠な存在だ。それはピッチにいなくても変わらない。

 サッカーの神様は時に残酷で無情だ。どんなに頑張っても微笑んでくれない時もある。左SBとして、チームリーダーとして抜群の輝きを放っていた抜水昂太(3年)に悲劇が起きたのは、選手権予選が始まる10日前だった。U-18高円宮杯プリンスリーグ九州で負傷。競り合った際に着地が上手くいかず、右ひざをひねってしまう。「大けがには見えなかった」と有村圭一郎監督が振り返った通り、本人だけではなくスタッフも軽症だと考えていた。

 当日こそ腫れが引かなかったが、翌日以降は痛みが緩和。2日後に病院に行った際も歩けないほどのモノではなかった。しかし…。下された診断は右ひざの前十字じん帯断裂。「外側のじん帯を少しひねったとは思っていた。ただ、断裂までは考えていなくて…」。想像し難い診断結果に、有村監督も「僕らも重傷ではないと思っていたし、聞いた時はまさかと思いました」と話す。

 チームに大きな動揺が走ったが、抜水不在のチームは再構築を短期間で図るためには立ち止まっていられなかった。とはいえ、彼らはまだ高校生。簡単に気持ちを切り替えられるわけではない。そうした雰囲気を察した抜水は明るい表情を見せ、チームを鼓舞し続けた。もちろん、本人はけがを受け入れ、前を向いていたわけではない。「みんなの前では考えないけど、ちょっと気持ちはまだ落ち着かない」と視線を落としたように、1人になると何度もけがの瞬間が頭をよぎったという。

 心の内を隠し、全力でサポート役に徹したのはチームのためだった。

「自分のことでマイナスの影響を与えられないので、落ち込んだ姿は見せられない」

 気丈に振る舞った抜水の想いはチームにも伝わる。県予選前の合宿中に全体ミーティングで選手たちがそれぞれ選手権への決意を話す場があった。そこで誰もが口にしたのが、抜水への想い。その言葉はどんな言葉よりも胸に響く。今まで以上にチームのために戦うことを決めた。

 抜水のけがをきっかけにチームは一致団結。予選前はまとまりがなく、チグハグな戦いを見せる試合も少なくなかった。しかし、今まで以上に誰もが走り、球際で戦うようになり、チームの雰囲気はガラリと変わった。5試合で33得点1失点。決勝ではライバルの鹿児島城西を4-0で撃破した。リードが広がった後半アディショナルタイムにはピッチに立てない状況だった抜水もテーピングで固定して、優勝の瞬間をピッチで味わえた。

「抜水のおかげで最後にチームがまとまった。不運なけがだったけど、チームには抜水のために『頑張ろう』という想いがある。抜水が報われるような形にしてあげたいし、誰もがあいつのことを思っている。一番努力をしていて、チームのために動いていた。僕自身も本当にこんなに残酷なことがあるのかと思った。でも、最後は自分が身を削ってチームがまとまるようにしてくれたのかもしれない」(有村監督)。

 今年のチームは福田師王や大迫塁などJクラブ注目の2年生コンビを筆頭にタレントが揃い、期待値が高かった。その一方で勝ち切れない試合も多く、まとまりに欠ける試合も少なくない。しかし、大黒柱のけががチームに欠けていた団結力をもたらした。ベンチからチームをサポートするキャプテンの姿を見れば、戦わないわけにはいかない。抜水の想いを胸に、神村学園が最後の冬に挑む。

取材・文=松尾祐希



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