[写真]=Getty Images
ドイツ随一の集客力を誇る人気クラブにして、数々の栄冠を手にしてきた強豪クラブ。それが全ヨーロッパにあまねく知られる名門ドルトムントだ。
ドイツ・ブンデスリーガの発足(1963年)後、初めて手にしたメジャータイトルが、66年のカップウィナーズカップ。ドイツ勢として初めてヨーロッパのカップ戦を制したクラブでもある。もっとも、ブンデスリーガ制覇は90年代を迎えてからだ。ケルト・ニーバウムが会長職に就くと、マティアス・ザマーらドイツ代表の主力選手たちを次々と補強。見事に戦力を充実させ、あっという間に絶対王者バイエルンの座を脅かす存在にのし上がった。
そして、天才肌のMFアンドレアス・メラーを獲得した94-95シーズン、ついに宿願のリーグ優勝を成し遂げる。その勢いは衰えず、翌95-96シーズンも堂々のリーグ連覇。さらに96-97シーズンにはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)を制し、ヨーロッパ最強クラブの座へ上り詰めた。ドイツ勢ではバイエルンに続く快挙だった。決勝では当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったイタリアの名門ユヴェントスに3-1で快勝。戦前の下馬評を覆し、勝利へと導いた指揮官のオットマール・ヒッツフェルトはその評価を高め、名将の仲間入りを果たしている。
当時は4バックのゾーナル・プレッシングが戦術面での一大トレンドだったが、ヒッツフェルト率いるドルトムントはドイツ伝統の3バックによるリベロ・システムを操って頂点に立ったのも興味深かった。その要でもあったザマーは“皇帝”フランツ・ベッケンバウアー以来の名リベロとして躍動。ドイツ代表でもEURO96制覇に貢献し、同年末に『フランス・フットボール』誌選定のバロンドール(ヨーロッパ年間最優秀選手賞)に輝いている。なお、ドイツ人では4人目、DFとしてはベッケンバウアー以来の受賞となった。
CL初制覇以後、主力の高齢化に伴い、戦績は下降線の一途をたどるが、2000年夏を境にV字回復を遂げることになる。99年夏に現役を退き、ヘッドコーチを務めていたザマー(当時32歳)が新たな指揮官に就任。このクラブ史上最年少監督は余剰人員の整理を含め、沈みかけていたチームを鮮やかに立て直し、リーグ戦で3位へと導いた。さらに、戦力を充実させた翌01-02シーズンに久々のリーグ制覇。前シーズンの途中に加入したチェコ代表の司令塔トマス・ロシツキーが中盤で華麗にタクトを振るい、チェコ代表の大巨人ヤン・コレルとブラジル代表の鬼才マルシオ・アモローゾら新加入のアタック陣がゴールラッシュを演じている。
だが、栄華は長く続かなかった。フロントの戦略ミスで経営危機に直面。巨額の損失を抱え込み、一時は債務超過で破綻寸前まで追い込まれた。その後、ニーバウムが会長職を離れ、新CEOに就任したハンス・ヨアヒム・ヴァツケらを中心にクラブを再建。若手の育成に大きく舵を切り、ベテランの域に達したスター選手たちの放出に踏み切った。常に若く優秀なタレントが集う《シン・ドルトムント》の始まり――と、言ってもいい。
再びトップクラブの座へ返り咲くのが10年代。つまりは、名将ユルゲン・クロップに率いられた時代である。伏兵マインツを躍進させたクロップの手腕に惚れ込み、新監督へ迎え入れたのが08年夏。それからシーズンを追うごとにチーム力を高めると、ポーランドの点取り屋ロベルト・レヴァンドフスキや日本の攻撃的MF香川真司を獲得した10-11シーズンに念願のリーグ制覇を果たすことになった。黄金時代の幕開けである。香川の見事な活躍もあり、ドルトムントの名が日本で大きく広まるのもこの頃からだ。
最終ラインを束ねるマッツ・フンメルスはもちろん、中盤の司令塔イルカイ・ギュンドアン、天才マリオ・ゲッツェらドイツの誇る若きタレントが次々とブレイク。まるで五輪代表のような若者たち(23歳以下)の演じる高強度のフットボールが観る者を驚かせた。その金看板こそ、いつでもどこでも失ったボールの即時奪回を試みるゲーゲン・プレッシングだ。
ただの守備戦術ではない。クロップによれば「ゲーゲン・プレッシングこそ最高の司令塔」である。ボールを刈り取った瞬間、総じて相手側の防御組織は整っておらず、逆襲に転じやすいというわけだ。事実、ドルトムントの試みる《奪取速攻》の破壊力は絶大だった。
伝統的なリベロ・システムの成功ゆえに、ゾーナル・プレッシングの導入が遅れたドイツにおいて、新時代を切り拓く斬新なプレッシング戦術の使い手が現れたのだから面白い。リーグ連覇に加え、12-13シーズンにはCLのファイナルに進出。だが、惜しくも決勝で敗れ、涙を呑んだ。相手は同シーズンからゲーゲン・プレッシングを採り入れ、格段に強くなったバイエルンだった。
やがてクロップ時代は終わりを告げる。香川を筆頭とする主力選手の多くが次々と金満クラブに引き抜かれていった。それも健全経営を誓い、若手の育成に舵を切ったクラブの宿命か。人材の流出ペースに供給が追いつかなければ、高いチーム力を維持するのが難しくなる。そのリスクを認識するクラブは常に国の内外にアンテナを張りめぐらせ、未来のスター候補生を掘り当てる作業に力を尽くしてきた。実際、昨今のフットボール界で話題を振りまくメガタレントがドルトムントのユニフォームに袖を通している。ノルウェー代表の怪物FWアーリング・ハーランド(マンチェスター・シティ)やイングランドが誇る万能型MFジュード・ベリンガム(レアル・マドリード)がそうだ。
指揮官が代わってもクロップ時代に始まったハイインテンシティのフットボールを継続しつつ、将来を嘱望される若きタレントたちがクラブを支えてきた。昨季もまた、クラブのDNAの何たるかを知るエディン・テルジッチ監督の下、絶えずフルスロットルのフットボールを展開し、最後の最後までリーグの覇権を争った。いまもって、クラブの伝統はしかと息づいている。
そんなドイツきっての強豪クラブがこの夏、日本へやって来ることになった。果たして、どんな戦いを演じてみせるか。未来の出来事は予測しがたいが、ドルトムントらしい全速前進のフットボールを目撃できるはずだ。彼らがクラブのDNAを手離さぬ限りーー。
文=北條聡
セレッソ大阪 vs ドルトムント
■開催概要
正式名称:EUROJAPAN CUP 2024
対戦カード:セレッソ大阪 vs ドルトムント
試合会場:ヤンマースタジアム長居
開催日時:2024年7月24日(水)19:15試合開始/16:15開場予定