[写真]=Getty Images
ピーク時は60人以上がプレー
チャナティップ(北海道コンサドーレ札幌)、ティーラトン(横浜F・マリノス)、ティーラシン(清水エスパルス)と、タイのトップ選手たちが「提携国枠」でJリーグでプレーするのは当たり前の時代となったが、反対にタイリーグでも以前から多くの日本人選手がプレーしている。
タイでプレーする日本人選手は2010年頃から徐々に増え始め、岩政大樹、カレン・ロバート、茂庭照幸、西紀寛、黒部光昭、青山直晃、ハーフナー・マイク、細貝萌といった日本代表クラスの経歴がある選手たちも次々とタイリーグへ移籍した。人数的なピークを迎えた2014年から2015年にかけては、最大で60人以上の日本人選手がプレーしていたこともある。その後は「アジア枠」の減少などもあって数を減らしているものの、近年も安定して40人前後の日本人選手がプレーする状況が続いている。
指導者やクラブスタッフなどとして関わる者も少なくない。監督だけを見ても2014年に名門のチョンブリーFCを率いて年間最優秀監督となった和田昌裕氏や、2013年から現在までタイのクラブを指揮し続けている神戸清雄氏、そのほかにも三浦泰年氏や副島博志氏といったJクラブの監督経験者もタイリーグで指揮を執った。
タイのチームを率いる日本人指揮官といえば、今はタイ代表の西野朗監督がいる。昨年7月にA代表とU-23代表の兼任監督として就任すると、すぐにカタール・ワールドカップの予選に突入。現在のところ、W杯アジア2次予選では混戦のグループGで2勝2分け1敗の3位につけている。今年1月のAFC U-23選手権ではタイを史上初のベスト8に導いたが、現時点ではまだタイ代表監督としての評価を下すのは難しい段階といえる。
それにもかかわらず、西野監督の人気は非常に高い。就任時からタイのファンの期待は高く、昨年10月にホームでUAEを2-1と下したことで“西野支持”の機運は一気に高まった。現地のサッカーファンに尋ねても、就任当初からこれほどまでに高い支持を集めた監督は記憶にないという。
日本人はクラブのフロントや代表スタッフにも
西野監督はなぜ、タイのファンの心をつかむことができたのか。そのベースには、タイサッカー界にある日本サッカーに対する特別なまなざしがある。タイには「親日国」のイメージがあるが、サッカーにおいてもタイは日本に対して特別な敬意を持ち、アジアの盟主として一つの目標としているところがある。異様なまでの西野監督の人気は、そうしたタイの人々のスタンスが如実に表れたものでもある。
西野監督の人気もあって、今シーズンはタイリーグでも日本人監督が増えている。昨シーズンのタイリーグ王者であるチェンライ・ユナイテッドの監督には滝雅美氏、初タイトルを狙うサムットプラカーン・シティの監督には元鹿島アントラーズ監督の石井正忠氏が就任。今シーズンは、日本人監督が率いるチームが優勝争いを演じる可能性も十分にある。
選手と指導者以外にも、タイサッカー界には多くの日本人が関わっている。西野監督率いるタイ代表のスタッフには、以前はともにチョンブリーFCに所属していた小倉敦生氏とトレーナーの白木庸平氏というタイサッカーをよく知る2人の日本人がいる。タイリーグクラブのフロントやトレーナーなどのスタッフ陣にも複数の日本人がいて、近年はタイリーグでプレーした日本人選手が、セカンドキャリアもそのままタイで歩み始めるケースも出始めている。
タイ人選手が日本でプレーするようになってからはまだ日が浅いが、日本人がタイサッカー界に深く関わるようになってからは約10年が経過した。チャナティップやティーラトンらが鮮烈な活躍を見せていることでJリーグにおけるタイ人の存在感は高まった。同時に、タイのサッカー界における日本人の存在感もさらに深まりを見せている。
文=本多辰成