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「『どんな付加価値を与えられるのか』を明確に設定しておくことが大事」 第7回 渡邉和史さん(日本コカ・コーラ株式会社)

2015.10.13

構成=波多野友子 写真=兼子愼一郎

将来日本サッカーのために貢献したいと願っているけれど、どんな場所で、どんな形でかかわる事ができるかわからない……。そう悩んでいる人は多いのではないでしょうか。この連載『サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた』では、サッカー業界を舞台に働くさまざまな人たちにスポットを当て、仕事の魅力に迫っていきます。今回は、男子・女子サッカーの専門学校「JAPANサッカーカレッジ」のサッカービジネス科2年生の矢島みらの(やじま・みらの)さんがインタビュアーを務めました。

お話を伺ったのは、日本コカ・コーラ株式会社マーケティング本部で働く渡邉和史(わたなべ・かずふみ)さん。渡邉さんは、2009年からJリーグトップパートナーとして日本サッカー界を支える同社のマーケティング アセッツ グループマネジャーを務めています。Jリーグを筆頭にスポーツマーケティング事業全般を統括し、FIFAやオリンピックなどのスポーツ大会を中心に、どうすればコカ・コーラ製品を魅力的にアピールできるかを、契約選手を巻き込みながら企画・実施しています。大手広告代理店やFIFAなど、さまざまな職場でスポーツマーケティング一筋を貫いてきた渡邉さんならではの仕事観は、サッカービジネスを目指す若者の皆さん必読です。

スポーツマーケティングに携わるようになったきっかけを教えてください。

高校までアメリカで暮らしていたのですが、完全に日本人がマイノリティな環境だったんです。日本のことが全然知られていないと肌で感じることも多く、毎日悔しく思っていました。日本へ帰国して就職活動に励んでいたちょうどその頃、メジャーリーグで野茂英雄選手がノーヒットノーランという偉業を達成し、“侍魂”をアメリカ人に見せつけてくれたんです。「スポーツは言語という壁を越えて、他の国へ興味を持たせるきっかけになる」ということに改めて気づかされました。

そこで「スポーツを題材にして日本の存在を世界にアピールしていく」という目標をライフコンセプトに据えることに決めたんです。テレビ局の試験では、「相撲をアメリカ人向けにMTVっぽく実況したい」とアピールし、面接官に驚かれました。アナウンサーとして内定をもらったのですが、表舞台に立つことは本望ではなく……。そんな折「スポーツに協賛する企業のマーケティング」という職種があると聞き、これだと思いアプローチしました。そして無事広告代理店の入社試験に合格し、この仕事に就くことができたんです。そこから18年、場所は変わっても「スポーツを題材にして日本の存在を世界にアピールしていく」というひとつのライフコンセプトを追求し続けています。

スポーツマーケティングの仕事で苦労した体験は?

日本でイベントを開催するとなると、開催日から逆算して打ち合わせを何度も重ね、万全の態勢で当日を迎えますよね。そういった常識が全く通用しない国外の仕事では、大変な思いをしました。

広告代理店に入社して、初めて本格的にスポーツマーケティングにかかわった仕事が、南米で開催されたリベルタドーレス杯の運営だったんです。南米のサッカークラブ王者を決める大会ですね。スタジアムに到着すると、完成している予定の看板が見当たらず、現地スタッフに尋ねると「これからつくるから問題ない」と言われました。そして実際にできあがったものは、油性ペンでスポンサー会社の名前が大きく描かれた看板でした(苦笑)。それから、手配していたVIP用のチケットがいつまで待っても届かず、スタッフに尋ねると案の定「大丈夫、大丈夫」と。ようやく手に入ったのがキックオフの30分前だったとか、本当にピリピリしっぱなしでした。国によっては日本の常識が必ずしも通用しないという現実を身をもって知ることができたのは、今となってはいい勉強になったと思います。

仕事でやりがいを感じていることはなんですか?

担当している「COPA COCA-COLA(コパ コカ・コーラ)」という中学生向けのサッカー大会では、コカ・コーラ社にしかできないグローバルな試みにかかわれているという点で、大きなやりがいを感じています。

この大会は「お客様の健康とハピネスに貢献する活動」の一環として世界中で開催しているものですが、日本ではこの夏3年目を迎えました。今年は「11の個性を集めよう」というテーマを設け、「韋駄天」「守護神」「挑戦者」など、11種類のキャラクターを子どもたちに割り振ったんです。サッカーを通じて、キャラクターを演じる楽しさを味わってもらおうという、日本初の企画でした。友達に誘われて嫌々参加したという女の子もいましたが、大会の最後にはいきいきとした表情を見せてくれ、子どもたちの夏の思い出づくりに貢献できたとうれしく感じましたね。

仕事を円滑に進めるにあたって、人脈づくりのコツはありますか?

サッカーの仕事(例えば日本代表の試合)でスタジアムに行くと、さまざまな仕事でサッカーに携わる人が集まってきます。誰もが日本サッカー発展のために強い信念を持って働いているので、特別意識しなくても自然とリスペクトし合う関係が築けているんです。謙虚な姿勢を忘れなければ、周りから好かれますし、仕事もスムーズに進むものです。強いて言うなら、代理店で培った人間関係のバランス感覚が人脈づくりの役に立っているかもしれません。

ビジネススキルを磨くために心がけていることはなんですか?

気になることがあったら、できるだけ現地へ足を運ぶことでしょうか。「百聞は一見にしかず」だと思っているので、ネットの情報を鵜呑みにすることはまずありません。たとえば僕はよく、プライベートで地元のJ1チームの試合を観戦に行くんですが、ゴール裏で熱心に応援しているサポーターのクラブ愛を目の当たりにします。そうすると、次に日本代表戦へ行ったとき、サポーターの属性の違いをリアルに感じることができるんです。では、J3のサポーターはどうだろうか……。そんな具合に、消費者が求めているものを現地で探していく。スタジアムには、結構ビジネスチャンスが転がっているものなんですよ。

スポーツマーケティングの仕事に就くために必要な準備とは?

この業界に入ったときに「どんな付加価値を与えられるのか」を明確に設定しておくことですね。スポーツ関係の仕事に就きたい人のなかには、選手と仕事がしたいとかスタジアムに出入りしたいとか、興味本位の動機を持つ人も少なくありません。もちろんそれもひとつのモチベーションではあるのですが、それだけでは道に迷ってしまうこともあると思います。

僕は18年間この世界で働いていますが、「スポーツを通じて日本を世界へアピールする」というコンセプトがぶれたことは一度もありません。自分なりのコンセプトを明確にすることで、本当にスポーツマーケティングを目指すべきなのか、あるいはJクラブなのか、スポーツ店なのか、進むべき方向を見失わずに済むはずです。

今後仕事をしていく上で、実現してみたいことはなんですか?

たくさんありますが、日本のクラフトマンシップをスポーツを通じて世界に評価してもらうことですね。僕は今、アメリカで生まれて世界中で愛される「コカ・コーラ」という製品をマーケティングしていますが、その逆のことをやってみたい。日本で生まれて世界で認められるものを、腰を据えてマーケティングしたいんです。

「ライフコンセプト」という目指すゴールはひとつですが、そこへたどり着くまでのプロセスは、必ずしもひとつではないんですよね。どれを選んでもハッピーに仕事ができるようなプロセスを3つくらい持っておける人というのは、将来を見据えたときに人生がうまくいくんじゃないかなと僕は思っています。


サッカーの仕事を直接教えてくれた人
渡邉和史(わたなべ・かずふみ)さん

アメリカのカリフォルニアで育ち、大学入学とともに日本へ帰国。1997年広告代理店へ入社後、南米で開催されたリベルタドーレス杯の担当を任される。決勝戦で、強風にあおられた看板を身をていして抑える姿をFIFA関係者が見ていたのが縁となり、2000年にFIFAへ転職。2002年日韓ワールドカップの際、日本の組織委員会との調整役として、スポンサーである韓国の自動車数千台を国内へ運び入れるなど活躍した。その後広告代理店へ復職、中国のフットサル大会の担当を努めるも、スポーツマーケティングの仕事をより極めるべく2011年に日本コカ・コーラ株式会社へ転職し、現在に至る。

サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた
・「視聴者から反響があった時は本当にうれしい」第1回 岡 光徳さん(テレビ朝日 GetSports)
・「サッカーの仕事を始めたきっかけは、日本サッカー協会への出向」 第2回 松本健一郎さん(西鉄旅行株式会社)
・「サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた」 第3回 山崎祐仁さん(株式会社 ニューバランス ジャパン)
・「サッカーを仕事にしたいので、現場で働いている人に直接聞いてみた」第4回 上野山信行さん(株式会社 ガンバ大阪)
・「サッカー愛とビジネススキルを兼ね備えた人材」が求められている 第5回 幸野健一さん(アーセナルサッカースクール市川)
・「『人から可愛がられる』という要素が仕事スキル以上に重要かもしれません」 第6回 岡本文幸さん(鹿島アントラーズ)

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