2013.02.08

イングランドでアジアの評価を高めた“新人”香川真司

文●藤井 重隆 写真●Getty Images
香川真司

 現在、イングランドでは「東アジア選手」という括りで日本人選手への評価が上昇している。地元テレビ局の「プレスパス」というサッカー批評番組では、英国のクラブに在籍する日本選手と韓国選手が紹介された。安定した出場機会を得ているマンチェスター・ユナイテッドのMF香川真司とサウサンプトンのDF吉田麻也の名前も触れられ、プレミアリーグが本格的に始めた即戦力としての若手東アジア選手のスカウトについて議論された。

 2002年日韓ワールドカップ以降、日本人では中村俊輔がスコットランドのセルティックへ移籍したが、プレミアリーグのトップレベルで活躍した東アジア人選手はマンチェスター・Uに在籍した元韓国代表MF朴智星(現QPR)のみだった。「プレスパス」では、一昔前までの東アジア選手の平均能力は、イングランド2部かスコットランド1部のレベルだったが、最近はプレミアリーグで活躍できる選手が増えてきたことを評価している。本稿では朴智星の後釜的「東アジア選手」として今シーズン、マンチェスター・Uに加入した香川の最近の現地評を紹介したい。

 今シーズン開幕からリーグ戦6試合で2得点を挙げた香川は、10月に行われたチャンピオンズリーグのブラガ戦で左ひざを負傷。約2カ月間の離脱を強いられた。その間に14試合に欠場した香川は昨年末に復帰を果たしたが、試合勘の欠如とローテーションの意味合いから、先発5回(フル出場1回)、途中出場2回、欠場2回と出場時間が制限されており、得意とするトップ下もFWルーニーに奪われた格好となっている。一方、マンチェスター・Uは第25節を終えてリーグ12戦無敗で2位マンチェスター・Cに勝ち点9差をつけているが、昨シーズンは勝ち点8差を逆転されただけに、最終節まで気は抜けない。

 チーム好調の要因としては、今シーズン序盤戦に離脱していた守備陣の復帰が背景にある。1月の移籍市場でも即戦力の補強はしなかったが、結果とは裏腹に試合内容を見ると以前から続く不安定なGKに加え、不調気味の両MFと守備的MFなど、新たな問題点もいくつか生じている。その一つに定まらない香川のポジションが挙げられている。

 24日付の英大衆紙ミラーは、「香川、自身の不調を自白」と題し、以下のようなインタビューを掲載した。

「僕はもっといいプレーをする必要があると感じている。ここでの自分のプレーには全く満足していない。世界で も有名な強豪クラブでの重圧を克服する必要があるし、精神的にも強くなる必要がある。運悪く、僕は開幕して数カ月で負傷したけど、チームが勝ち続けるためにも選手として成長しなくてはいけない」

 本人のコメントに呼応するように、現地での香川評は「実力を最大限に発揮できていない」、「チームへの順応 に時間がかかっている」というものばかり。昨夏の移籍以来、香川とマンチェスター・Uのプレースタイルの間には摩擦が生じている。ファーガソン監督は今シーズン、従来の4-4-2や4-4-1-1に加え、現代的な4-2-3-1や4-3-3の変則的布陣も試しているが、第2ストライカーとして香川の得意とするトップ下の位置には、FWルーニーが優先して起用されている。その理由として、時に最終ラインまで戻る守備の意識、攻撃では香川の離脱中に築いたFWファン・ペルシーとの連係の良さが挙げられる。

 さらに、香川はファーガソンが過去26年間で初めて手にした特異なスタイルを持つ選手とも称されており、監督は今シーズン限りで引退が濃厚となっているベテランMFスコールズとギグスの後釜的存在として、香川に中盤の万能選手的役目を期待している。同監督がいまだに伝統的布陣の4-4-2に固執して結果を築いている事からも、ドルトムント時代の布陣である4-2-3-1を好む香川との間には埋められないギャップがある。

 だが、香川にも復調の兆しが見えている。地元メディアで香川が今年に入って最も高評価を得たプレーはリヴァプール戦の先制点に絡んだプレーだった。日本代表での定位置と同じ左MFを任された香川は、マンチェスター・Uが意図するサイドに張って縦へ突破する動きではなく、本来得意とする中央の位置へ流動的に動き、狭いスペースで味方との素早い連係を積極的に試みた。それが奏功し、左サイドを前進したDFエヴラにボールが展開され、そこからのクロスがファン・ペルシーのゴールを生んだ。

 今シーズン15試合2得点という成績は、ドルトムント時代の昨シーズンを大幅に下回っているが、毎試合のパス成功率が常に9割周辺と、ボール保持力の高い香川に寄せられる周囲の期待は大きい。英メディアで香川はマンチェスター・Cのシルバやチェルシーのマタなどと度々比較され、今シーズン終了後にマンチェスター・Uが香川再生のために古巣ドルトムントからポーランド代表FWレヴァンドフスキを獲得するとも報じられている。

 代表戦明けは、特に招集された選手の多い強豪クラブが選手の疲れにより不調に陥りやすい傾向がある。そんな中、香川が今後の試合で左MFでの定位置を確保し、ドルトムントで相手の脅威だったペナルティエリア周辺でのFW陣との連係が深まれば、得点やアシストの数も増える事だろう。2月13日に行われるチャンピオンズリーグ、決勝トーナメント1回戦では、敵地でレアル・マドリードとの大一番が控えるが、そこで爆発する香川にも期待が集まる。