2013.01.23

日本人プレーヤーがリーガで成功できない理由

ワールドサッカーキング 0207号 掲載]

wsk_0207_spain

スペインにはヨーロッパや南米、そしてアフリカから
才能豊かな選手が続々と集まり、活躍を見せている。
メッシやアグエロにはクラブ側が多額の投資を行い、
エトオは不屈の闘志で成功をつかみ取った。
では、日本人プレーヤーはなぜ、リーガで成功できないのか。
継続的に活躍するためには、いったい何が必要なのだろうか。

文=ホセ・ルイス・カルデロン
翻訳=オフィス・アドオン
協力= EIS
写真=ムツ・カワモリ、ゲッティ イメージズ、フォトスポーツ

不可解なショック療法がチーム崩壊の危機を招く

 2013年のサッカー界は、これまでと同じように大きな楽しみを我々に与えてくれるだろう。12―13シーズンはもちろん、その後には日本とスペインも出場するコンフェデレーションズカップが控えている。来年のブラジル・ワールドカップの前哨戦となるこの大会で、各大陸の王者がどのような戦いを見せるのか注目だ。 

 とはいうものの、やはり最近起きたショッキングなニュースに触れないわけにはいかない。レアル・マドリーの内紛についてである。彼らはバルセロナの独走を許し、リーガ・エスパニョーラ優勝の可能性が極めて低くなった。フロレンティーノ・ペレス会長はうわさされるジョゼ・モウリーニョ監督の解任を否定し、クラブ内外の騒音を抑えようとしたものの、そのモウリーニョ自身が年末のマラガ戦で絶対的守護神であるイケル・カシージャスを先発から外すという“奇行”に走り、更に物議を醸した。モウリーニョはカシージャスをベンチに送った理由について「“快適な状態”は選手のためにならない」と説明したが、その試合でマドリーはマラガに2―3で敗れてしまっている。 

 モウリーニョは「たとえカシージャスであっても絶対的な存在ではない」というメッセージを送り、後半戦に向けて選手たちの気持ちを引き締めたかったのかもしれない。だが、カシージャスは練習で手を抜いたり、試合で物足りないプレーをしたりといった、レギュラーという立場にあぐらをかく行動をする選手だろうか。私には、とてもそうは思えない。カシージャスのような模範的な選手を“見せしめ”にすると選手たちは委縮してしまい、プレーのダイナミズムも生まれなくなる。マドリーに残されたタイトル獲得のチャンスはコパ・デル・レイとチャンピオンズリーグだが、チーム内に監督の目を恐れる雰囲気があるようでは、土壇場で信じられないパワーを発揮する“火事場の馬鹿力”は期待できない。モウリーニョは確かに優れた監督だが、このカシージャスを巡る振る舞いは明らかに失敗で、マドリーを更なる苦境に追い込むだけだ。

活躍できると踏めば若手にも高額を積む

 さて、今回のテーマはリーガの外国人事情についてである。バロン・ドールは4年連続でリオネル・メッシが受賞したが、最終候補に残ったアンドレス・イニエスタとクリスチアーノ・ロナウドも含めて世界を代表する選手がいずれもリーガでプレーしていることは興味深い。イニエスタはスペイン最高の選手であり、メッシは南米、ロナウドはヨーロッパを代表するプレーヤーだ。つまり、リーガにはスペイン、南米、そして欧州最高の選手がそろっていて、それはリーガが各大陸の選手を引きつける何かを持っていることを示唆している。
 
 もちろん、マドリーやバルサという世界屈指のビッグクラブの存在は大きな理由だろう。トップクラスの選手を呼び寄せるためには、それだけの資金力が必要になる。かつてテレビ放映権バブルが絶頂だった時代には、この2強以外にも多くのクラブが世界中から優れた才能を呼び寄せていた。例えば、今はギリギリの経営を続けているデポルティーボはベベット、リヴァウドといったブラジル屈指のスターを始め、モロッコのヌルディン・ナイベトやカメルーンのジャック・ソンゴオら、アフリカからもトッププレーヤーを獲得していた。その後、テレビ放映権バブルがはじけたことで各クラブの経営は火の車となり、世界中のスターを呼び寄せるのは限られたクラブだけになった。 

 そして、スターダムにのし上がる前の才能をいち早く発掘する補強策がスタンダードになった。代表的な例としてメッシを挙げれば分かりやすいだろう。わずか13歳の、しかもアルゼンチンからやって来た少年に投資することを決めたバルサは、その時点ではそれなりの金額を支払ったが、現在のメッシがクラブにもたらす莫大な利益を考えれば微々たる投資だった。一方、メッシの同胞であり親友であるセルヒオ・アグエロは、18歳の時に約25億円の移籍金でインデペンディエンテからアトレティコ・マドリーに移籍した。18歳の若者にこれだけの金額を投じたのは、アグエロがいかに優れた才能の持ち主であるかに加え、彼がスペインという土地になじんで活躍するという算段がアトレティコにあったことも示している。同じスペイン語を話す土地で同胞のコミュニティーも多く、家族を呼び寄せても暮らしやすい。家族とともに過ごすことが容易であることは選手に精神的な安定をもたらし、ピッチで実力を発揮する可能性が高くなる。
 
 もちろん、彼らにサッカー選手としてのクオリティーが備わっていなければ、生活環境がどんなに過ごしやすくとも相応の結果を残すことはできない。だが、多くの南米出身選手がリーガで活躍してきた歴史にはそのような理由もあるのだ。

苦境からはい上がり後進を育てるエトオ

 これは現在、リーガで活躍するアフリカ人プレーヤーが増えつつあることにも通じている。元々スペイン語を話す選手が多いわけではないし、文化的にも異なる土地からやって来ている。それでも彼らは結果を残し、選手としての価値を高めることに成功しているのだ。 

 プレーヤーとしてのクオリティーという視点から見れば、アフリカ人選手に求められるのはスペイン人にはない身体的な強さである。戦術理解力ではスペイン人選手のほうが有利であることは間違いない。だが、アフリカ人プレーヤーはチーム内で過ごすうちに戦術理解を高め、持ち味である身体的な強さを存分に発揮するようになる。その最たる例がカメルーンの英雄サミュエル・エトオだろう。彼の経歴は稀有である。サッカーのキャリアだけを見ればエリートとして大成功を収めたように見えるが、その実は移民同然でカメルーンからスペインに渡り、サッカーによって貧困から抜け出す道を切り開いた“たたき上げ”だ。彼がまだマドリーのBチームに所属していた頃、スペインに来た当初のことを振り返ってこう語ってくれたのを思い出す。「スペインに来ても、満足に食えるほどの金はなかった。だからカメルーン人の知り合いに頼んで、路上でCBを売る仕事をもらっていたんだ」 

 スペインを訪れたことのある人なら、違法コピーしたCDやDVDを路上で売る人々の姿を一度は見掛けたことがあるだろう。そのほとんどは南米やアフリカ、中国からスペインへやって来た人々であり、エトオもその中に混じってその日を生き延びる金を手にしていたのである。そうやって食いつなぎながらレンタル先のレガネスで結果を残し、ようやくマドリーから満足な給料をもらうようになったのだ。 

 もう一度言うが、エトオの経歴は稀有なものである。彼と同じことを他のアフリカ人選手がしているわけではないし、できるわけでもない。エトオが持っているたくましさと、チャンスを確実に生かすわずかな運がすべての人間に備わっているわけではないのだ。だからこそ、今はエトオ本人が財団を築き、アフリカの若い才能をスペインへ呼び寄せて成長させるための環境を整えている。財団を通じてスペインにやって来る若者にはスペインでの滞在ビザが容易に与えられ、財団の保護の下で生活を送ることができる。この2つはとても重要な要素であり、他の多くのアフリカ人にとっては得難いものである。これらが保証された上でサッカーに専念できるため、アフリカの才能はスペインサッカーを瞬く間に吸収し、その身体能力を有効活用し始めるのだ。

日本人が成功するには突出した武器が必要だ

 南米、欧州、アフリカと、リーガでは多くの外国人選手が活躍している。では、なぜ日本人選手はリーガのクラブでレギュラーを獲得して数シーズンを戦うという成功をいまだに勝ち得ていないのだろうか。これは日本の読者の皆さん」にとって最も興味ある部分だろう。私の見解では、日本人選手は技術、体力、戦術理解力においてリーガのレベルに達していないわけではない。ドイツなど欧州のリーグで活躍している選手を見れば、日本人プレーヤーのクオリティーがいかに高いレベルにあるかは一目瞭然だ。献身的に走る能力や敏捷性にも優れている。 

 だが、そのクオリティーが、スペイン人選手が既に身につけているレベルを凌りょうが駕するものでないことも事実だ。日本人とスペイン人で、同等の実力を備えた選手がいると仮定しよう。スペインという土地でより成長し、成功しやすいのはどちらだろうか。スペイン語を話し、スペインの文化に慣れているスペイン人のほうがより扱いやすいのは当然だろう。逆に、Jリーグのクラブに日本人と同じレベルのスペイン人やブラジル人から売り込みがあったとして、いったいどこが欲しがるだろうか。 

 リーガで日本人が成功するためには、スペイン人にはない武器を持たなければならない。2011年7月にセビージャが獲得し、現在はベルギー2部のオイペンにレンタル移籍している指宿洋史が分かりやすい例だ。彼のように恵まれた体格と優れたボールコントロール能力を併せ持つ選手は、スペインにはさほど多くない。指宿はJリーグでの実績はないが、スペインの下部リーグで着実に結果を残してステップアップした。スペインの文化を完全に吸収し、スペイン語でのコミュニケーショにも支障がない。だからこそ、セビージャは指宿に注目し、彼を獲得したのだ。 

 スペインには以前から才能豊かな外国人プレーヤーが集まり、それぞれが持ち味を発揮してきた。だが、彼らが成功をつかんだその裏には、異国の地で成り上がろうとする強い意志と不屈の闘志、そしてチャンスを確実に生かす運があった。いつの日か、それらすべてを兼ね備え、リーガで成功を収める日本人プレーヤーが現れてほしいものだ。私自身は純粋に日本人の実力を高く評価しているだけに、彼らがリーガで活躍できずにいるのがもどかしくて仕方ないのである。

1月17日発売の【ワールドサッカーキング 0207 】では、主要34クラブの後半戦ベスト布陣を徹底考察! さらにスペイン、イングランド、イタリア、そしてドイツの現地記者描き下ろしコラムも好評掲載中!