2012.09.17

【ストーリー】エデン・アザール(チェルシー/ベルギー代表)「高慢なまでの才能」

ワールドサッカーキング 0920号掲載]
この夏、念願のキャリアアップを果たしたエデン・アザールは新天地で早くもゴールに直結するプレーを連発している。時に高慢にさえ映る自身のプレーに対する絶対の自信は、チェルシーに加入しても決して揺らぐことはない。

エデン・アザール
写真=フォトスポーツ

 終盤戦に奇跡的な巻き返しを見せ、辛うじて残留を手にしたウィガンが相手では物足りなかった。それがデビュー戦を終えたエデン・アザールの率直な感想かもしれない。プレミアリーグ開幕戦、アザールはキックオフから2分後に先制ゴールをアシストし、その4分後には自らのドリブルでPKをもぎ取ってみせた。

 自信と高慢の間に存在する差は紙一重のものだが、ほとんどの期間、彼はその適切な側にいた。真摯(しんし)にサッカーに取り組み、チームの勝利のために全力を尽くす――それがアザールの一般的なイメージだ。

 しかし、ラインを踏み越えたことがないわけではない。リールのアシスタントコーチに「バロン・ドールを受賞するためのキャリアプラン」を相談し、リールからの退団を前提に議論を展開した。相手が信頼できるコーチだけであればいいが、アザールはどこに行っても本音で語り、どこに移籍するのがベストなのか、その時々のアイデアを語った。ファンとしては不愉快な話である。

 それでも、リールのサポーターはアザールのプレーに熱狂した。抜群のテクニックと創造性、常にゴールに向かう果敢なドリブル、大舞台での勝負強さ。その才能すべてが、リーグ・アンでは突出していた。2008―09シーズンから、リーグ・アンの年間最優秀若手選手賞を2年連続で受賞し、続く2年は年間最優秀選手に選出されている。まさに向かうところ敵なしだった。

 ジェルヴィーニョやアディル・ラミ、ムサ・ソウ、ヨアン・カバイェらを次々と放出したリールが上位争いを演じられたのは、20得点15アシストを記録したアザールの働きがあったからに他ならない。結果的にリーグ連覇は逃したが、先に上げた主力の大量放出があったことを考えれば、3位でチャンピオンズリーグ出場権を得ただけでもリールにとっては満足できる1年だったと言える。リールに収まる器ではない。それは誰の目にも明らかだった。ヨーロッパ中のビッグクラブが彼の獲得を望んでいた。レアル・マドリーのSDを務めるジネディーヌ・ジダンは、普段の控えめな言動からは想像もできない熱意で「彼をマドリッドに連れて来るのが私の仕事だ」と語った。

 リーグ・アンを席巻するファンタジスタに、ジダンがかつての自分を見たのだとしたら、アザールにとっては最高の栄誉だろう。だが、彼はジダンに敬意を表しながらも、R・マドリーに対してはひどく冷淡だった。アザールはここでもラインを踏み越えて高慢な一面を見せている。メディアの前で、「リールを離れてどこかのベンチに座っていることはあり得ない」と断言したのだ。同時に、こんな言葉でプレミアリーグ挑戦の希望を述べた。「僕はまだまだ成長しなければならない。でも、それはサッカーを始めた時からずっと思ってきたことであって、自分が実力不足だとは思わない。自分に最も適したリーグはイングランドだ。試合のレベルや雰囲気はフランスのそれよりはるかに優れている。その点が僕を魅了するんだ」ロンドンでプレーするベルギー代表の仲間2人(トーマス・ヴェルメーレンとヤン・ヴェルトンゲン)と同様に、アザールは母国リーグでのプレー経験がない。2人のDFは16歳でアヤックスの下部組織に所属。アザールも14歳でリールに入団して以降、この春までリール一筋でプレーしてきた。リオネル・メッシは若い頃にアルゼンチンを離れたせいで、代表では懐疑的な目で見られることがあるが、アザールとベルギーにも同じことが言える。ベルギー国内でアザールはそれほど評価されておらず、そのことが代表での地位にも影響した。ベルギー代表の監督を務めたディック・アドフォカートやジョルジュ・レーケンスは、アザールを本職のトップ下ではなく、中盤のサイドで起用。厳格なことで知られるレーケンスは、ユーロ予選のトルコ戦で途中交代したアザールが、試合中にもかかわらず父親とハンバーガーを食べていたとして、次の試合に招集しない懲罰を与えている。

 しかし、ベルギー最高の選手であるエンツォ・シーフォはアザールが問題児であるとの見方を否定する。「性格や素行に難があるわけじゃない。あまりにも才能を持った選手は、管理する側からすると少し厄介なだけだ。98年の代表チームで私がそうだったようにね」

 かつてのベルギー代表DFで、プレミアリーグでのプレー経験もあるフィリップ・アルベールは、「アザールのようなタレントがいる場合、彼を中心にチームを作るべきだ」と断言する。チェルシーでそのようなことは起こるのだろうか? 答えは「イエス」だ。ウィガンとの開幕戦を見れば分かる通り、アザールはプレミアリーグの標準的なレベルの守備なら簡単に打ち破ってしまう《怪物》ぶりを示している。今後、チームになじみ、プレミアリーグのスタイルに慣れることで、より力を発揮できるはず。自信を高慢に変えない精神的なバランスが保てている限りは、安心して見ていられそうだ。