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マンU香川、初得点の裏で浮き彫りになった課題と示された“新たな指標”

2012.08.26

 香川真司はまたしても新たな領域へと足を踏み入れた。

 

 一週間前、マンチェスター・Uの一員としてプレミアリーグの開幕戦でスタメンデビューを飾った香川。次なる“指標”を挙げるとするなら、“初ゴール”であったが、一気に難易度の上がったハードルも、第2節にして軽々と越えてみせた。

 

 初戦で5得点を挙げて勢いに乗るフルアムを相手にしながら、チームも初勝利を奪取。香川のイングランドにおけるシーズンは、順調なスタートを切ったと言えるだろう。

 

 しかし、結果を残した試合であってもすべてがポジティブなものだったとは限らない。夢の劇場における開幕戦は、“一抹の不安”を覚えさせるものでもあった。

 

文=松岡宗一郎(サッカーキング編集部)

トップ下でこそ生きる香川

 

 C大阪、ドルトムント時代を通じて、香川のベストポジションといえばトップ下だろう。アレックス・ファーガソン監督も「シンジのポジションはトップ下」とこだわり、一列下がったセントラルハーフを試したことはあったものの、サイドで起用したことはまだ一度もない。

 

 実際、連係不足ながらも香川はエヴァートン戦で上々のパフォーマンスを披露している。ダニエル・ウェルベックへのスルーパスやウェイン・ルーニーとの連係から決定機を生み出し、辛口で知られるイングランドのメディアからも高い評価を受けた。

 

「香川というエクセレントなアタッキングMFの存在は、ファーガソンにとって大きな問題だ。香川、ルーニー、ロビン・ファン・ペルシーの3人をどのように配置するのか悩みが生まれるのだから(テレグラフ紙)」と、既にプレミアでの実績がある2人のビッグスターと並び称されるほどの印象を植え付けている。

 

 そしてフルアム戦、ファーガソンはルーニーをベンチに置き、再び香川をトップ下で起用。香川は類まれなボールタッチからリズムよくパスを供給し、自らシュートを狙う積極性を見せた。流れの中からでなかったにせよ、初ゴールを決めてチームの勝利に貢献している。しかし、この日の香川のパフォーマンスは、ドルトムント時代はもちろん、エヴァートン戦と比較しても満足なものではなかったと言える。

 

供給されなかった縦パス

 

 一番の原因は連係不足、何より香川へ通されるべき縦パスが供給されなかったことだろう。

 

 香川の最大の持ち味のひとつはバイタルエリアにおける繊細なボールコントロール。ドルトムント時代には、そのタッチから数々の得点を演出し、同時に自らも得点を挙げてきた。

 

 しかしフルアム戦で香川に供給された縦パスは数えるほど。この日、セントラルハーフに起用されたトム・クレヴァリーとアンデルソンは、ヌリ・シャヒン(現リヴァプール)やイルカイ・ギュンドガンのようなゲームメイカーではなく、繊細なパスを通せるようなタイプの選手ではなかった。よって、中盤での展開力はものたりないものだったし、ファン・ペルシーも含めて前線の選手が反転して前を向けるような鋭い縦パスはないに等しかった。

 

 フルアムの守備陣がスペースを与えていなかったこともあるが、結果的に攻撃がサイドに偏り、香川の持ち味は生かされなかったと言える。サイドへ開き、パスを受けようとした時ですら、スムーズにパスが通されたシーンは少なかったのも気になった。

 

“香川の生命線”を勝ち取るための戦い

 

 もちろん、このチームにおいての香川のボールの受け方や戦術理解度も成熟していない。とはいえ、背後からパスが出てこなければ香川が生かされない可能性も十分にあると示唆する内容だった。そしてその原因は、根本的にパスを出せる選手がいなかったチームにおける問題と同時に、周囲からの信頼を得きれてはいないという香川の課題を浮き彫りにするものでもあった。

 

 繰り返すが、香川は順調なスタートを切った。新加入の選手が周囲と信頼関係を築くためには時間がかかるのもごくごく普通のこと。これから時を重ねるごとに周囲との関係は深まり、シーズン序盤の不安は杞憂に終われる可能性も十分にあるだろう。ただ、逆に言えば小さな歪は時が過ぎるごとに修復不可能な大きなものへと変貌を遂げていく。

 

 デビューは果たし、初ゴールは決めた。記録の上では申し分ないスタートを切った。だからこそ、次は信頼という見えない絆を紡ぐ必要がある。周囲からの信頼を勝ち取ればおのずとパスは増えるはず。そのパスの数が、香川の生命線だ。

 

 チームメートからも認められる存在となること。初得点を決めた今、それが香川の新たな“指標”となる。

 

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