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宮本恒靖、五輪代表を語る「OA枠を使わないほうがいい。個人的にはそう思います」

2012.05.30

 昨年12月の現役引退発表の翌日に行ったインタビューから5カ月、宮本恒靖に話を聞いた。ピッチを離れたことで新たになった考え、そして自身の経験を交えながら、オリンピック代表とアジア最終予選に臨む日本代表についての見解を示してくれた(※このインタビューは4月に行ったものです)。


[写真]=吉野洋三

昨年末、引退直後に話しをうかがったときは「新シーズンが始まると寂しさを感じるかもしれない」と話していましたが、実際のところいかがでしたか?
宮本「現役時代に比べると、一日一日いろいろな種類のスケジュールが入ったりしますし、サッカー以外の好きなことができる時間も増えましたし、そういう点でとても新鮮な感じがしています。シーズンが始まったところで、すごく寂しさを感じたかといえば、実はそうでもなくて(笑)。思考やスタンスは、もう次のほうに移って行っているという感じですね」

「プレーしたいな」といった気持ちを抱くことは?
宮本「今日も試合を見てきたところで、上から見ていて『すごくピッチが綺麗やなー』とかは思いましたけど、そこに立って自分がプレーするみたいなことはあまりイメージしないですね」

現役時代と比べて、サッカーの見方や考え方は変わってきていますか?
宮本「今のところ、そこまで大きくは変わっていないですけど、例えば『試合がどういう風に運営されているのか』とか、『キックオフの2時間前くらいからスタジアムに来ているサポーターがどんなことをしているのか』とか、そういう点で興味の対象が増えたように感じています」

オリンピック代表について話をうかがいます。オリンピック代表世代で、個人的に注目している選手はいますか?
宮本「みんな扇原(貴宏)君の名前を挙げるので(笑)、山口螢選手ですね。最初は『螢』っていう名前に対する反応からでしたけど。『螢って何や』という(笑)。神戸時代、セレッソとの練習試合で『螢、螢』って相手が間近で言っていて、『螢?』というところから興味を持ち始めて、その選手がオリンピック代表の選手になっていって、と。パフォーマンスの話をすると、DFの立場から見てすごくいいところにいてくれるんですよね。カウンターの起点になるところを確実に潰してくれたり、いい形でセカンドボールを蹴ってくれたり、そういう意味で、味方にとってすごく心強い選手だと思います。現役時代に一緒にプレーした選手でいうと明神(智和)にイメージは近いですね。山口君もまだまだ伸びていく要素を持った選手だと思います」

ご自身が参加されたシドニー五輪の際にオーバーエイジ(OA)枠が使用されました。当事者というか、自分たちの世代だけで挑戦したいという気持ちはありましたか?
宮本「そういう気持ちはありましたね。ただ、また逆の見方をすれば、OAという立場になったときに、そこに呼ばれるとなれば、それはそれで自分の中で粋に感じることができるでしょうし。もっとも、そういう下の年齢にいる場合は自分たちでやりたい、OA枠が使用されれば競争相手も増えるわけですし、そういう思いは持っていましたね」

今の五輪代表にOA枠を使用したほうがいいと思いますか?
宮本「いや、使わないほうがいいと思います。サッカーには17歳以下、20歳以下といったカテゴリー別の大会があって、五輪以外はOAがないわけですし。基本に立ち返ったとき、『それっていらないんじゃないかな』って思うんですよね。そのカテゴリーの選手にとっては成長する貴重な場に成り得るものですし。もちろんそれは、各国のサッカー協会がスタンスを決めたらいいと思いますが、あくまで個人的な意見としては使わなくていいんじゃないかなと思いますね」

シドニー五輪で日本はベスト8まで進みました。オリンピックという舞台で今の日本が勝ち抜くためにはどういうことが必要になってくると思いますか?
宮本「まず初戦が大事なので、初戦をどうものにするかというところだと思います。予選通過が決まり、その後はいろいろなメンバーを合宿などで試していますから、メンバー間に競争意識も芽生えていると思いますし、今はいい方向性にあると思います」

シドニー五輪を振り返ってみて、経験になったと思うのはどんなところですか?
宮本「4試合中1試合しか出場できなかったので、その1試合の出場に対してすごく気持ちを入れすぎたし、準備をしすぎました。それって結果的に、つまりパフォーマンスとしてあまり良くなかったんですが、そういう部分はその後の自分のキャリアに生かされました。それから、試合の中で感じたのはロナウジーニョのすごさとか、ブラジルのFWのジェオヴァンニとか、それこそバルセロナのようなクラブでその後プレーするような選手がものすごいスピードでプレスをかけてきたりするわけじゃないですか。そういうものを体感したことは、自分の向上心を刺激しましたね」

次はA代表についてうかがいます。6月にアジア最終予選がスタートしますが、アジアを勝ち抜く上でどういった点がポイントになってくると思いますか?
宮本「やっぱり、ホームでしっかり勝っていくことですよね。アウェー戦はやはり難しいですし、そこで勝つのはもちろん理想なんですけど、そこであまり内容のいい試合にならない場合も、自分たちの中で『この試合はこうなるべきだ』とか『こうなっていくだろう』というシミュレーションが大切ですし、そこの集中が大事だと思いますね。そこがブレなければ、仮にアウェーで負けてもあまりガクッと落ちないでしょうし、一喜一憂しないということもすごく大事なところだと思います」

今の日本代表のレベルは見ていてどう感じますか?
宮本「ヨーロッパで活躍する選手も増えて、個々のレベルは確実に上がってきていると思います。ただ、2月のウズベキスタン戦(29日に開催。日本が0-1で敗戦)を見てちょっと感じたのは、それぞれのコンディションが揃わない中で、いかにその試合を作っていくか、合わせていくかというところは大事になってくると思います。これは日本だけでなく、どんなチームにとっても難しいことですけど、そういったところを試合の中で選手同士がうまくコミュニケーションを取りながら修正していくような部分は、もうちょっと必要なのかなと感じましたね」

それは海外でプレーする選手が増えたことで難しくなっている部分でもありますよね。
宮本「難しくなっていると思いますね。ちょっと前は、前の選手だけが海外でやっていて、後ろの選手は合宿から調整ができてといった感じで、何となくやりやすい部分もありましたが、今は本当に『集まってすぐ』ですし。そういう状況の中で『ここがちょっとやられているからこうしようよ』とか、試合の中で、自分たちで解決していくところがもうちょっとあってもいいかなと感じますね。もちろん、選手個々は本当に頑張っています。厳しいスケジュールでヨーロッパから帰ってきているし、やらなければいけないというところですごく頑張るんですけど、そこはもう少しリンクさせたほうがいいかなって思います」

今の日本代表の強みと課題は、どういうところに集約されますか?
宮本「強みは、やっぱり前。攻撃的な2列目のところにタレントがたくさんいるので、そこをうまく生かして、サイドバックが効果的に上がれるような試合ができるときはすごくいい流れになると思います。課題としては、ワイドの選手が相手のサイドバックにプレッシャーをかけたとき、その背後に生まれるスペースに自分たちのサイドバックも行くっていう、そこのゾーンのケアの方法ですね。それがハマる相手だったらいいんですけど、相手のレベルが上がってきた場合、例えば岡崎(慎司)選手がプレッシャーをかけに行ってかわされたとします。かわされてパスを出されて相手のワイドのところにボールが渡り、ここで長友(佑都)選手が行きました。でも、そこで取れない相手っているじゃないですか。そこでいなされて、ゾーンを突かれた時に後手に回ってしまうので、この相手にはこのやり方がもう通用しないと察したときに、ちょっと行くのか、ゾーンを埋めておいてから行くのかという部分の細かな修正ができたら、チームはもっと良くなると思います」

スピード化の進む現代サッカーでは、ボールコントロールは選手にとってどういう意味を持つか、ボールコントロールを高めることがどれくらい大切になってくると宮本さんは思いますか?
宮本「ボールコントロールはどの時代でももちろん難しいというか、大事なポイントだと思いますが、今は特にフィジカルの能力もたくさん持っている選手が揃ってきているので、止めてすぐ次のプレーに移るというフローの中で、ただ単に止める技術だけではなく、自分のイメージとボールコントロールの技術がうまくリンクしていないと、どれだけいいトラップ、いいコントロールをしたところで、いいプレーにはつながらないと思います。もちろん、うまく止めた、ボールを取られません、ということは大切ですが、そうじゃない。もうワンランク上のレベルになるためには、そういうリンクが必要ですね。ウズベキスタン戦で香川(真司)選手が止めて、すぐターンして相手のバイタルエリアに入って行くシーンがありましたが、その速さは『普通の選手とは違う速さ』でした。ボールコントロールを含め、彼の持っている技術とそのアイデアがうまく融合した瞬間だなと感じましたね」

トラップ、パス、ドリブル、シュート、クロスという5つのプレーを正確にできる選手が求められるかと思いますが、いかがですか?
宮本「そうですね。僕はDFだったので特にクロスという点で感じますが、今はセンターバックの選手が大きいので、ピンポイントのクロス、落とせるボールを蹴れないとやっぱり駄目だと思いますし、そういうボールを正確に蹴れる、そこのインパクトというところでのコントロールはすごく大事になりますね」

ボールコントロールを高めるためには、どういうことに意識してトレーニングに励むべきですか?
宮本「最初はスピードがない中でやるべきだと思います。まずは、ボールをしっかり止めるといったところ。どれだけ強いボールが来ても、足の出し方、力の加減で止めるっていうところをつかむ。次のステップとして、動きながらのコントロールになっていくんですけど、そのときに自分が次にどういうプレーをイメージしているのか、次のプレーに移行するときにどこにボールを置くのがベストなのかっていうところですよね。次をイメージしながらどんどんプレーしていくべきだし、それから、単純なロングボールの練習でも、『ただ止めて蹴ります』じゃなくて、相手がどこにいるかをしっかりイメージしながら『止めて素早く蹴る』のか、『一回フェイントを入れて蹴るのか』といった工夫が必要ですね。そういう積み重ねが試合に生かされていくと思います」

ボールコントロールを高める上で、足のどの部分でボールタッチをするかを意識することはどれくらい重要なことですか?
宮本「自分自身もそうでしたし、それはとても大切なことだと思います。例えば、その日の調子によって、キックの当たりが良かったり悪かったりするので、そのときにどうして当たりが悪いのかっていうことを考えて、修正して、といったことが大切になります。キックのコンディションはとても重要で、やっぱり信号というか、そこからいろいろなものが伝わってくると思いますし、そこに神経を研ぎ澄ませて、感じるというのはプレーヤーにとって本当に大切なことだと思います」

ボールをコントロールする際に心がけること、意識すべきことはどんな点にあると思いますか?
宮本「ポジションによって異なってきますが、DFとしては、しっかり止めてワンタッチで正確なロングボールを蹴れるようなところでしょうね。相手に寄せられている場合ならば、より足元に収めることが必要になりますし、相手との位置関係などを意識しながらコントロールすることが求められます。ボールを置く位置、そこをミスすると、その後のプレーでいい判断につながらないですし、どうしてもミスにつながります。それこそ、プレーの選択を変えなければいけないですよね。イメージを持つことはすごく大事で、そのためにも『見ておく』ということも大事になります。そういう意味でも、自分で決めたところにしっかりボールを置く技術を磨いてほしいですね」

現役時代に多くのアタッカーと対戦してきましたが、初めてマッチアップした相手の能力や技量を見極める上で、相手のボールコントロールには注目していましたか?
宮本「それは、かなりありますね。このボールをこんなふうに止めるんだとか、やっぱりいいところに止められると勝負にいけないんですよね。いいFWって、本当にこっちがいけないところにボールを止めるんですよ。しかも、さりげなく。そういう部分でその選手が持っている能力の高さ、余裕というか落ち着きも見ることができますし、本当に一流の選手なのかどうかはボールコントロールで分かります。ゴール前で『やられる』っていうときにコントロールをミスしてくれるような選手って、やっぱりいるにはいるんですよ。そうすると、何とかタックルを仕掛けたりできるじゃないですか。そうじゃなくて、『やられる』って思って、『ああ、やっぱりいいコントロールするな』って選手は本当の一流ですね。いいところに止められて、もう体を投げ出していくしかないというときに、チョンと切り返されると、もう死にたいなと(苦)」

世界の選手でボールコントロールがうまいなと感じる選手は誰ですか?
宮本「足の裏を使ってトラップする選手はちょっと異質に見えますね。フットサル上がりの人とかそうじゃないですか、デコとかもそうだし、ネイマールもやっぱりそういうのを感じるときがありますね。足の裏でピタっと止める選手、ときどき(リオネル)メッシもやりますけど、ボールを足裏で止めて、一つフェイントを入れて、クイックに仕掛けるプレーとかは好きですね」

日本の選手ではいかがですか?
宮本「まあ、ヤット(遠藤保仁)かな。あとは(前田)遼一とか。マークをする立場から見て、彼もいいところ止めるなって感じさせる選手ですね。FWには厳しめのボールが入ることも多いですが、そういうのを難なく処理する。頑張って止めてますよじゃなく、パッと止めちゃうところを見ると、味方からすれば、少し厳しめのボールを出しても止めてくれるっていう安心感が出ますよね」

香川選手はいかがですか?
宮本「彼はやっぱり、動きながらの動作っていうのがすごいですよね。本当に『使われる選手』だと思うんですよ。いいスペースに入っていく動き出しが彼の中にあり、そこでショートパスの速いボールが来て、ボールを受けて素早くターンしてっていうところが彼の真骨頂だと思います。その点でボールコントロールの正確性というのは、ずば抜けていると思いますね」

純粋にボールコントロールを高めるためにはどんなトレーニングをすべきだと思いますか? また、現役時代の宮本さんは攻撃の起点としても存在感を示していましたが、ボールコントロールを高めるために取り組んでいたトレーニングはありますか?
宮本「相手にプレッシャーをかけられたときに、DFであってもうまく逃げないといけないケースがありますよね。そういったシチュエーションでボールを扱うときのターンはすごく練習しましたね。ユース時代から何度も言われていたことですが、『相手に寄せられたら回れ、回れ』って。最初は『回る』の意味があまりよく分からなかったんですけど、それをずっと練習していくと、試合の中や練習の中でボールを取られなかったりするんですよ。ターンの際にボールコントロールの質が悪くなると取られてしまいますし、変な回り方をするとプレーがもたついてしまいます。そこはすごく練習をしていました。あとは、ボールを止めて、いかにスピーディーに正確に蹴るかですね」

間もなく、ユーロ2012が開催されます。注目している国、注目している選手はいかがですか?
宮本「やっぱりドイツが好きなので、ドイツを見たいですね。選手では、(マッツ)フンメルスに注目しています。あとはフランス代表。(ローラン)ブラン監督がどういうマネージメントをするのかにも注目しています。それからクリスティアーノ・ロナウドですね」

最後に、新プレデター、プレデター リーサルゾーンを見た感想についてお聞かせください。このスパイクのコンセプトは「一瞬を逃さず、プレーヤーのボールコントロールスキルを最大限に引き出す」こと。現代サッカーでは限られたスペースや時間の中でボールを正確にコントロールしなければなりませんが、このスパイクには、より正確なボールコントロールを追求した「必殺5ゾーン」が搭載され、あらゆるプレーにおいて、より正確なボールコントロールをサポートします。
宮本「これがあれば、あと1、2年はできたかもしれないですね(笑)。でも、実際こういうスパイクを使ってやってみたかったです。本当にその選手にマッチしたというか、その選手のプレーに合ったスパイクは選手を勇気づけてくれますし、助けてくれる存在でもあります。ボールを蹴る、止める、運ぶといったそれぞれのプレー、ボールコントロールを支えるといった発想は本当に素晴らしいと思います」

Fist Touch=トラップ、Drive=シュート、Sweet Spot=クロス、Pass=パス、Dribble=ドリブルと、ご自身のゾーンをホワイトスパイクに記していただきましたが、実際に『プレデター リーサル ゾーン』をご覧になって感想はいかがですか?
宮本「あまりにも違っていたら嫌だなと思っていたのですが(笑)、安心しました。ファーストタッチゾーンはボールを吸収するような凹形状の素材が使用されているということですが、どれだけ止めやすくなったのか履いてみたいですね。それにしても、本当にスパイクは日々、進化しますね」

現役時代のご自分のプレーと重ね合わせていかがですか?
宮本「自分としてはやはりこの辺、ドライブゾーンでロングボールを蹴ることが多く、そこでの反発力というものはすごく必要でした。より強く、より遠くへボールを飛ばすためにこういったサポートがあること、選手のプレーに応じた的確なサポートがあることは選手にとって本当にありがたいことだと思います」

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING @SoccerKingJP』の編集長に就任。

By サッカーキング編集部

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