[ワールドサッカーキング6月号掲載]
リヴァプールの選手としてのプレーは残り数試合。だが、旅立つ前に伝えておきたいことがある。17年の記憶、クラブへの思い、そして自身の未来、すべてのリヴァプールファンへ向けて、去りゆくキャプテンが胸の内を明かした。
インタビュー=クリス・ヘザラル
翻訳=田島 大
写真=ゲッティ イメージズ
あんなに興奮したのは後にも先にもあの時だけ
――君のリヴァプールでのキャリアに終止符が打たれようとしている。君を含め、クラブに携わるすべての人が感傷的になるだろうね。
ジェラード そう思うよ。最後の瞬間はそうなるだろうね。年明けに退団を発表した時も、少しそういうムードになっていた。でも、退団のことはいったん忘れてチームのために尽くそうと決めたんだ。このクラブは僕がずっと過ごしてきた場所だし、生涯を通じて自分がファンだと言える唯一のクラブだからね。何も感じずに退団するなんて無理だけど、今シーズン限りで退団する、という決断は正しかったと信じている。新たなチャレンジを始める良いタイミングだったんだ。僕は次の挑戦を楽しみにしている。
――改めてリヴァプールでの日々を振り返ってほしい。初めて練習に参加した日のことを覚えている?
ジェラード かなり昔のことだけどよく覚えている。僕は8歳だった。スタジアムの横にあるヴァーノン・サングスターというスポーツセンターに20、30人の子供たちが集まったんだ。そこにはマイケル・オーウェンやジェイソン・クーマスもいた。まるで数日前のことのように思えるよ。あの頃の僕らは5人制サッカーで1年ほど負け知らずだったんだ。何と言ってもマイケルがいたからね。
――17年前にトップチームデビューを飾った日のことは覚えている?
ジェラード もちろん今でもはっきりと覚えている。僕にとっては忘れられない日だよ。1998年のことだった。ブラックバーン戦の89分にピッチに投入されたんだ。ほとんど何もできなかったけど、特別な瞬間だった。あんなに興奮したのは後にも先にもあの時だけだったね。
――トップデビューを果たしてレギュラーに定着してから、わずか数年でキャプテンに任命されたよね。驚きだったのでは?
ジェラード 自分のキャリアがあれほど順調に進むとは考えてなかった。キャプテンに任命された2003年のあの日は、本当に誇らしい瞬間だった。子供の頃からリヴァプールのキャプテンになることを夢見てきた僕にとって、本当に特別な日になったよ。サミ・ヒーピアから腕章を受け継いだんだけど、サミは最高のキャプテンだった。最初は彼が怒るんじゃないかと心配だったよ。でも彼は僕のそばにやって来て祝福してくれた。そして「自分でよければいつでも助けになる」と言ってくれたんだ。本当に感激したよ。
――これまで一緒にプレーしてきたリヴァプールの選手の中で、ベストプレーヤーは誰だった?
ジェラード たくさんいるよ。今のチームにも何人か偉大な選手がいるしね。でもあえて名前を挙げるとしたら、ルイス・スアレス、フェルナンド・トーレス、そしてジェイミー・キャラガーだろうな。もちろん、僕がトップチームに昇格した頃にも素晴らしい選手はたくさんいた。ジェイミー・レドナップやロビー・ファウラーがね。
――リヴァプールの歴代の選手の中で少年時代に憧れていたのは?
ジェラード リヴァプールのファンにそれを聞いたら話が終わらないと思うよ(笑)。僕が子供の頃はイアン・ラッシュ、スティーヴ・マクマーン、ピーター・ビアズリー、ジョン・バーンズといった選手の全盛期で、いつも彼らのまねをしていた。もちろん、それより前の世代にはケニー・ダルグリッシュという偉大なレジェンドもいた。こうやって振り返るだけでも、いかにリヴァプールが素晴らしい歴史を持つクラブか分かるね。
――君も今ではダルグリッシュやラッシュと肩を並べるリヴァプールのレジェンドだ。
ジェラード それ以上の褒め言葉はないね。ちょっと申し訳なく思うくらいさ。彼らと同列に並べられるなんて本当に光栄だ。
プレミアリーグ優勝? いつか必ずやってくれる
――君が退団を発表してからというもの、選手だけでなくファンや解説者など、イングランド・フットボール界のほぼすべての人が君に賛辞を贈っているね。
ジェラード 正直、少し圧倒されているよ。選手やファン、スタッフやメディア、そして僕の周りにいる人たち。みんなからの温かい言葉に感動した。まだあまり感傷に浸りたくないから、テレビでそういうコメントを目にしたらチャンネルを変えるようにしている。退団を発表した時点では、まだシーズンも半分くらい残っていたし、とにかくピッチの上でベストを尽くすことに専念しようと思っていたからね。シーズンの最後には、また退団の話題になると思う。そういう状況に備えておかないと。
――リヴァプールのキャリアの中で最高の瞬間を一つ選ぶとしたら、それはいつかな?
ジェラード みんなを驚かせるようなサプライズな答えは提供できないけどいいかな? これまでに素敵な瞬間はたくさんあった。でも一つだけ選ぶとしたら、やっぱり05年のイスタンブールでのチャンピオンズリーグ優勝だよ。あの日、あの場所にいた人は、あの特別な夜を一生忘れないと思う。個人的にも0-3の状況から反撃の1ゴールを決めることができたし、劇的な展開で同点に追いつくことができた。とにかく信じられない試合だったよね。今思い出しても、鳥肌が立つほどさ。
――それじゃあ、最もお気に入りのゴールは?
ジェラード 僕が好きなのは何らかの意味を持ったゴールだ。単にスペクタクルなゴールというだけじゃなく、チームに勝利をもたらすゴールが好きなんだ。だからイスタンブールでのゴールはもちろん、決勝にたどり着く上で欠かせなかったオリンピアコス戦のゴール、それからFAカップ決勝のウェストハム戦でのゴールが印象的かな。やっぱり最初に思いつくのはこの3つだよ。でも、他にもお気に入りのゴールはたくさんある。マージーサイド・ダービーでのゴールやマンチェスター・ユナイテッド戦でのゴール。それからリヴァプールでのキャリア初ゴールも忘れられない。
――リヴァプールでのキャリアを振り返る上で、サポーターの存在は無視できないよね?
ジェラード 彼らは最高だ。言葉では説明できないよ。これほど長い間、彼らのためにプレーできたことを本当に名誉に感じている。僕は常にファンに支えられてきた。もう何度も言ってきたことだけど、本心なんだから仕方ないよね。彼らは世界最高のファンさ。少なくとも僕がリヴァプールで過ごしてきた期間、彼らは間違いなくワールドクラスのサポーターだった。そんな彼らに恥じないプレーをしようと僕らはいつも必死だったよ。
――エヴァートンとのダービーマッチも恋しくなるだろうね。一番印象に残っているダービーは?
ジェラード ダービーは特別な一戦なんだ。僕はシーズンの日程が発表されると、いつも真っ先にエヴァートン戦をチェックしていた。僕の友人や親類にも熱狂的なブルーズはいる。ダービーマッチはこの町の覇権争いなのさ。そんな中ですぐに思い出すのはハットトリックを決めた2012年の試合かな。エヴァートンのファンからいろいろと揶揄されてきたから、個人的にはあの試合が一番痛快だった。それから同じ年のFAカップ準決勝も印象深いね。何と言っても、ウェンブリーでエヴァートンを倒したんだから。
――それじゃあ一番の後悔は?
ジェラード 子供の頃から応援していたクラブで長年プレーすることができたんだから、後悔なんてほとんど思いつかないよ。ただ、自分がここにいる間にプレミアリーグのタイトルを取りたかったね。何としてでも優勝したかった。そのチャンスがもうないのかと思うとやっぱり悔しいね。でも、リヴァプールはしっかりと前に進んでいる。いつか必ずやってくれるよ。そうでなくちゃ、ウチのファンに申し訳ないからね。
最もお気に入りのゴールや憧れていた選手、さらに来シーズンからプレーするLAギャラクシーについても語ったジェラードのインタビューの続きは、ワールドサッカーキング6月号でチェック!