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2015.01.03

【ロンドンの残光】ロンドン五輪サッカー日本代表の真実「Episode 7 『まず、縦を切れ!』と選手に伝えた監督の守備戦術」

「まず、縦を切れ!」と選手に伝えた監督の守備戦術

杉本健勇
Photo by Getty Images

 ロンドン五輪への出場を決めたサッカーU-23日本代表は、7月11日、国立競技場でU-23ニュージーランド代表との国際親善試合に臨む。ロンドンに旅立つ五輪代表にとって、日本で行われる最後の試合となる。

 この壮行試合は、途中出場した杉本健勇が先制ゴールを挙げたものの、終了間際に村松大輔が相手にボールを奪われたことがきっかけとなり失点してしまう。結果は1-1の引き分けとなり、五輪代表は、ロンドン出発前にチームを勢いづけようと望んだ試合を勝利で飾れなかった。

 試合後の監督会見で、関塚隆は、何度も得点チャンスを作りながら追加点を奪えずに最終的にドローに終わった試合を振り返る。
「こういう試合をやったらグループリーグで勝ち点を失うことになる」と、厳しい表情で話す。

 さらに、「もっとシュートへの意識を高めないとならない」と決定力不足についての課題を挙げた。

 引き分けとなったニュージーランド戦の試合の展開を、じっとスタンドから見守っていた一人の選手がいた。選手の名前は吉田麻也。オーバーエイジ枠で五輪代表に呼ばれた彼だったが、怪我によるリハビリが終わったばかりだったので、関塚は無理をさせずに吉田をピッチの外からチームを見させた。

 吉田はこの試合を見て、気になる点をいくつか挙げる。

 1つ目は、「DFの最終ラインが少し低く感じたこと」だった。吉田が指摘するように、本当に日本のDFラインは低いのだろうか? もしDFライン低かったならば、それはどういった理由からきているのか? 吉田の指摘が正しいのかどうかを探るために、まず、ロンドン五輪以前の日本の守備戦術について説明する必要がある。

 関塚は、選手たちに「まず縦を切れ!」という指示を送っている。監督の「まず縦を切れ!」の指示には、いったいどのような意図があったのだろうか?

 日本の守備戦術に関して、権田修一は、次のように話す。
「五輪アジア予選の時は『まず縦を切れ!』と言われました。中東のチームは、うしろでボールを持ったらすぐにロングボールを蹴ってくるんです。それで、DFを走らせて、相手のFWとぐじゃぐじゃな状態になって、セカンドボールを相手に拾われてチャンスを与えてしまう。

 そんな感じで相手に押し込まれるケースが多かった。監督が、『まず縦を切れ!』と言ったのは、たとえば相手のCBがボールを持ったら、そのCBに一回で前にロングボールを蹴らせたくないという考えがあったからです。ボールを持っているCBにFWがプレシャーをかける。

 そして、CBがプレッシャーを嫌って、ボールを隣にいるCBに横パスする。そこで相手に1回でロングボールを蹴らせないのだから、『縦を切れ』というやり方は成功しています。ただし、CBにプレスに行ったFWがボールを追ってもう一度ボールを渡されたCBにプレッシャーをかける。その際にボールを奪える状態ならば『ボールを奪ってしまえ』と。

 そうすると、どんなことが起こるのかと言うと、2度追いする選手が多くなってくるんです。CBにプレスに行った味方の選手が、今度はもう1人のCBにもプレスに行くわけですから。CBにプレッシャーをかけて縦を切ることができて、サイドにボールが渡ったとしても、縦を切るというやり方では、最初に追ったFWもまた行かないとならない。じゃあ、2列目やボランチの選手はいつプレスに行かないとならないのか。

 FWがボールを追ったのと連動してプレスに行くのか。そうした具体的な約束事はありませんでした。『ここからプレッシャーをかけよう』という明確な出発点がチームにはなくて、FWの選手は、『正直言ってきついんだよね』とよく言っていました」。

 権田の説明が、日本の守備戦術のメリットとデメリットのすべてを言い当てている。

 関塚の「まず縦を切れ!」という指示は、相手のDFに1回でロングボールを蹴らせないための対策だったことがわかる。アジアのチームは、日本を相手にした場合、ほとんどが自陣深く引いて守って、ボールを奪ったら日本のFWの背後を目がけてロングボールを蹴るというカウンター戦術をとる。

 そういう戦術に対して、ボールを蹴るDFに簡単にフィードさせない状態を作る必要がある。だから、関塚は、チームの守備戦術として「まず縦を切れ!」というやり方を選択した。

ファーストディフェンダーであるFWの守備の役割

関塚隆
Photo by Getty Images

 日本が、どのような守備戦術をとっているのかを見るには、日本のチームが「ボールを持っていないとき」にどうやって選手が動いているのかを見ればよい。つまり、相手が「ボールを持っているとき」の状態が、日本が守備に回っているケースになる。その際に、最初に注目するポイントは、FWがどこの位置を出発点にして、相手陣内のどこまでボールを追っているのかである。

 守備の起点は、FWによって作られる。最初にボールを追うFWをファーストディフェンダーと言う。たとえば、[4-4-2]というフォーメーションのチームがあったとする。[4-4-2]の最初の4は、DFでCB2人とSB2人で4バックを敷いている。[4-4-2]の真ん中の4は中盤の選手を示す。CH2人にSH2人などがそれである。

[4-4-2]の最後の2は、FW2人を表す。ファーストディフェンダーとは、このFW2人のうち、ボールを持っている相手のDFに最初にプレスにいく選手のことである。誰が行くのかは、チームによって決められている。

 五輪代表のフォーメーションは、[4-2-3-1]なので、[4-2-3-1]の1にはFWがポジショニングしている。ファーストディフェンダーは1にあたるFWが務めることになる。日本の場合、永井謙祐や大津祐樹がファーストディフェンダーとなる。

 チームの守備戦術に関しては、通常、2つのパターンがある。1つは、「中を切って外に追う」というやり方である。まず、相手のDFがボールを持っていたら、ファーストディフェンダーのFWは、どの位置から出発してどこまでボールを追うのかが決められる。追いかける際に、ボールをタッチライン側のサイドに追い込む。このことを「中を切って外に追う」と言う。サイドにボールを追い込んだら、今度は味方のSHなどボールの近くにいる選手たち数人が囲んでボールを奪う。

 2つ目は、「外を切って中に追う」というやり方である。ボールを外に追い込むのではなく、今度は逆に、ピッチの中にボールを呼び込んで、そこで人数をかけて奪うというもの。ほとんどのチームは、約束事としてボールをどこに追い込むのかについて選手全員で意思の疎通がなされている。

 では、日本のやり方はこれら2つのパターンのどちらを採用していたのだろうか? 永井は、「相手が引いて守っていてうしろでボールを回していても、行けるタイミングならプレスに行こう、というやり方でした」と述べる。つまり、ファーストディフェンダーの感覚に任せてプレスがはじまるこということだ。

 そして、どの位置からプレスをスタートするのかは明確に決められていない。また、FWが相手のCBにプレスに行って、CBは近くにいるCBにボールを渡したなら、再びFWはそのボールを追いかけなければならない。ここで1人の選手が2度ボールを追うという状況が生まれる。

 さらに、CBが近くにいるSBにボールを渡したなら、今度はSHの選手、たとえばSHに清武弘嗣がポジショニングしていたなら、彼がSBにプレスに行くことになる。SBがプレスを嫌ってGKにボールを戻したなら、清武はGKまでボールを追わないとならない。ここでも2度ボールを追う現象が起こってしまう。

 こうした攻撃陣のプレスを90分間続けることは、相当の体力の消耗に繋がる。アジアのチーム相手ならば、DFのボールを止めて蹴るという技術もレベルが高くないので、ボールを追って行くことで、ミスを誘発できるケースもあるだろう。

 だから、関塚は、「まず縦に切れ!」という指示をだしたのだし、その戦術は、アジアのチーム相手にはある程度うまくいっていたことは確かであった。

<Episode 8「吉田麻也の冷静な指摘<」に続く>(1月7日更新予定)

【BACK NUMBER】
●Episode 6 メンバーに選ばれた永井謙佑の重責
●Episode 5 最終選考メンバー発表の明暗
●Episode 4 キャプテン山村和也という存在
●Episode 3 チームの雰囲気を一変させた選手だけのミーティング
●Episode 2 攻撃側の選手と守備側の選手の乖離
●Episode 1 不協和音はロッカールームから始まった

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