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【ロンドンの残光】ロンドン五輪サッカー日本代表の真実「Episode 4 キャプテン山村和也という存在」

2014.12.24

Getty Images

キャプテン山村和也という存在


Photo by Getty Images

 U-23五輪代表がアジア予選を戦っているときに、試合に山村和也が出場している際は、彼がキャプテンマークを巻いていた。スタメンで試合に出ていない場合、あるいは試合途中で交代させられた場合、山村がつけていたキャプテンマークは、権田に手渡された。試合でキャプテンを任されたことのある権田は、いったいどのようなキャプテン像を持っているのだろうか?

「キャプテン。その名前にこだわる必要はないと思うんですよね。キャプテンという存在がチームの中で大き過ぎることで、プラスの面もあるし、逆にマイナスの面もある。たぶん、欧州や南米出身の選手ならば、個人の意思がはっきりあるので、チームにとってキャプテンの存在が大きかった場合でも、『自分はこうだ』と主張できると思うんです。僕も含めて、日本人は、キャプテンにいろんなことを任せてしまうところがある」

 そう話した権田は、「キャプテンという言葉が、プラスに働かないことが多い気がするんですよ」と、マイナス面をいくつか挙げた。

「キャプテンがいるから」、「これはキャプテンにまかせよう」、「これはキャプテンの仕事でしょ」

 つまり、キャプテンという存在によって、選手が本来持たないとならない個人の当事者意識というものを持ちにくくしているのではないのか、ということだ。それも、広い意味で日本人が持っている特性なのではないのか、と権田は考えている。

 それは2011シーズン、FC東京がJ2で戦っていた時、湘南ベルマーレとの対戦で気づいたことだった。湘南は、毎試合キャプテンを代えていた。

「あれ、お前なんでキャプテンなの?」と、不思議に思った権田は、その試合でキャプテンマークを巻いていた選手に尋ねる。

「いやー、今週は俺なんだよ」と、その選手は答えた。

 権田は毎試合キャプテンを代えていることを知って、「なるほど、そういう手もあったのか」と感心する。

「うまくやっているんだな、思いました。絶対的なキャプテンを置いてしまうことで、もしも若い選手が多いチームならば、絶対的なキャプテンに依存してなにもかにも頼ってしまうことが多くなる気がします。チームの中にリーダーは必要。

 チームをまとめるためにみんなで話し合う機会をもうける際、司会者としてのリーダーは必要だと思うんです。チームに絶対的な存在としてのキャプテンは本当に必要なのかどうか、考える必要があると感じています。まあ、そう思うのは、僕自身、キャプテンとなってチームを引っ張って行こう、という意識はあまりないからなんでしょうが」

 では、五輪代表のアジア予選で、常にキャプテンマークを巻いていた山村の存在はどのように権田に映ったのだろうか?

「ヤマ(山村)はチームのキャプテンなんですが、僕の中では彼はチームを広く見てくれるリーダーという存在です。ヤマが試合に出ていないときに、僕は代わりにキャプテンマークをつけるというだけです。そこにはそれ以上の意味はありません」と、権田は淡々と話す。

「チームを広く見てくれるリーダー」であると権田に言わしめた山村は、事があるごとに周りに配慮した視点を持ってチームに接している。

「選手だけでミーティングしたらどうですか?」、「今、チームにとってこういうことが必要なんじゃないですか?」、「次の試合はメンバー外れちゃう選手もいるけど、みんなで一つになって戦おうよ」と、声をかけるのは、いつも山村からはじまっていた。山村というプレーヤーは、アジア予選の時からチームにはなくてはならない存在になっていたのである。

コーチングの重要性に気を配る

 コーチングの大切さについて、権田はいつも注意を払っていると言う。

「僕は、GKというポジションだから、周りが一番見えるポジションにいるわけですよね。そこから見えることを、フィールドプレーヤーに話したりします。練習中、気づいたことに関して、その選手にどんどん声をかけます。

 五輪代表では、自分がキャプテンマークを巻いた際にコーチングするとき、特にキャプテンであることを意識しないように声をかけていました。もっと言ったら、五輪年代で僕が一番年上になるんですよ。だから、聞く人によっては、上から目線でモノを言っている、と思われかねない。

 コーチングって一方的でもダメだと思うんですよ。相手と会話ができないとコーチングは成り立たない。だから一方的に『こうしろよ』とか『やれよ』と言っても、ただの命令になってしまう。僕は、それはコーチングじゃないと思っているので。僕の中でコーチングは会話そのものなんです」

「今のシーンだったら俺はこっちの選択がいいと思うんだよね」と権田が相手に問いかけることで、相手はなにらしかの答えを返してくれる。そうして会話を積み重ねることがコーチングであると彼は考えている。

 五輪代表の練習中にこんな場面があった。

 鈴木大輔に権田が声をかける。

「大輔!今のどういう意図でやったの?」

 そこで、鈴木は権田に近づいていきて、鈴木の意見を述べた。それに対して、権田はこう話す。

「俺はGKじゃん。うしろから見ていて、こうしてくれた方が守りやすかったんだよね」

「ああ、そうですね。わかりました」と、鈴木も権田の意見に納得した。

 練習中にミスを犯した選手には、時として厳しいコミュニケーションをとる場合もある。「お前それ、積極的にチャレンジしようとしたからの? それともネガティブになって、ちょっとビビッてやったの?」と問いかけることもあった。

「プラスの意図を持ってやってしまったミスならば、全然問題ないと思うんですよ。でも、もしも内心でビビッてやってしまったプレーならば、『それは違うだろう』となりますよね」。

 逆に、試合中に犯したミスならば、「ミスした本人がどうしてミスしたのかを一番わかっているんだと思うんです」と言ってミスを犯したことにあえて触れないようにしていると話す。いいプレーをした選手に対しては、「それだよそれ。ナイスナイス」とポジティブな内容の声をかける。時間帯によっては、「今、このプレーに集中だよ!」と選手に促す。

 練習中からコミュニケーションをとっていれば、「ああ、この選手はこういった思考を持っているんだな」とか、「こうした時にこうなりがちなんだな」というその選手の思考の癖がわかってくるとも述べる。

【BACK NUMBER】
●Episode 3 チームの雰囲気を一変させた選手だけのミーティング
●Episode 2 攻撃側の選手と守備側の選手の乖離
●Episode 1 不協和音はロッカールームから始まった

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