FOLLOW US

【ロンドンの残光】ロンドン五輪サッカー日本代表の真実「Episode 2 攻撃側の選手と守備側の選手の乖離」

2014.12.17

攻撃側の選手と守備側の選手の乖離


Photo by Getty Images

 選手たちは、1対1で前半を終えてロッカールームに戻ってくる。関塚監督は、ハーフタイムの間に行われたミーティングで次のような指示を送った。

「もっとボールを繋げるからな。繋げるところは繋いで行こう!」

監督の言葉に同調したのは攻撃側の選手たちだった。

「そうだよ。もっとボールを繋ごうよ」と、ある選手が話す。

「繋げよ、なんで繋がないんだ、まったく」と、言う選手まで現れた。

 試合中、後方にいる選手に「もっとボールを足元に出してくれよ!」と要求する前方の選手もいた。後方からロングボールをFWの頭を越えて蹴ってくる守備側の選手のやり方に、攻撃側の選手は苛立ちを隠せずにいる。一方、批判された守備側の選手たちの1人は、攻撃側の選手に対して「お前たちが考えているよりも、相手の前線の選手のプレッシャーが激しいんだよ。ボールを繋ぐにはリスクがある。要求することはわかるけど、それは現実的にはきついよ」と言葉にしなかったが、胸の内で思っている者もいた。

 この試合でスタメン出場していた永井謙佑は、シリア戦でのこうした出来事を次のように述べた。「グラウンドの状態もよくなかった。だから、立ち上がりはリズムをつかむためにも、後方からボールを蹴るのは、全然問題なったと思います。ただ、試合途中になるとリズムを作りたいので、ゲームのリズムを作る意味でもボールを繋いでほしかった」。

 監督が話した「ノーリスク」という意味に関しては、「僕ら前線の選手は、『リスクを負わないで』と言われたとき、横パスを増やさないで早い縦へのパスを使って攻撃することだ、と理解したんです。サコ(大迫勇也)がトップで張っていたので、サコにボールを当てて僕ら2列目の選手がスペースに動く、というイメージを持っていました」と語る。

 ある守備側の選手は、ハーフタイムに「繋ぐのは難しいよ。苦しい時はどうしても蹴ってしまう」と永井に打ち明けた。永井は「そこは仕方がないから、蹴ってもいいよ」と答えた。そして、彼は内心こう思った。「前線の選手は、後方の選手の意見も聞いてあげないと。結果として、失点しまうと状況が苦しくなるからな。彼らの意見の方が大事なときもあるから」。

 選手間でこうした様々なやり取りがあった中、権田は、ハーフタイムのロッカールームで選手たちが話している会話を耳にして、「ノーリスクで行こう!」という言葉の意味が、関塚が伝えたかった意味と選手たちが理解した意味では、相当な隔たりがあったことを感じ取ったのであった。

敗北のすべてを背負い込むゴールキーパー

「対応しないとやられる」

 権田は、味方の選手にボールが当たってボールのコースが変わる、と瞬時に察知した。

 前半19分、FKを得たシリアのファレスがボールを蹴る。ニアサイドにいた大迫勇也の頭にボールが触れて、軌道が変わって権田の方に向かってくる。ボールの変化に対応しようとした瞬間、体は頭の指令についていけずに無常にもボールはゴールに吸い込まれる。

 権田は先制点を振り返って、次のように話す。

「僕は、失点したのは自分のミスだと思っています。ミスの基準って人それぞれにあると思うんですよ。『あれをミスだ』と言う人もいれば、『あれはミスじゃない』と言う人もいる。ミスって自分が防げるボールなのに防げなかったことを『ミスだ』と言うので、僕の個人的な基準としても防げる失点だった。だから自分の中でもミスでした。1点目の失点は、ぎりぎりのところで判断を変えようとしたんです。最初は正面にボールが飛んできたので、体の正面でボールを取ろうとしました。そうしたら、自分の前にいた大迫に触ったのがわかったんで、ボールが変わった方のコースに入ってはじき出そうとしたんです。なんならボールを前に落とそうかと。それが、足を運べないまま上半身だけでボールに行ったので、キャッチもできなかったし、ボールを前にはじくこともできなかった。GKにとっては基本的なことですよね。ボールの正面にしっかりと入るということは。そんな基本的なプレーができなかった。大迫にボールが当たって、『あっ、対応しなきゃ』と頭で動きを変えようとしたのに、基本に忠実に対応しきれなかった。変に応用をきかせようとしたんです。あれは、『普通に倒れてオーバーハンドで取ればいいでしょ』というプレーでした。僕は、ちゃんとボールの正面に入れていなかったのに、ボールの正面に入ろうという思考だけが先立って、体とのバランスを取れていなかった。だから、手だけ前に行っていたんです」

 後半45分。日本がクリアしたボールをハーフウエーライン付近で拾ったアルサリフが前に持ち出す。ゴール前にいたシリアの選手がDFの裏に抜けるような動作をする。その選手の動きが権田の視界にちらっと入ってくる。

「スルーパスか!?」と、思ったとき、意表を突くミドルシュートが放たれる。ボールはドライブがかかり権田の頭上を越してゴールネットに突き刺さる。

 この試合での日本は、前半終了間際に永井謙佑のゴールで追いついた。しかし、後半45分にアルサリフに勝ち越しゴールを許したのだった。

 2失点目を振り返って、権田は状況を詳しく解説する。

「2点目は、自分が『ミドルシュートに対して、しっかり準備ができていたのか』と自問しました。ミドルシュートが打たれる瞬間に、僕の目の前でちょっと動作したFWの選手がいたんです。その選手の動きに対して『あっ、スルーパスかな?』と頭の中で思ったんですよ。動いた選手に体は直接には反応していなかったんですが、『スルーパスがくるな』と思ったらミドルシュートを打たれていた。そのときに、『スルーパスがくる』としか思わなかったんです。中東のチームと対戦するなら、シュートレンジが広いというのを頭に入れておかないとならなかった。『あそこからシュートはない』とは思わなかったんですが、『シュートを打ってくる』という選択肢が持てなかった。それが、準備の遅れた要因の1つです。2つ目ですが、シュートに対して動作が遅れたのは、最初にポジショニングしていた場所の位置のままでボールをクリアしようとして飛んだことです。あの場面での対応は、いろいろと振り返って考えることができる。自分のゴールに対する立ち位置がわかっていれば、もしかしたら、一歩うしろにステップして飛ぶことができた。そうすれば、キャッチできたかもしれないし、前にパッとボールを落とすことができたかもしれない。あるいは、片手でいけばよかった、とか。いくらでもやり方があって。だから、あの失点も防ぎようができたと思うので、僕のミスでした。1点目は、ここがマズかったな、と答えがすぐにでる失点だったんですが、2失点目は、マズかった点に関する答えがいくつも考えられる失点でした」

 試合が終わって、鈴木大輔が権田に声をかける。

「俺がもっと前にプレスに行けばよかった」

 別の選手は、沈んでいる権田の姿を見て話す。

「クリアをもっと大きくしておけば……」

「いや、そうじゃなくて…あれは、俺のミスだから」と、権田は彼らの言葉に「俺のミス」と返すしかできなかった。

「僕の中では彼らの言葉を受け入れられる状態じゃなかったんです。『防げたのに』ということが頭にあったから。試合に負けた瞬間は、自分のミスのことしか頭になくて。終了間際の失点というショッキングなことだったので」と、その時の心情を打ち明ける。

 権田には、自分のミスで試合に敗れた、という目の前の現実しか見えていない。チームとして、シリアとの戦い方はどうだったのか、という俯瞰した視点をもつほどの余裕は、そのときの彼にはなかった。いつもなら冷静にフィールドプレーヤーの動きを見て、試合の流れを感じとることができる。しかし、この日の敗北は、権田の肩に重くのしかかっていた。

【BACK NUMBER】
●Episode 1 不協和音はロッカールームから始まった

SHARE

LATEST ARTICLE最新記事

RANKING今、読まれている記事

  • Daily

  • Weekly

  • Monthly

SOCCERKING VIDEO