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<インタビュー>粕谷さんがプレミアリーグ最終節のみどころを語る「リヴァプールのゴールショー」

2014.05.09

 J SPORTSでイングランド・プレミアリーグの解説を務める粕谷秀樹さん。マンチェスター・ユナイテッドのファンとしても知られている粕谷さんが、2013‐14シーズンのイングランド・プレミアリーグを振り返り、最終節のみどころを語った。

――まずは今季のプレミアリーグの全体を振り返っていきたいと思います。やはりマンチェスター・ユナイテッドの低迷に触れないわけにはいきません。

粕谷秀樹 そうでしょうね。優勝争いよりもモイーズ解任のほうがクローズアップされてしまうくらいですから。英国のメディアでさえ『ユナイテッドの次の監督は誰だ?』というニュースが優勝争いよりも大きく扱っています。ユナイテッドだけでなくプレミアリーグ全体がファーガソンの影を引きずっている感じですね。26年、長すぎたかもしれません。

――ウェブメディアの編集は、「モイーズ」と見出しに入れるとアクセスが伸びるなんてことを言っていました。

粕谷秀樹 そうだなあ。結局、みんな否定的な原稿を楽しみにしてしまっている部分もありますよね。でも、優勝争いがそれに食われたとは必ずしも思っていません。たとえば日本ではアーセナルと並んで人気のあるリヴァプールがあれだけの連勝をして盛り上げてくれましたし、やっているサッカーもヨーロッパのトレンドに一番近いチームですしね。何より日本にいるイングランドフットボールファンなら誰もが好きなスティーブン・ジェラードのチームですから。

――マンチェスター・シティ戦ではジェラードの男泣きもありましたね。

粕谷秀樹 みんな見たいですよね、最後にそういうシーンを。……まあ、僕は見たくないですけれど(笑)。リヴァプールとマンチェスター・シティ(以下シティ)が優勝争いするなんて俺にとっては最悪です(笑)

――粕谷さん、ユナイテッドファンですもんね。今季がそんな最悪の展開になってしまった理由となると……。

粕谷秀樹 もちろん、ユナイテッドは監督に問題がありました。優勝争いに残った3チーム(シティ、リヴァプール、チェルシー)について言えば、身の丈に合ったサッカーをそれぞれしていたと思います。シティについてはどこかで勢いが鈍ってくるんじゃないかと疑っていたのですが、やはり潜在能力の高さは抜けていますね。チェルシーはジョゼ・モウリーニョのチームですからね、簡単には負けない。僕はずっとチェルシーを優勝候補筆頭に推していましたから。3強はいずれも監督がうまくやり繰りしました。躍進したエバートンも同様です。逆に監督がヘマをやったアーセナルは、早々と優勝争いから脱落しています。あらためて『監督力だな』と思わされるシーズンでした。

――アーセナルはちょっと及ばずでした。

粕谷秀樹 ジルーの代わりがいなかった。センターフォワードタイプをシーズン前から取っておけばというところですよね。シティやチェルシーと比べるとローテーションでの選手起用を含めて“うまくなかった”という印象が否めない。一方、リヴァプールについて言えば、チャンピオンズリーグに出ていないアドバンテージが絶対的にあったシーズンでもありましたね。

――「監督力」という意味では、あらためてモウリーニョ監督が帰ってきたチェルシーについて聞いておきたいのですが。

粕谷秀樹 彼が辞めてから何人もの監督がチェルシーに来ましたよね。アンチェロッティもいて、ベニテスもいた。でも誰が監督になっても、不協和音が聞こえてきた。優勝もしましたけれど、まとまりは感じられなかった。テリーやランパードが政治力をもって歴代監督を追い詰めてきた面もある。でも、モウリーニョが帰ってきた途端に不平・不満が聞こえなくなった。人間関係の構築が巧みというか、モウリーニョの管理能力によるものでしょう。確かに(レアル)マドリーで失敗しました。でも、やっぱりあのチームは特殊ですよ。スペイン人選手たちが結束してモウリーニョを悪者に仕立て上げ、メディアも乗っかってきた。そんな奇異なことが起こるのは、マドリーだけでしょう。モウリーニョははめられたんじゃないかな。まぁ、彼にも責任はありますけどね。

――チェルシーのファンにとっても、モウリーニョは特別な存在なのではないでしょうか。

粕谷秀樹 きっとそうでしょうね。モウリーニョの第一期体制(2004-07)の前後からチェルシーを好きになったというファンなんて、特にそうでしょう。神様みたいに見えるかもしれない。それだけの実績を残しましたからね。ファンは彼にずっと監督をやってもらって、テリーやランパードにつないでほしいくらいに思っているかもしれません。

――テリーもそろそろ最後のシーズンかという話も聞きます。

粕谷秀樹 仮に残ったとしても、来季は使わないかもしれませんね。モウリーニョはドライなところもありますから。ただ、コーチ修行じゃないけれど、テリーは残るんじゃないかな。チェフやランパードも含めて最後になるかもしれない。チェルシーは、そういう時期ですよね。

■本当にポゼッションサッカーが最高?

――チェルシーは4月のリヴァプール戦の後、粕谷さんが「守りには守りの“芸術性”がある」と書かれていたのが印象的でした。

粕谷秀樹 日本の場合、『バルセロナが素晴らしい』となったら猫も杓子も『ポゼッションが最高のサッカー』となってしまうところがある。攻撃が最良で、ディフェンスに重きを置くのは罪悪、みたいなね。でも、全チームがバルセロナを目指したら面白くも何ともないでしょ。バルセロナのスタイルはタレントが揃い、下部組織から長年かけられるから可能であって、異なる条件のチームでは難しい……。ではバルセロナと向かい合ったとき、勝つためにどうするか。その最適解の一つを持っているのが、戦略家であり、戦術家であり、現場監督でもあるモウリーニョじゃないでしょうか。ポルトで初めて観たときから、すごい監督だなと思っていました。てっきりユナイテッドに来てくれるものと思っていたし……(笑)

――ポゼッションという視点でプレミアリーグを観るといかがですか。

粕谷秀樹 リヴァプールはポゼッションが基本ですが、適度にカウンターをミックスしているでしょ。ポゼッションにこだわっていたアーセナルも、近ごろは柔軟になってきました。ポゼッションだけでは限界があるというか、むしろポゼッションだけの時代ではなくなっているのかもしれません。そもそも絶頂期のバルセロナだって、メッシがいて全盛期のシャビとイニエスタがいて成立していた面がある。バイエルンにしてもメンバーがそろわなければ同じこと。何でもかんでもバルセロナが素晴らしい、ポゼッションが素晴らしいと安直になってしまう風潮が日本にはありますけれど、もっと冷静に観ていったほうがいいんじゃないかな。一本もシュートを撃たずに前半を折り返しても、支配率が高かったから良かったなんて監督もいますが、それはね……。日本人の個性に合っているのって、もしかするとバルセロナではなくてドルトムントじゃないの? とも思っているんですよ。

――「正しいサッカーはこれ」と決め付けないほうがいいということでしょうか。

粕谷秀樹 自分の理想を元にして、その視点だけから海外のサッカーを当てはめて観ていく、あるいは抽出していくとなると、間違った方向に向かうのではないでしょうか。

――実際のヨーロッパのサッカーには多様性がありますよね。リーグごとの個性もあると思いますが、粕谷さんから観たプレミアリーグの魅力・特長というと何でしょうか。

粕谷秀樹 やっぱり、スピードですよね。もちろん、昔ほど前には急がなくなっていますよ。スタンドからも『Enough!』という声が掛かるくらいですから。『もう十分だ、横に回せ』ってね。ただ、やっぱり速さは魅力。あのスピード感がなくなると、それはもうプレミアリーグではなくなると思いますし。他のリーグと比べると雑だと言われるけれど、それでいいんじゃないかな。

■最終節のみどころ

――この土壇場で首位に立ったシティについてはいかがですか。

粕谷秀樹 正直に言えば、彼らからリヴァプールやチェルシーみたいなチームとしての本当の一体感というのを感じたことはないんですよ。個々が勝手にやっているチームが融合したときは本当に強いんですけれど、安定はしないですよね。特に2014年になってからは出来・不出来の差が激しかった。でも、個人としての力で言えば、やっぱりシティなんですよ。今季は混戦になりましたけれど、もしもぶっちぎるとしたらシティだった。それだけの選手層を持っている唯一のチームだったわけですから。質と量の双方を持っていた。最終節を前に首位に立ち、得失点差などでも圧倒的に有利ですから、2シーズンぶりの優勝はほぼ間違いないものの、前半戦に比べると、後半戦のペースダウンはガッカリでしたね。

――最終節の予想は?

粕谷秀樹 プレミアリーグでは近頃なかったくらいの混戦ですよね。日本人選手が絡んでないのが残念とも言えますが、偏りなく楽しめるかなという気もしています。

――最終節どれも注目ですけれど、あえて選ぶとなると、どのカードがオススメでしょうか。

粕谷秀樹 そうですね。まず、いまニューカッスルはちょっとチームとして体をなしていません。何も目標がないゆえですけれど、そのチームがリヴァプールと当たる。スアレスのハットトリックをはじめ、リヴァプールのゴールショーを楽しめる気がします(笑)。

――では最後に、その最終節に向けて、3強それぞれのキーマン、注目選手を教えてください。

粕谷秀樹 まず3位のチェルシーでは、シュールレ。攻守の切り替えの素早さ、献身性はモウリーニョが一番好きなタイプですよね。来季以降のチームで核になるということも考えて、彼を選んでおきたい。2位のリヴァプールは、これはスアレスですかね。ヘンダーソンが戻って来るのも注目点です。ただ、プレミアリーグのファンにこのタイミングでオススメするとしたら、それはもうジェラードしかないでしょう。彼のことを嫌いだって人はまずいないですからね。

――では、1位のシティはどうでしょうか。

粕谷秀樹 ミルナーですね。あのチームはどうしてもラテン系のテクニシャンに目がいくと思うんです。でも、相手ボールになったときに一番素早く反応するのは大抵がミルナーなんです。逆サイドにいても穴を埋めに来ますからね。そういうチームのためにという彼の姿勢を僕は買っています。アストンビラの時は自分中心で、いわゆる10番タイプだったと思いますが、いまは違います。そういう全体を観て自分の立ち位置を決められるというのも、彼の個性でしょう。

――では、最終節は彼らに注目していきたいと思います。今日はお忙しい中、ありがとうございました。

粕谷秀樹 最終節、すっっっごく、面白いと思いますよ。個人的には『どうすれば全部観られるの?』という感じですね(笑)

※13/14イングランド・プレミアリーグ最終節は、J SPORTS で視聴出来ます。

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