2016.11.16

【サッカーに生きる人たち】「選手が輝く場所」をつくっていく|勝矢真美(グラウンドキーパー)

編集者、サッカーライター、スポーツカメラマンを目指す人のためのアカデミー

 サッカーを楽しむべくスタジアムを訪れると、そこには当たり前のように青々としたピッチが広がっている。青空に映える芝生――見慣れたその光景をつくっているのが「グラウンドキーパー」だ。日々芝生を管理し、最高のグラウンドコンディションを整える芝生のエキスパートとして真摯にサッカーに向き合う。

 さわやかなショートカットが似合う勝矢真美さんもその一人だ。味の素スタジアムやNACK5スタジアム大宮など、多くのグランドを整備する株式会社オフィスショウに勤務している。

 高校生の頃は女子サッカー部に在籍し、自らプレーしていた。同時に植物にかかわる仕事にも興味を抱いており、東京農業大学に進学する。地域環境科学部の造園科学科では屋上緑化や芝生に特化した研究室で学び、徐々にグラウンドキーパーという職業に引かれていった。

「サッカーに携われて、なおかつ好きな植物にもかかわることができるので芝生に興味を持ちました。大学3年生の時に、大学の先輩の紹介で初めてアルバイトとしてグラウンドキーパーの仕事を体験しました。その時は夏休みの間しかアルバイトできなかったんですけど、4年生になったら授業も大分減っていたので、さらにグラウンドキーパーのアルバイトに打ち込める環境になりましたね」

2種類の芝生を使い分け、最高のピッチを用意する

 取材当日はあいにくの小雨模様。勝矢さんは雨雲レーダーをのぞき、30分単位で細かく天気をチェックしていた。芝生を刈るタイミングなどに、天候が大きく影響するからだ。気まぐれとも言える自然を相手にするには、移り行く空模様に応じて臨機応変に対応しなければいけないという。

 普段の作業としては、芝刈り・散水・施肥の3つがとても大事だと話す。

「芝刈りに関して言うと、天気が良くて芝生がよく伸びる時期は、毎日刈りながらどんどん増やしてあげます。肥料は1~2週に1度定期的にあげています。人間がご飯を食べるのと同じく、きちんと栄養を与えないといけないんです。散水は葉っぱが乾燥しないようにするのが狙いで、状況に応じて水を与えて水分を維持してあげます。基本的に天候が悪い時に芝生は刈れないので、雨が続く梅雨の時期だと芝生も刈れないですし、肥料もやれない。芝生もお日様がないとどんどん弱っちゃうのでグラウンドキーパーとしては頭を悩ませますね」

 春先は青々としているが、冬から春先までは茶色くなるのが一般的な芝生だ。だが、スタジアムのピッチは一年中青々としている。絨毯のようにびっしりと生えそろった美しい芝を保つには、2種類の芝生を巧みに使い分けるのだと話す。

「Jリーグの規定で通年通して緑であることが求められていますが、夏芝だけで維持していくのは難しいんです。夏芝は7月から10月上旬までで、それ以降は茶色くなってしまいます。なので、休眠している夏芝を下地に10月に冬芝の種を蒔いて、Jリーグが開幕する3月に最高のピッチを作れるように備えるんですよ」

 グラウンドキーパーの仕事は芝生の管理だけにとどまらない。ピッチにゴールを運び、ラインを引くのもJリーグの試合開催時に欠かせない重要な仕事だ。試合当日に、くっきりと描かれた美しいラインを見せるために、最適なタイミングを探りラインを引く必要があると語る。

「ラインが薄くなってしまうと試合はできないので、最悪でも試合ができる状態には常にしておかなければいけないんです。天候を常にチェックしながら、試合当日までの日程を逆算しながらラインを引きます。天候によってラインを引くタイミングが変わることもあるので、臨機応変な対応が求められます」

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「試合の時には芝生が注目されないほうがいい」

 勝矢さんが働く株式会社オフィスショウ代表を務める池田省治氏は、日本屈指のグラウンドキーパーだ。アメリカで最も有名なグラウンドキーパーであるジョージ・トーマ氏に師事した経験も持つ。ジョージ・トーマ氏はアメリカで絶大な人気を誇るアメリカンフットボールリーグの優勝決定戦「スーパーボウル」のグラウンドキーパーとして現在も活躍している。メジャーリーグベースボールの殿堂入りを果たしたことでも知られる伝説の人物だ。

 勝矢さん自身もスーパーボウルのグラウンドキーパーのクルーの一員として、研修でアメリカを訪れたことがある。アメリカではグラウンドキーパーの地位が確立されていると声を弾ませる。

「グラウンドキーパーって日本ではあんまり知られてないですし、地位もそんなに高くないので、未来のグラウンドキーパーを育てる制度もそんなにないんです。でも、アメリカでは認知度も全然違います。例えばアメリカだと『どこのグラウンドクルーなの?』とか『スーパーボウルのグラウンドキーパーなんてスゴイね!』とか一般の人がたくさん話しかけてくれたりします。なので、社長は日本でもグラウンドキーパーの地位を確立したいと昔から言っています」

 芝生の可能性を追求する世界に足を踏み入れて5年目。「私はまだ全然経験不足です。社長に育ててもらっています」と謙虚に語るが、グラウンドキーパーとしてのやりがいや達成感について尋ねると、裏方としての流儀とプライドが垣間見えた。

「選手が使いやすくて試合に集中できるグランドを提供できた時は、汗を流して働いてよかったなって思います。試合の時には芝生が注目されないほうがいい。ピッチが試合前やハーフタイムに注目されるってことは何かしら問題があるからで、試合の解説者にも『今日のピッチは良くないですね』とか言われちゃうと思うんです。すごく綺麗な状態で、何も文句のつけようがなければ誰もピッチに注目しないはずです。ピッチを褒めてもらいたくて仕事をしている訳ではないですし、あくまで裏方なので、ピッチは注目されずに選手が輝く場所をつくっていければ一番良いのかなと思いますね」

 自然が相手なので、美しいピッチを保つための絶対的正解はない。自らの経験がものをいう、奥深き職人の世界だ。勝矢さん自身も気を引き締める。

「天候によって肥料の種類や量も全く変わってきます。周りと情報交換しながらも最後は自分たちで決めなければいけない。それには経験の積み重ねが一番大事ですし、常に手探りで正解を探しています」

 明日もまた、勝矢さんたちグラウンドキーパーが、ひたむきに「選手が輝く場所」をつくっていく。

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インタビュー・文=高橋 歩(サッカーキング・アカデミー/現フロムワン・スポーツ・アカデミー
写真=藤本洋志(サッカーキング・アカデミー/現フロムワン・スポーツ・アカデミー

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