2016.09.09

中村憲剛×又吉直樹『僕たち、ちゃんと考えてます。』第2回:1秒後の世界と2行後の世界。

中村憲剛×又吉直樹『僕たち、ちゃんと考えてます。』

二人の頭の中は、一体どうなっているのか?
二人が醸し出す独特の雰囲気、その化学反応を見てみたい。
そんな発想がきっかけで、
中村憲剛選手(川崎フロンターレ)と
又吉直樹さん(ピース)との対談が実現しました。

今回は『マエストロ×作家の“創造力”』というテーマをぶつけてみましたが、
会話が弾みすぎて、自由気ままな展開に。
ゆるい話から、深い話まで。
中村選手と又吉さん、二人のトークをお楽しみください。
全10回の連載です。

1秒後の世界と2行後の世界。

憲剛さんは、1秒後にどうなってるかを考えてプレーしていますよね? 僕らには、1秒後の絵を想像するという感覚がないので気になります。

お笑いにはない?

はい。お笑いだとウケているイメージを持ってやるじゃないですか。ウケること前提で舞台に立ってるので、スベった時に本当に困るんですよ。

(笑)。

ホンマに対応できないんですよ。憲剛さんは「1秒後こうなってるのがベスト」っていう絵であったり、「でも、こうなるかもしれない」っていういろいろなパターンを考えているということですよね?

その場面、場面ですけどね。その前に相手のシステムや、どのポジションが強くて、どこが弱点なのか。そういう情報はすべて事前に頭に入れています。

へええ。

僕も14年やっているので、各チームの特徴はある程度把握していますからね。その特徴をうまく利用しながら出し抜いたりとか。もちろん、相手が上回ってくることもあるんですけど、それもすごく楽しい。「いかに出し抜くか」ってことしか考えていないです。

なるほど。

「そこに行くのか!」と見ている人がビックリするようなものを常に想像しているんですよ。「こうなったら面白いだろう」というプレーが、見ている人にとっても面白くて、「すげえ」って思ってくれる。そんなイメージが自分の中でもどんどん湧いてくるし、そういうパスを出していると僕が全然見ていなくても味方がガーッと走ってくれる。そこにパスを通すと、もう誰も予想できないプレーになるじゃないですか。ただ、僕がそれを想像しないと生まれない。あとは信頼関係ですね。

(味方が)走ったから出すのでもなく、出したから(味方が)走るのでもなく。両者が思い描けているから、相手は対応しにくいということですよね。

味方同士でイメージの共有ができていれば、たとえ相手が5人いようと2人で崩せると、いつも思っているんです。

へええ。いやあ、すごい。

なに偉そうにしゃべっているんだろう(笑)。そういえば、又吉さんの『火花』を読ませていただいたんですけど。

ありがとうございます。

書いている時に「これ面白いかな」と思って書いた文章がひょっとしたら面白くないかもしれないですよね。

そうなんですよ。

「これダメかな」と思ったものが意外に面白かったりするかもしれない。でも、それは“出たとこ勝負”だから、作家さんはすごく葛藤するんでしょうね。

そうですね。憲剛さんが言っていた「どうしたら相手を出し抜けるか」とか、「どうしたら見ている人が裏切られるか」、「どうしたらビックリするプレーをできるか」という考え方は、コントのネタ作りに割と近いんですよ。

ああ。なるほどね。

お笑いって、「こうなんかな」と思わせといて「そうじゃない」というのが醍醐味なので。

確かに。

小説を書いていて、お笑いとちょっと違うと思ったのは、おっしゃるとおり、“どうなるか分からない”こと。だから、自分で書いた文章に対する反応で、次を書いていくんですよ。自分の才能というか、考えられる能力の外にどうやっていくか。そうやって書いていったら、何か急に分からんことを書き出すんですよね。「え、何これ?」って思うんですよ(笑)。

自分でね(笑)。

「これ、どういうことなんやろ?」、「こういうことなんかな」と自分で解釈してからその次の文章を書くんです。だから、この1行がなかったら、次の1行は書けないんですよ。この1行によって次の1行を書けるから、現時点の僕は2行後のことは全く思いついてないし、全くたどり着いていないんです。

そうなんですか。でも、着地点はありますよね?

何となく想定はあるんですけど。

そこに向かっていく過程で、ほぼ予想どおりにはいかないということですよね?

そうなんです。

ほおお。この話、『サッカーキング』にはもったいないなあ(笑)。

――そんなこと言います? ひどい(笑)。

いやいや、だってこれ、すごい話してるから(笑)。

自分たちのサッカーをしたくても、相手にすごく特徴的な選手がいたら、そのプレーを受け入れつつやらんとダメじゃないですか。例えば、相手にめちゃくちゃ足の速い選手がおったら、そこは無視できないというか。

できないですね。

そいつが存在するサッカーの試合を作っていかないとダメじゃないですよね。

そうですね。

それとちょっと近いのかもしれないですね。

あああ。

僕も登場人物にビックリしてるんですよ。「え、何それ?」みたいな。

え? 書いてるのは又吉さんですよね?

はい。

(笑)。

例えば、『火花』という本は先輩、後輩の話で。

神谷さんとの。(編集部注:『火花』に登場する主人公の4歳年上の先輩芸人)

その神谷が「お笑いは美しい世界を作ってそれをぶっ壊したら、その後にさらに美しい景色が広がっていくもんや」って感じのセリフを言うんです。でも、芸人としての僕が知っているのは、美しい世界があって、それをぶっ壊したら笑いになるというところまでなんです。

そこは体感している。

なのに、神谷が急に「もっと美しい景色になる」って言い出したから、「ええ!? 何それ?」と思って。「それってどういうことなんやろな」って思いながら書いていくんです。

(笑)。

それがバカな発言なのか、すごい発言なのかかも僕はジャッジできないんです。ただ、「神谷が言ったことって、どういうことなんやろな?」と思いながら書き進めていくから、後半の構成にも影響を及ぼすんですよ(苦笑)。きれいに物語がまとまりかけているけど、「神谷は『ぶっ壊したほうがさらに美しくなる』って言ってたから、多分こいつはぶっ壊す動きを人生かけてやるんやろな」っていう。

最後、ぶっ壊しましたもんね(笑)。

そうなんですよ。それは僕が考えたことというより、神谷のそういうセリフによって導き出されるというか。

これ、主人公は又吉さんなんですよね? 僕の中では又吉さんのイメージになっていて。

僕ではないですね。

僕のイメージでは神谷先輩は、ブラマヨ(ブラックマヨネーズ)の吉田さんなんですよ。

ああ、なるほど。

あのめちゃくちゃな感じが(笑)。僕は読んでいてお二人のイメージが浮かびました。

芸人の間でも、「あれは吉田さんをイメージした?」と言う人が結構いましたね。

あ、本当っすか。じゃあ、あながち間違ってなかったのかな。

 

つづきます(第3回は10日7時公開)

 

取材・構成=高尾太恵子/写真=岩本良介

 

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中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年10月31日生まれ、東京都出身。東京都立久留米高から中央大を経て、2003年に川崎フロンターレへ加入。初年度から出場機会を得ると、2年目からはボランチへとコンバートされて主力に定着。2006年から2010年まで5年連続でJリーグベストイレブンに選出された。また、2012年から川崎の主将に就任してチームをけん引。視野の広さとパスセンスはリーグ屈指で、35歳となった今もなお強烈な存在感を放つ。
又吉直樹(またよし・なおき)
1980年6月2日生まれ、大阪府出身。お笑い芸人、脚本家、小説家、俳人といった様々な顔を持つ。2003年に綾部祐二と「ピース」を結成し、ボケを担当。キングオブコント2010で準優勝、同年のM-1グランプリで4位に入り、一躍脚光を浴びる。趣味の読書が高じて書評やコラムなどの執筆活動を行うと、2015年に自身が書いた純文学小説『火花』で第153回芥川龍之介賞を受賞。個性的なファッションからオシャレ芸人との呼び声も高い。

プレゼント

中村憲剛選手と又吉直樹さんの直筆サイン入り色紙を3名様にプレゼント!
応募期間
:2016年9月8日(木)〜2016年9月18日(日)23:59まで

たくさんのご応募ありがとうございました!

 

INFORMATION
スポーツニュース番組『追跡 LIVE! Sports ウォッチャー』(テレビ東京系)
(月~金 23:58~24:12/土 23:00~23:55/日 22:54~23:30)
MC:ピース
コメンテーター:中畑清、セルジオ越後、緒方耕一(日曜のみ)、秋田豊

 

今回の撮影で利用したお店
BLUE BOOKS café
〒152-0035 東京都目黒区自由が丘2-9-15 ユレカビル B1F