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覚悟のデンマーク移籍、鈴木唯人はガムシャラに這い上がる

2023.08.22

ミッティラン戦では出番がなかった鈴木 [写真]=Getty Images

 2023年1月にストラスブールへレンタル移籍したものの、昨シーズン限りで契約が終了し、7月に清水エスパルスへ復帰した鈴木唯人。それからJ2の3試合に出場し、8月6日の東京ヴェルディ戦では値千金の決勝弾を叩き出して、1年でJ1復帰を目指すチームのラストピースになるのではないかという期待もあった。

 しかしながら、本人は欧州挑戦への野望を抱き続けていた。Jリーグに復帰していた間も、とにかく可能な限り、コンディションを上げて、次なる環境で勝負を賭ける覚悟を固めていたのだ。

「今度こそ試合に出られるチームに行きたい」と熱望していた21歳の若武者が選んだ国は、欧州5大リーグでも、日本人選手が多いベルギーやポルトガルでもないデンマーク。名門のブロンビーへ赴くことが12日に正式発表されたのである。

 デンマークと言えば、かつて川口能活がノアシェランでプレーしたことがあるが、日本人には馴染みの薄いリーグ。そこであえて再出発することを決めたのは「原点回帰を図り、欧州で一からキャリアを築き上げたい」という強い思いの表れなのだろう。

「ストラスブールの半年間でリーグ・アン3試合しか出られなかったというのは事実だけど、それは過去のこと。『体の線が細い』とか『フィジカル的に弱い』とかいろいろな評価があったとは思いますけど、僕は日本人なので、それは仕方のないことだと思います。『だからダメなんだ』と言っていても、何も始まらない。僕らには僕らの良さがありますし、大事なのはそのマイナスイメージを覆せるか、覆せないか。どんな環境に行っても自分のプレーをすることができればいい。今の僕はフランスで出られなかった経験を次につなげていくしかない。小さなことを一つひとつ積み重ねていくしかないんです」

 鈴木は一時的に清水に戻っていた7月末、こう語気を強めていた。

本拠地でブロンビー加入セレモニーを実施 [写真]=Getty Images

 屈強な肉体を誇る大男たちがズラリと並ぶフィジカル色の強いフランスでは、技術やアイディア、創造性だけでは難しい部分があったのだろう。試合勘が失われていく焦燥感も日々感じたはずだが、ストラスブール5年間のうち4年間を控えGKとして過ごしてきた川島永嗣がすぐ近くにいた。

 鈴木唯人の加入時、川島は左肩を手術し、過酷なリハビリの真っ只中。代表キャリアの集大成だったFIFAワールドカップカタール2022でも出番を得られず、難しい時期を強いられていた。それでも常に前向きに力強く前進を続ける大先輩の姿を目の当たりにして、感じる部分は少なからずあったはず。

 長谷部誠らとも話す機会があったようだが、「今日頑張ったからといって特別な天才になれるわけじゃない。一つひとつの積み重ねでしか何も生まれない」という2人の言葉を聞いて、21歳の未来あるMFは自身の身の振り方を真剣に考えたという。

「やっぱり大事なのは毎日、どれだけ自分に厳しく取り組めるかだと思うんですよね。永嗣さんは無所属だった時のことも話してくれましたけど、厳しい環境にいる方が人間は間違いなく成長できる。僕はそう強く感じました」

 偉大な先人の言葉を真摯に受け止めたからこそ、鈴木唯人は日本人が数多くいるリーグを選ばなかったのだろう。デンマークはUEFAカントリーランキング17位で、オーストリア、セルビア、スイスなどよりも下。欧州の大会に関しても、優勝チームがチャンピオンズリーグ予備戦出場権、2位がカンファレンスリーグ予選に回るという狭き門だ。それでもブロンビーでリーグ制覇できれば、来季はCLに出られる可能性もある。実際、ブロンビーは3シーズン前の20-21シーズンはリーグ優勝を果たしている。チャンスがないわけではないはずだ。

 その前にチームで確固たる地位を築かなければならない。新天地初戦となった20日のミッティラン戦で鈴木唯人はベンチ入りしたものの、出番なしに終わった。チームは勝ったが、本人はピッチに立てず、仲間たちの一挙手一投足を見つめていたようだ。

 フランスでも同じような時間を長く過ごしたが、その時間をいかに短くし、ピッチで躍動できるように仕向けていくかが肝要だ。長身選手の多い北欧の国で類まれな創造性とひらめきをどう発揮していくのか。周囲との関係性構築がその一歩となる。自分の特性やストロングをチームメイトに早く理解してもらい、生かし、生かされる関係性を作ること。その術を今はよく分かっているに違いない。

 2024年パリ五輪まで1年を切った今、大岩剛監督率いるU-22日本代表のエースアタッカーには劇的な変貌を遂げてもらう必要がある。未知なる環境で力を蓄え、大ブレイクする鈴木唯人の姿を心待ちにしたいものである。

取材・文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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