2016.06.22

【異色対談】岡田武史×又吉直樹、マラドーナを語る

サッカーキング編集部

 サッカー史に残る名選手ディエゴ・マラドーナ。生きる伝説として、現代のサッカー界にも多大なる影響を及ぼしている。

 そのマラドーナが伝説の存在となった大会が1986年に開催されたメキシコでのワールドカップだ。カルロス・ビラルドに率いられたアルゼンチン代表のエースとして参加したマラドーナは準々決勝のイングランド戦で、サッカー史に残るプレーを見せた。

 クロスに飛び出した相手GKに先んじてボールを触りゴールを決めた“神の手”ゴールと、センターライン付近からイングランド守備陣を手玉に取るドリブルでの“5人抜き”からのゴール。この2点で勝利したアルゼンチンは決勝でも西ドイツを下して、同国2度目となるW杯トロフィーを掲げた。

 マラドーナが伝説の選手となったメキシコW杯からちょうど30年。『サッカーキング』ではその偉業を振り返るべく、サッカー界の様々な人物に話を聞き、偉大さを再認識するべく、『マラドーナ特集』を実施する。

 第7回目のインタビューは、元日本代表監督で現在はFC今治のオーナーと日本サッカー協会副会長の二足の草鞋を履く岡田武史さんと、お笑い芸人『ピース』のボケとして活躍する傍ら、2015年に出版した『火花』が芥川賞を受賞するなど作家としての活躍も目覚ましい又吉直樹さんによるスペシャル対談。

 選手としても監督としても日本代表での実績がある岡田さんと、高校時代は関西の強豪校・北陽高校のサッカー部で活躍した過去もある又吉さんに、サッカー界に大きな影響をもたらしたマラドーナについて聞いた。

『岡田武史×又吉直樹 ~異色の初対面で互いの過去を語る~』はコチラ→https://www.soccer-king.jp/news/japan/japan_other/20160623/459796.html

『岡田武史×又吉直樹 ~多分野で活躍する両者、海外進出の可能性も?~』はコチラ→https://www.soccer-king.jp/news/japan/japan_other/20160624/460397.html

インタビュー=小松春生
写真=野口岳彦

キャプテンマークをくれた

岡田さんはマラドーナとの交流エピソードはありますか?

岡田武史 一度対戦経験がありますね(※1987年日本リーグ選抜vs南米選抜)。よく覚えていないのですがどういう訳かマラドーナのキャプテンマークをくれたんですよ。

又吉直樹 えぇ!

マッチアップはされましたか?

岡田武史 していません。でも、すごく特別な選手ですし、印象に残っていますよね。

 マラドーナはみんながすごい選手ということを知っているけど、一人の人間としては悪いことをたくさんしている。でもマラドーナだけは許されちゃうんですよね。アルゼンチンに行くと、例えば体にマラドーナのタトゥーを入れておくと、強盗に遭遇したときに見せれば「マラドーナか、じゃあOK」となってしまうという話を聞いたことがあるくらいです(笑)。でも、そこに興味がありますね。悪いことをいろいろして、指導者としての成績もよくなくて。でもいまだに「マラドーナ」とみんなが口にする。

又吉直樹 1980年代から90年代はアルゼンチンの経済状況がすごく悪かったじゃないですか。そんな時代にW杯で優勝できた。そういった要因が影響しているんでしょうね。

岡田武史 やはりアルゼンチン国民の中に、ブラジルを圧倒して、世界一に輝いたといったことがあるんだろうね。

マラドーナを一人の神様みたいな存在にした

又吉さんは小学校でサッカーを始められたということで、ちょうどマラドーナの全盛期と重なります。

又吉直樹 小学校3年からサッカーを始めたんですけど、すごく下手やったんですよ。家が貧乏で、僕だけポイントがないシューズを履いていたのでズルズル滑って練習にならないし、リフティングも最初は3回くらいしかできなくて。ボールも持っていないから、いつも練習前に体育倉庫の鍵を職員室に借りに行って、革じゃなくてゴム製のすごく跳ねるボールを使っていました。それが恥ずかしくて、練習がすぐに嫌になって半年くらい行かなくなってしまったんです。練習に行かず、家でボーっとしているとき、父親とテレビを見ていたら、90年のイタリアW杯でマラドーナがプレーしている姿が映ったんです。

 左足しか使わないマラドーナを見て、カッコいいと思ったんです。次の日からすぐ練習に行って、僕は右利きやったんですけど、その日から左足しか使わなくして。久しぶりに練習に来たし、左足しか使わないから、とんでもないところに蹴るので、先輩から「右で蹴れや!」とか「しばくぞ!」とかめっちゃ言われたんですけど、無視して左で蹴り続けて。僕の中でマラドーナを一人の神様みたいな存在にして、ずっとプレーを見て真似していました。

そこから最終的に左のウイングバックでプレーするようになるんですね。

岡田武史 じゃあ、マラドーナの影響をすごく受けているんだ。

印象的なマラドーナのプレーはありますか?

又吉直樹 “5人抜き”はもちろんそうですし、中学時代とかは試合前にずっとマラドーナのビデオを見て、気持ちを高めていました。

岡田武史 僕はウォーミングアップのマラドーナの様子ですね。代表戦でも一人だけ試合前に別のことをやっている。みんなが体を温めているのに、マラドーナだけはボールで遊んでいるんですよ。それがすごくうまい。あれを見ているだけで楽しかったですよね。

2010年の南アフリカW杯では岡田さんが日本代表、マラドーナがアルゼンチン代表の監督として参加しました。マラドーナ監督評はいかがでしょう。

岡田武史 監督としては厳しいでしょうね。アルゼンチン代表の選手も誰も文句を言えない存在でしょうし。僕らからすると、もう少し英雄のままでいてほしかったですね。アルゼンチン人にとっては、ずっと変わらず英雄なんでしょうけど、もう少しカッコいいままでいてほしかったとは思いますね。

マンマークをつけるなら「コンちゃん」

岡田さんが監督で、マラドーナを選手として起用するのであれば、どういったプレーを求めますか?

岡田武史 求めるなんて無理ですよ。「何かやってください」なんて、マラドーナ“様”に言えるわけない(笑)。マラドーナを起用するアルゼンチンの歴代監督もそうですよね。例えばマルセロ・ビエルサは選手に多くのことを求めるからマラドーナやリオネル・メッシがいるうちは絶対にアルゼンチン代表の監督をやらない、ということだと思いますよ。

又吉直樹 対戦相手にマラドーナがいる時はどうしますか?

岡田武史 そうだなぁ……。誰かをマンマークでつけるかもしれないね。それ以外は打つ手がない。

又吉直樹 岡田さんが見てきた日本代表でマラドーナにマンマークつけるのに一番適しているのは誰ですか?

岡田武史 (笑)。考えたことなかったけど。コンちゃん(今野泰幸)かな。コンちゃんあたりはちょっと粘るかもしれない。

又吉直樹 ボール際の当たりがすごく強いですからね。

岡田武史 かわされても、もう一度当たりに行くのが速いから、もう一度足が出る気がする。でもマラドーナクラスになると止められないだろうなぁ。スピードに乗ったら止まらない。

又吉直樹 速いですよね。あと、マラドーナと対峙したDFはなんであんなにバタバタ倒れるんですか? 体を寄せていなくてもフェイントで逆を取られて、合気道みたいに倒れてしまう。

岡田武史 まずはスピード。あとは体の強さもある。メッシもそうだけど、でもメッシよりもマラドーナのほうが上かな。メッシはマンツーマンにつかれたら、そんなに場面に出てこないけど、マラドーナはマークされても絶対にボールを失わなかった。体がゴムのようで、当たっても吹っ飛ばされる。クライフとかも当たりには強かったけど、マラドーナは半端じゃなかったですね。

又吉さんに少し変わった質問をさせていただきます。マラドーナをコンビの相方に迎えるなら、どうしますか?

岡田武史 (笑)。

又吉直樹 サッカーと同様に自由にやってもらうしかないですよね。マラドーナが以前出演していたアルゼンチンの番組で、「ブラジルとの試合のとき、睡眠薬が入ったドリンクを相手に勧めたらフラフラになったんだよ!」と手を叩いて笑いながら話していて、観客の人も大爆笑。そんなエピソード、普通話せないですよ。マラドーナには好きなようにしゃべってもらって「いや、子どもの頃からファンやってんから、そんなこと言わんといてくれ」「俺の夢を壊さんといてくれ」と横で僕が言うてる形でしょうね。

岡田武史 (笑)。マラドーナが言えば何でも許されるからね。

異端を認めない社会ではマラドーナのような人は出てこない

マラドーナのような世界のアイコンになれる選手が日本から生まれる可能性はありますか?

岡田武史 まず、あれだけ破天荒な選手は日本で絶対に生まれないと思いますね。僕は、今治でいろいろと育成面でのチャレンジをしています。そこで感じていることは、日本では子どもの時はある程度自由に遊ばせておいて、高校生くらいまで成長してから「ああしろ、こうしろ」と指導をする。でもそれは逆で、今の時代は子どもの時にきちんとしつけて、後は自由にさせるべきではないかなと。自由なところから自由な発想は生まれないんじゃないかなと思っています。子どもの時に教えられたことを破って驚くような発想が生まれると。

又吉直樹 確かに様々な文化において当てはまりますね。まずルールを知って、その伝統というか技術的なものを身につけて、そこから師匠の教えを破って新しいものを作る。サッカーにおいては子どもの頃から自由にやり続けないと、自由になれないという発想になっていますよね。

岡田武史 でもそれは逆ではないかと今、思っていて。日本のスポーツ全般で感じることが多い。異端を認めないというか、そういう社会だからマラドーナのような人はなかなか出てこないかもしれませんね。出る杭は叩かれる。出過ぎるほど突出すれば叩かれない存在になるけど、そこまでチャレンジするのが嫌になってしまう。

異端の人という意味では、芸能の世界では昔多くの異端者がいました。

又吉直樹 でも、芸の世界でも難しくなっています。昔はお金が全くないとか、芸人で大学に行っている人はいなかった。けど今は大学を卒業した芸人もたくさんいるんです。以前は割と不良のような人が多かったですけど、今は常識がかなり求められるというか、無茶苦茶な人とか私生活が破綻している人は排除されますよね(笑)。お笑いの世界でも。

岡田武史 週刊誌に狙われて終わってしまうよね(笑)。芸人さんくらいは許されてもよさそうだけど、そうはいかないでしょうね。

『岡田武史×又吉直樹 ~異色の初対面で互いの過去を語る~』はコチラ

『岡田武史×又吉直樹 ~多分野で活躍する両者、海外進出の可能性も?~』はコチラ

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