ドルトムントのジュリア・ファー(アジア太平洋担当総裁/左)とベンジャミン・ウォール(東アジア担当総裁/右)[写真=兼子慎一郎]
欧州リーグも佳境を迎えつつある中、欧州王者の決めるチャンピオンズリーグ(CL)もベスト8が決定。いよいよ4月9日からは4強の座をかけた戦いが始まる。
その一角に名を連ねているのがドイツのドルトムントだ。準々決勝に残った8チームのうち、アーセナルを除く7チームにはドルトムント出身選手が在籍。近年では、ノルウェー代表FWアーリング・ハーランド(現マンチェスター・シティ)やイングランド代表MFジュード・ベリンガム(現レアル・マドリード)といったホープが欧州のメガクラブに引き抜かれるなど、有望な若手の発掘・育成にも定評がある。
かつてはMF香川真司(セレッソ大阪)が所属し、ユルゲン・クロップ監督(現リヴァプール)の元で飛躍を遂げるなど、日本人にとっても馴染みの深いドルトムントから、アジア太平洋担当総裁のジュリア・ファーと、東アジア担当総裁のベンジャミン・ウォールが来日。CL8強が決まった直後ということもあり、笑顔の絶えない両氏にドルトムントが考えるアジアの市場や、今後の展望などについて話を聞いた。
■ハーランド、ベリンガム…有望な若手を輩出する土壌
──嬉しそうですね(笑)
ベンジャミン:ふたりともニコニコしているのは、チャンピオンズリーグのベスト8に入ってクラブ全体が興奮状態にあるということです(笑)。
──早速ですが自己紹介をお願いできますか?
ベンジャミン:私はベンジャミンです。東アジアの責任者で日本、韓国、中国を担当しています。隣にいるジュリアはアジア太平洋の責任者で、オーストラリアから東南アジアまでを統括しています。先週にはニューヨークにもオフィスをオープンし、海外では上海とシンガポール、そしてニューヨークに拠点を構えています。
──これまではどのようなことをやってきたのでしょうか?
ベンジャミン:10年間ほどレヴァークーゼンで働いていて、7年ほど前にドルトムントがアジアに進出したいということで今のボスに誘われました。中国でオフィスを開きたいので参画しないかと声をかけていただき、私を含め家族全員がドルトムントのファンだったので、迷わずに決断しました。そして、2017年から上海オフィスの責任者を務めています。
──世界的にも、そして日本でも有名ではありますが、あらためてボルシア・ドルトムントがどのようなクラブなのか教えてください
ベンジャミン:ドルトムントは、ドイツ国内ではインパクトのあるクラブです。スタジアムも大きく8万人以上が入りますし、常にソールドアウトしています。どこも黄色と黒色で有名だと思いますが、国内ではすでにある程度の存在感があります。国内でこれ以上、市場を大きくするのは難しいので、世界中にいるファンにリーチするためにも国際化を目指していかないといけないと考えています。
ジュリア:ドルトムントの特徴のひとつに、若い選手にチャンスを与えるという部分があります。高いお金で有名な選手を獲得するだけでなく、若い選手にチャンスを与えながらスーパースターに育てていく。ジェイドン・サンチョ(マンチェスター・ユナイテッドからレンタルで復帰中)やアーリング・ハーランド、ジュード・ベリンガムなど、誰もが知っている選手たちもドルトムントの出身です。そして私たちには、サッカーファミリーの一員、コミュニティの一員という考え方があることもドルトムントの特徴のひとつだと思っています。
──若く優秀な選手を次々に輩出している要因はどこにあるのでしょう?
ベンジャミン:ドルトムントは20年ほど前に破綻しそうになった時期がありました。その時に気づいたのは、お金で選手を買うばかりではなく、育てていかないといけないということ。17〜20年前から若い選手を育てるという方針に舵をとりました。そこから20年近くやってきたことで、その実績が出てきている。世界中にたくさんの良いスカウトがいます。どうやって有望な選手を連れてくるのかというと、ドルトムントのようなクラブでプレーできて、チャンピオンズリーグのような大きな舞台にも立てるということは、若い選手たちも認識しています。そのため、選手たちもドルトムントでプレーしたいと考えることがひとつ大きな要因ではないかと思っています。
■アジアのファンとより近い距離で
──2022年には東南アジアでもツアーを行いましたが、アジアという市場をどのように考えていますか?
ベンジャミン:一番最初のきっかけはシンジ(香川真司)です。それまでは、“ドイツのクラブとして”という考え方が強かった。シンジがプレーするようになって、アジアにこれほど多くのファンがいるのかということに気づいて、そこからもっとファンに近づかないといけないということで、2014年にシンガポールのオフィスを立ち上げました。
プレミアリーグのクラブと少し違うのは、私たちがファンとより近い関係でいたいというのもありますが、クラブのロゴや選手の画像だけを貸してというよりも、コミュニティの一員でありたいという考えが根底にあります。アジア各地で定期的にパブリックビューイングのようなことやファンの集いをやったり、一緒に試合を見て一緒に歌うというところが、私たちと他のクラブとの少しの違いなのかなと思っています。
──では、アジアの市場における日本の位置付けは?
ベンジャミン:私たちにとっての日本は、重要なマーケットであり、これまでも色々な活動を行ってきました。ひとつは、ドルトムントサッカーアカデミーを数年前からやっていますが、すでに1000人近い子供たちが参加していて、ドルトムントのジャージを着て練習しています。それからシンジが在籍しているセレッソ大阪とも交流を続けていますし、ドイツ人学校にも私たちのスタッフを派遣して、そこでサッカーを教えたりもしています。我々にとっては関係が深く、重要なマーケットとなっています。
ジュリア:近年は日本人選手が所属していませんが、シンジが退団してからも日本のファンとの交流を続けていますし、スクールなどもやっています。日本には有望な選手がいることもわかっていますし、いつか次のシンジを見つけ出したいと思っています。それまではSNSなどを通じてファンとの関係性を続けていきたいと思っています。
■ジャパンツアーの可能性は!?
──今回の来日にはどのような目的があったのでしょうか?
ベンジャミン:もちろん、アカデミーやセレッソとの関係もあるので、日本現地のパートナーたちと会うことが大きな目的のひとつではあります。もうひとつは、私たちはドイツからではなく、上海、シンガポールという近い距離から来ていますし、けっこう頻繁に訪れています(笑)。常にどうやったらファンとの交流を深められるのかを考えていますし、近いうちにチームを日本に連れて来れないかといったことも模索しています。
──前回のジャパンツアーは2017年でした
ベンジャミン:2017年以来、日本には来ていないですし、私たちにとっても海外でのツアーはファンとの交流という意味では一番のツールだと考えています。近年、夏には必ずどこかにツアーしています。アメリカにも何回か行っていますし、来年のクラブワールドカップ(アメリカ開催)に出ることも決まっています。その先にはアメリカでのワールドカップもありますが、私たちとしてはアジアの担当ということもあり、チームを日本に連れてくることを視野に入れています。
──今後のアジアでの展望は?
ベンジャミン:クラブとしても色々な側面がありますけど、その中で重要な要素のひとつが育成です。どうやって若い選手を育てるのかには常に関心があります。私たちにとっても重要なことではあるので、それに関しては今後どうやってアジアでさらに広めることができるのかということは、クラブとしてやりたいことではあります。
ジュリア:クラブとしてはマーケティング要素があったり、育成やパートナーといったこともありますけど、その他にもCSR(企業の社会的責任)やサステナビリティ、女性の活躍にも力を入れていいます。ただ単にサッカークラブということではなく、総合的に色々なことにチャレンジし、貢献しているクラブとしても認識してもらいたいです。
──最後に日本のファンへメッセージをお願いします
ベンジャミン:まず、ファンの皆さんには応援してもらっていることにお礼を言いたいと思います。ボルシア・ドルトムントというクラブには常にドラマがあり、そのドラマに共感いただけていることに感謝しています。これからも応援をよろしくお願いいたします。
ジュリア:日本人選手がいてもいなくても、変わらず応援いただいていることに感謝の気持ちを表したいと思います。これからもよろしくお願いいたします。
取材・文=平野由倫