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【アジア最前線:韓国 #10】日韓戦大敗を機に、不安に覆われる韓国代表

2021.04.02

日韓戦を機に高まった現監督への批判

 3月25日に行われた日本代表との国際親善試合で、韓国代表は0―3の完敗を喫した。枠内シュートがわずか1本に終わる不甲斐ない戦いぶりに、国内メディアやサポーターから厳しい声が上がったが、その余波は今も続いている。

 日韓戦が終了して数日経ってからも「予見された横浜惨事、責任は誰が取るのか」(ニュースメディア『デイリーアン』)、「韓日戦、なぜ負けたのか」(経済メディア『亜州経済』)、「強化のために必要だとして強行した韓日戦、得たものはあまりにもなかった」(スポーツ&芸能メディア『スポータルコリア』)といった報道が見られているが、最近ではパウロ・ベント監督の指揮能力を問う声も上がっている。

 2018年8月に韓国代表監督に就任したベント監督は、今回の日韓戦まで通算28試合で16勝8分け4敗の勝率57パーセントを記録。一方、2014年から2017年まで韓国代表監督を務めたウリ・シュティーリケの勝率は67パーセント。そのシュティーリケは、ロシア・ワールドカップ アジア最終予選途中に成績不振を理由に解任されている。

 それだけに、多くのメディアがベント監督とシュティーリケ元監督を比較。「ベントの“3なし”サッカー……更迭されたシュティーリケもこれほどではなかった」と題して、日韓戦開催決定から試合当日までに露呈したベント監督の問題を言及するメディアもあった。

『スポーツソウル』でもコンディション不良のホン・チョルや新型コロナウイルス陽性のチュ・セジョンらを招集メンバーに含めたこと、Kリーグ各クラブの監督と意思疎通ができていないこと、就任から数年が経った今も強調するのは「ビルドアップ」ばかりで、戦術の発展が見られていない点などを挙げた。

 記者歴20年以上のベテラン記者はこう嘆く。

「ビルドアップを重視するベント監督の戦術は、韓国サッカーの長所(スピード、精神力、フィジカル)を意図的に避けているに近い。パスをしながらじっくり組み立てて前に進むやり方は、あまり魅力的には映らないという声もある。韓国サッカーが持つアイデンティティを失う恐れがあると憂慮するサッカーファンも多い。このままではカタール行きも危ういと危機感を募らせている」

“カタール行き”に向けては不安が残る

 韓国代表は6月に自国で集中開催されるカタールW杯アジア2次予選を控えている。現時点では4試合を残して勝ち点8のグループ2位につけているが、「予選突破には一抹の不安が残る」というのが国内の反応だ。

 最大の懸念はやはり主力の招集可否だろう。ソン・フンミンやファン・ヒチャン、ファン・ウィジョら欧州組は5月下旬にシーズンを終えるが、ディフェンスラインの軸となるキム・ミンジェや196センチの長身FWキム・シンウクら中国組はリーグ戦まっただ中であるため、所属クラブが難色を示す可能性が高い。

 6月にはAFCチャンピオンズリーグのグループステージも予定されている。Kリーグからは全北現代、蔚山現代、浦項スティーラースなどが大会に挑むが、日韓戦では蔚山現代から7人の選手が代表に招集された。蔚山が6月も代表からの要請に“満額回答”をするとは限らないだろう。

しかも、東京オリンピックを控えるUー24韓国代表との兼ね合いもある。今回の日韓戦でもベント監督はオリンピック世代の選手を7人招集し、イ・ガンイン、イ・ドンジュン、ウォン・ドゥジェを先発で送り出した。また、もともと同時期に行われたUー24韓国代表の国内合宿に参加予定だったイ・ドンギョンを、負傷者の代替選手という形で急遽A代表に呼び寄せたが、6月はそれも難しい。

 というのも、Uー24韓国代表は東京オリンピック直前の6月に最後の招集機会を控えているのだ。同月は前述のとおりA代表のW杯予選があるうえ、海外組の参加は不透明。確実に予選を突破すべく、ベント監督がオリンピック世代の選手を再び招集する可能性は否定できない。

 ちなみにUー24韓国代表は、3月下旬の国内合宿でKリーグ1の3クラブと練習試合を実施。大邱FCに3ー1、蔚山現代に4ー0、浦項スティーラースに4ー0と3連勝を収めており、チームを率いるキム・ハクボム監督も「最も大きな収穫は“常時競争体制”が整ったこと」と満足感を示した。だが、「国内クラブとの実戦のみでは物足りない」という声を上げるメディアやファンも多い。

 そんなUー24韓国代表のことを、スポーツ紙『イルガンスポーツ』はUー24アルゼンチン代表との2連戦を実施したUー24日本代表と比較。「(Uー24日本代表は)久保建英を五輪本戦で積極的に活用する意思を表した」と伝えると、「五輪を4カ月後に控え、韓国と日本のオリンピック代表チームの“準備の水準”の格差が広がっている」と両国の差を嘆いた。

 A代表の大敗の嘆きが、Uー24世代にも飛び火したとも言えなくもないが、いずれにしても日韓戦での完敗以降、韓国代表を取り巻く雰囲気は不安一色といった様子である。W杯アジア2次予選を前に、Uー24代表との関係性や選手招集など解決すべき課題が多いが、果たしてベント監督はチームを復調させることができるのだろうか。

文=慎 武宏(ピッチコミュニケーションズ)

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