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タイ2部以上で初めて10年目を迎えた日本人…片野寛理「想像していなかった」

[写真]=本多辰成

 近年のタイリーグでは、平均して40名ほどの日本人選手がプレーしている。2000年代には数名ほどしかいなかった日本人選手が急増したのは2010年頃のことで、2011年からタイでプレーする片野寛理は、タイリーグにおける日本人選手の先駆けとも言える存在だ。

 片野は順天堂大学を卒業後、栃木SC、佐川印刷SC、ニューウェーブ北九州とJFLの3チームでプレー。2010年にはJリーグ入りを果たしたギラヴァンツ北九州でJリーガーとしてプレーしたが、出場機会はJ2リーグ最終節のラスト13分間だけだった。

 Jリーグでの1シーズンでは挫折感も味わったと片野は振り返る。

「最終節の出場は、監督の与那城ジョージさんが人情深い人だったので、最後に記念で出してくれたような感じでした。サッカー人生であれほど試合に出られなかったのは初めてでしたし、自分が勘違いしていた部分もあるのかもしれません」

 そのシーズンの経験から「自分と向き合えるようになった」という片野が、次の進路として選択したのがタイだった。当時のタイリーグはようやくプロとして本格的に動き出そうとしていた時期で、日本人選手も数名しかいない状況。知人からのわずかな情報だけを手掛かりに単身、海を渡った。

「最初は不安でしたよ。練習には参加できるからとりあえず来てくれ、ということだったんですが、チームがどこなのかもギリギリまで分からないような状況でしたから」

 そんなふうに始まったタイリーグでの戦いも今年で10シーズン目を迎える。2部リーグ以上のカテゴリーでは、初めてタイで10年目を迎える日本人選手となった。そんな近年のタイサッカーの急成長を選手として体感してきた片野に、タイリーグでの10年を振り返ってもらった。

取材・文=本多辰成

「タイ人が持つ日本人のイメージ」にハマった

オンラインでの取材に応じてくれた


――ついに今シーズンでタイリーグ10年目となります。これほど長くタイでプレーすることを想像していましたか?
片野 1、2年でやめるイメージもありませんでしたけど、10年もプレーするとは想像していませんでしたね。1シーズンごとに目の前の試合にこだわってやっていたらこうなっていた、という感じです。ただ、「タイリーグで10年」という数字は今後いくらでも更新されていくと思います。今は大学を出てすぐにタイに来る選手なんかも多いですから、どんどん更新していってほしいです。

――タイリーグは外国人選手の入れ替わりが激しいですが、10シーズンも戦い続けられた要因はどこにあると思いますか?
片野 一つは、僕自身が「タイ人が持っている日本人のイメージ」にハマったというのがあるかもしれません。真面目で練習をしっかりとやって、手を抜かずに最後まで走る。タイの指導者は日本人選手にそういったイメージを持っていて、その部分を期待しているところがあるので。そういう選手を特にディフェンスのポジションで使いたいという意図があるんだと思います。

――タイに来た当時はサイドバックでしたが、今はセンターバックを務めています。ポジションの変更にはどういった経緯があったのですか?
片野 2015年にタイリーグの外国人枠が減り、サイドバックに外国人を使うチームが少なくなったんです。外国人選手はFW、トップ下、ボランチ、アタッカー、センターバックがメインで、サイドバックには使わなくなった。それでセンターバックで練習に参加したりもしたんですが、試合では使ってもらえず、どうにかしなければいけないと思っていたときに香港リーグから話がありました。

――タイで最初の所属チームであったオーソットサパー・サラブリーで4シーズンプレーしたあと、2015年に半シーズンだけ香港リーグでプレーしていますね。
片野 このままタイでトライしても無理だなと感じたので、どこかでセンターバックとしての実績をつくりたいと考えていたところでした。そこにちょうど香港からの話があったので、センターバックとしてタイに戻ってくるために香港リーグでプレーすることにしたんです。香港リーグは秋春制なので、後期から半シーズンだけプレーしてタイに戻ってこようと考えて移籍を決めました。

タイ人の質が上がり、日本人のアドバンテージがなくなった

――香港リーグへの移籍には、そういうった目的があったのですね。実際に、2015年の後期にはタイに戻ってきて、当時T2(2部リーグ)だったスコータイFCでセンターバックとして活躍しました。
片野 香港ではセンターバックとして経験を積むことができました。ちょうどその頃、T1昇格へ向けてセンターバックを補強したいとスコータイから話があって加入することができました。その後、昇格してまたT1でプレーすることもできましたし、あのときに香港に移籍したからこそ、今もタイでやれているのだと思います。

――スコータイ時代には、2017年にAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の予選にも出場していますし、個人としてもリーグやメディアが選出する節のベストイレブンなどに選出されているのをよく目にしました。センターバックに転向してからのほうが活躍ぶりに拍車がかかったように見えます。
片野 ACLでは中国のチームと戦って開始30分でケガをしてしまいましたけど、いい思い出です。タイのメディアからはT2の年間ベストイレブンに2度、選出してもらいましたし、去年、一昨年も節のベストイレブンには7、8回選んでもらいました。評価してもらっているのは、ありがたいですね。

2017年のACL予選ではヤダナボン(ミャンマー)、上海上港(中国)と対戦 [写真]=Getty Images

――昨シーズンからはT2のシーサケットFCに在籍して、今シーズンは外国人選手ながらキャプテンも任されています。
片野 2018年のトラートFC時代にもキャプテンをしていましたけど、キャプテンだからといって特別なことはしていません。センターバックをするようになってからサッカーを見る視点が変わり、指導者のような目線になってきているんです。「チームがいい方向に向かうにはこういう練習をしたほうがいい」とか、「監督とこういう話をしたほうがいい」といったことをより考えるようになりました。そういうところが自然とキャプテンを任されることにつながったのかもしれません。

――片野選手のようにタイリーグで高く評価されている日本人選手は多くいますが、以前よりも日本人がタイでプレーするのは簡単ではなくなっているような気がします。今後、タイリーグにおける日本人選手はどのような存在になっていくと思いますか?
片野 単純に以前よりニーズが少なくなっているのは感じます。外国人枠が減ったのもありますけど、タイ人選手の質が上がってきているので、日本人の真面目さみたいなものだけでは厳しくなってきている。タイの選手たちはもともと僕なんかより足元の技術は高かったですし、プロとしての姿勢もクオリティが上がってきています。日本人のアドバンテージが効きにくくなってきているというのは絶対にありますね。

――タイ人選手の質の高さは今、チャナティップをはじめとする選手たちがJリーグでも証明しています。
片野 もともとタイにはうまい選手がたくさんいますからね。一人成功例が出れば「俺もできる」とか「俺もやりたい」という選手が出てくると思いますし、もっと出てきてほしいです。Jリーグで活躍できるタイ人選手は、まだたくさんいるはずです。

タイが今の自分を作ってくれた

――タイリーグ10年目のシーズンは、新型コロナウイルスによって大きな影響を受けています。リーグ戦は9月の再開まで長期の中断となっていますが、中断期間はどのように過ごしていましたか?
片野 うちのチームは、所属していた選手は契約を延長する形にはなったんですが、中断期間のサラリーは支払われませんでした。監督、コーチ陣も中断期間に交代するなど、なかなか厳しい状況です。個人的にも右ヒザをケガして手術をしたり、大変な時期になってしまいました。移籍市場はまだ開いているので、自分もどうなるか分かりませんが、いずれにしてもまたT1の舞台に戻りたいと思っているので、そのために頑張ります。

――40歳までは現役を続けたいということですが、最後までタイで、という思いですか?
片野 タイにこだわっているわけではないですが、可能性が高いのはやっぱりタイリーグだと思っています。今、息子が1歳なんですが、なんとか父親がサッカー選手だということを認識できる時期までは現役で頑張りたいと思っています。それが一番のモチベーションですね。

――タイリーグで10シーズン目を迎えた片野選手にとって、改めてタイとはどんな場所でしょう?
片野 タイが今の自分を作ってくれたと思っているので、感謝しかないですね。嫌なこともありましたけど、タイに来てよかったです。タイに来ていなかったらサッカー選手としては終わっていたんじゃないかと思いますし、今のような考え方もできなかったと思います。

――この10年でタイのサッカーは大きく飛躍しましたが、今後のタイに期待することは?
片野 ワールドカップに出てほしいですね。あと何年かかるかは分かりませんけど、それほど遠いことではないと思うので。現役を終えてからも、何かしらの形でタイのサッカーに少しでもプラスになるようなことができればと思っています。

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