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フェイスガード脱ぎ捨て奮闘! 田中聡が“司令塔・小泉”封じの大仕事「どれだけ止められるかが鍵だった」

2025.11.01

広島MF田中聡 [写真]=Getty Images

 明治安田J1リーグ第35節で目下、残留争いを強いられている横浜F・マリノスに0−3の完敗を喫してから一週間。サンフレッチェ広島は気持ちを切り替え、JリーグYBCルヴァンカップ決勝・柏レイソル戦に挑んだ。

 東京・国立競技場に今季公式戦最多となる6万2466人の大観衆が集結する中、行われた大一番。下馬評ではリーグ戦3連勝中の柏優位という声もあったが、一週間の調整期間を得た広島は、横浜FM戦とは全く別のチームに変貌していた。

 それを強烈に印象付けたのが、前半の3ゴールだ。まずは前半25分、中野就斗が右タッチライン際から投げたロングスローを荒木隼人が打点の高いヘッドで決めて先制。前半38分には左足の名手・東俊希がペナルティエリア右外から華麗なFK弾を叩き出し、リードを2点に広げた。さらに前半アディショナルタイムには、またも中野のロングスローから佐々木翔がニアで競り勝ち、こぼれたボールにジャーメイン良が飛び込む。7月のE-1選手権でブレイクしながら、広島では思うように得点を重ねられなかったジャーメインの得点が生まれ、広島は余裕ある試合運びを見せることができた。後半には細谷真大の一撃を食らい、3−1に詰め寄られたが、そのまま逃げ切りに成功。2022年以来、3年ぶり2度目のルヴァン杯制覇を達成し、ミヒャエル・スキッベ監督に2つ目のタイトルをプレゼントしたのである。

 そのチームを中盤から力強く支えたのが、背番号14をつけるダイナモ・田中聡だ。10月12日のルヴァン杯準決勝 横浜FC線で顔面骨折・脳震盪の重傷を負い、公式戦2試合を欠場。横浜FM戦の後半からフェイスカードを装着して早期復帰を果たしたが、終盤に天野純の足を引っかけ、PKを献上してしまった。「自分のパフォーマンスも良くなかったし、チームにすごく迷惑をかけた」と本人も反省の弁を口にするしかなかった。

 そして迎えたファイナル。田中聡は心身ともにフレッシュな状態を取り戻し、序盤からマークしていた小泉佳穂を徹底的に追いかける。リカルド・ロドリゲス監督の”秘蔵っ子”である背番号8は、ご存じの通り、今季柏の生命線。それを寸断することによって、相手のポゼッションサッカーを混乱へと陥れられる。誰よりもそのことをよく知る男は凄まじい気迫でタスクを実行したのだ。

「(小泉は)上手い選手なので、自由にやらせると柏のやりたい放題になってしまう。どれだけそこを止められるかが鍵になるかなと思っていました。今日もチンチンにされましたし、ノーファウルで奪い切るところまではできなかったですけど、チャレンジしないといけないと思ってやりました」と田中聡は語気を強めていた。“小泉封じ”に熱中するあまり、スタート時に装着していたフェイスガードを途中で自ら外し、衝突のリスクがある中でも果敢にチャレンジ。ボールを奪いに行き、デュエルの強さを発揮し続けた。そして89分間の出場で両チーム最多となる13.231キロという驚異の走行距離を記録するに至った。

「(フェイスガードは)邪魔だったし、決勝でとりあえずタイトルが欲しかったので。トレーナーからは『絶対に脱ぐな』と怒られましたけど、自分としてはイケそうだなと思ったので。自分の感覚ですけど、ケガなしで良かったです」と勇敢さを前面に押し出したのだ。田中聡がここまで献身的に走り、守備に奮闘したからこそ、広島守備陣の負担が軽くなったはずだ。背番号14が欠場していた間、広島のボランチにはベテラン塩谷司が入るケースが続いていたが、そうなると荒木、佐々木翔との“鉄壁の3バック”が形成できず、綻びが生じがちになる。現にそれが失点にもつながっていた。

 しかしながら、田中聡が戻って川辺駿と中盤でバランスを取ってくれれば、鉄壁の3バックと日本代表守護神・大迫敬介も安定感を取り戻せる。実際、この日の守備は堅牢だった。柏に7割近くボールを支配され、攻め込まれても、広島はブレることなく敵を跳ね返し、失点を1に抑えた。この守備強度の向上に背番号14は一役買ったのである。

「タイトル取るために広島に来ました」と今季移籍加入時に語っていた田中聡。それを1年足らずで現実したわけだが「めちゃくちゃ嬉しいですけど、なんかあんまり実感がないですね」と本人は淡々としていた。むしろ「今日はファウルが多くなったし、個でボールを取り切れるシーンもあまりなかったので、もっと奪い切れたら良かったです」と課題の方に目を向けた。それも飽くなき向上心の表れに違いない。

 確かに今の広島は天皇杯準決勝を控え、J1リーグのタイトルも首の皮一枚つながっている。ACLエリートも真っ只中だ。「カップ戦を一つ取ったことは通過点でしかない」という感覚が彼の中にあるのもよく理解できる。プロキャリア初戴冠を飛躍の糧にして、田中聡は一段とスケールアップしていくことが肝要だ。このくらいのパフォーマンスをコンスタントに出せれば、近い将来の日本代表復帰・定着も見えてくる。貪欲で高みを追い求めてほしいものである。

取材・文=元川悦子

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By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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