石田ひなは [写真]=WE LEAGUE
9カ月ぶりの試合出場でも自信を持っていた。サンフレッチェ広島レジーナのGK石田ひなはが、10月3日にエディオンピースウイング広島で行われたWEリーグクラシエカップ リーグステージ 第5節のAC長野パルセイロ・レディース戦にフル出場し、3-0の無失点勝利に貢献した。
WEデビューから約1年。19歳の若手有望GKがプロ初のクリーンシートを達成した。「メンタル的な部分はもちろん、技術のところもしっかり整理ができていて、いろんなものが見えていたし、落ち着いてプレーできたと思います」。
作陽学園高等学校出身の石田は2025年1月に広島に加入し、当時18歳の昨年9月20日に行われたちふれASエルフェン埼玉戦でWEリーグ初出場。「緊張は全然しなくて、心がいいバランスだったので変に力が入ることなくプレーできました」と堂々のデビューを飾っていた。しかし、1点リードの後半アディショナルタイムに痛い失点。相手の強烈なシュートを弾き出せず、勝利間近に同点弾を浴び、悔しさで握った拳をピッチに叩きつけていた。
「守護神としてチームを助けるためには最後の1本を止めないといけない。じゃないと、『ひなはを使いたいね』って思わせられないので。本当にどんな難しいボールであれ、そこに食らいついて止めることを練習から突き詰めていきたいです」
そこから昨季は公式戦8試合に出場。背番号1のGK木稲瑠那が怪我で不在の中、皇后杯で出場機会をつかみ、全5試合フル出場で初優勝に貢献した。ただ、シーズン後半戦は木稲が復帰したことで出場機会を得られず。U-20日本女子代表としては、3月〜4月のAFC U20 女子アジアカップタイ2026に開催されたチャイニーズ・タイペイ戦に出場。5月のスペイン遠征にも参加していた。
今年9月にはFIFA U-20ワールドカップポーランド2026のU-20日本女子代表に招集されたが、ラウンド16敗退までの全4試合はキャプテンのGK岩崎有波が出場。出番がなかった石田は、「有波はキャプテンとしてアジアカップで優勝に導いてくれて、ワールドカップの切符を取ってくれたことにGKチームとしてはすごく感謝しています」と仲間に敬意を示しつつ、「ただ、自分は全く負けていないと思っていました」と自信は持ちながらチームのために全力を尽くした。
「自分が世界と戦った時に今どれくらいのレベルなのか、自分を試したい気持ちもすごくあったので、1試合も出られなくてすごく悔しい思いもありました。でも、チームの中のこと、試合のこと、自分たちや相手のこと、サッカーのことも、サッカー以外のことも考えていく中で、目で見るもの、耳で聞くもの、自分が実際にやってみるもの、いろんなことを学びました。チームが後悔する前に自分が後悔したくなかったので、チームに対してのアクションや実際にプレーのところで、『これやってみたい』とか『これやったらどうなるんだ』とか、何かを出し惜しみせずに自分がやりきれることはもうやりきったと思います」
出番がなくとも自信を持って「やりきれた」と言い切れるのは、「自分のことだけを考えていなかったから」だと説く。
「『仲間を信じる』ってよく言うけど、自分は仲間を信じる前に、まず自分のことを信じることが大事だと思っていて。自分の今までの過程を認めてあげることで自信を持っていられる。その上で誰かに対しての期待や誰かを信じることになると思っていて。だから、自分は試合に出ていないけど、試合に出ているメンバーがやりやすくなるようにしたくて、例えば、負けた時に『あの時自分がコミュニケーションを取って伝えていればよかった』ってなるのが自分はすごく嫌なので、一瞬一瞬を後悔したくなかったです。チームみんながほんとにいい人たちなので、みんなでいい思い出で終わりたいと思っていました」
自分なりに戦った世界大会から帰ってきた石田にさっそくチャンスが巡ってきた。木稲の負傷欠場により長野戦でスタメン入り。広島での公式戦は1月1日の皇后杯決勝以来、9カ月ぶりのことだ。久々の試合に向けて静かに気合を入れていた。
「ずっと燃えたぎっていますけど、とにかくやることはいつも変わらないです。チャンスが回ってきた時に、自分の持っているものを100パーセント発揮できる準備をし続けるだけです」
試合は広島が主導権を握って優位に進めたなか、石田は最後尾から積極的に声を出して仲間をサポートし、チームの得点後には自らセンターバック2人のもとに行ってプレーの細かい擦り合わせもしていた。
「(昨季の)試合に出させてもらっていた時期にずっと失点をしていて、試合終了間際に失点したこともあったし、コミュニケーション不足から失点したこともあったし、出場数は少ないですけど、失点の部分ではたくさん学びがあったので、自分が後悔しないために、チームが後悔しないために、自分ができることをやったつもりです」
53分に迎えた最大のピンチには好セーブを見せた。相手のFKのこぼれ球でFW塩谷瑠南との1対1の場面を迎えたが、「そんなに慌てずにポジションを取れてプレーはできたと思います」と堂々と構えて相手のシュートに右手で好反応。それをカバーに入ったDF朝倉加奈子が背中でブロックしてピンチをしのいだ。石田は、「触ったけど入っちゃう状況だったので、そこは手だけじゃなくて、もっと自分の体をつけていかないといけないと思いました」と振り返った。
広島は後半にFW古賀花野の2得点と朝倉のプロ初ゴールで3点を奪い、相手の反撃もシャットアウトして2連勝を収めた。プロ初のクリーンシートを達成した背番号32は、「ちゃんと自分がやるべきことを積み上げた先にここがあると思ってやってきたので、今日はしっかり結果がついてきてよかったです」と喜び、加入後初めてホームのピッチで勝利を味わい、「本当にサッカーができることに感謝です。レジーナを、広島を愛してくれる人たちの応援のもとでプレーさせてもらえていることがすべてなので、そこに対して勝利やタイトルで恩返ししていきたいです」と力を込めた。
広島では公式戦9試合目。まだまだ出場機会は少ないが、19歳のGKは自分を信じてここまでやってきた。その過程を自分自身が認められるからこそ、その自信は揺るがない。
「(昨季の)皇后杯に出させてもらった時と、今試合に出る感覚は全く違って、キーパーの技術的な部分で自分がやりたいと思っていたことと今できていることのギャップが合致してきています。考えずにプレーできるようになった部分もあって、思考のレベルも上がってきているので、すごく自信があります。それが過信になってもいけないので、自信があるからこそ、それを前向きなパワーに変えて、どんな環境や状況であっても、『いーや、なんでだよ』って思うことがあっても、それに左右されずに常に『自分がやるべきことは変わらない』っていうことを大事に準備していきたいです」
悔しさで拳を握りしめたデビュー戦から約1年。初の無失点勝利を告げるホイッスルが鳴った直後、石田は両手をポンポンと軽く叩いて喜んだ。「今の自分だったらできると信じていました」。若き守護神の両手には、貫いてきた確かな自信が宿っている。
取材・文=湊昂大
By 湊昂大