日本代表FW上田綺世 [写真]=兼子愼一郎
日本代表の10月シリーズラストとなるブラジル代表戦(東京スタジアム/※味の素スタジアム)が、明日14日に迫ってきた。10日の韓国代表戦に5−0で圧勝したサッカー王国の強さは、誰もが認めるところ。ヴィニシウス・ジュニオールやロドリゴ、カゼミーロといった主力級が連続先発する可能性も高く、2026年のFIFAワールドカップで躍進を目指す日本の選手たちとっては最高の腕試しの場となりそうだ。
とはいえ、9月のメキシコ代表戦(オークランド)、アメリカ代表戦(コロンバス)、今月10日のパラグアイ代表戦(大阪・吹田)で3戦未勝利という苦境に直面しているチームにとっては、世界最強クラスの相手だろうが勝ちにいく必要がある。森保一監督もパラグアイ戦で先発起用した南野拓実、堂安律、佐野海舟、鈴木彩艶らを連続先発起用して、主力総動員で真っ向から勝負に挑んでいくはずだ。
そこで期待されるのが、エースFW上田綺世のゴールだ。ご存じの通り、パラグアイ戦では後半44分から登場し、町野修斗と2トップを形成。試合終了間際の後半アディショナルタイムに伊東純也からのクロスに飛び込んで、値千金の同点弾を叩き出している。
「味方がクロスを上げる準備をしている時間というのは、FWは助走や駆け引き、上がってくるボールに対していい角度・ポジションを取れるような準備をしておかないといけない。純也くんが上げるタイミングと角度から、どこらへんに来そうかなというのを自分の中で2個くらい絞っていて、ボールが来て片方の選択に絞って動き直したという感じですかね」
本人はまるで数学者のように味方と敵の位置を見て、得点確率の高い動き方を弾き出していたのだという。緻密な計算がなかったら、日本はパラグアイに手痛い敗戦を喫していただろう。憧れの父がつけていた18番を背負った最初にゲームで、彼は“真の日本代表エース”であることを名実ともに示したと言っていい。
その存在価値をブラジルという強国相手にもより強く示したいところ。日本はブラジルと過去13戦戦っているが、戦績は0勝2分11敗。得点者も5人だけで、FWで得点した選手は福田正博と玉田圭司の2人しかいない。それだけの難敵であるのは間違いないのだ。直近の対戦は2022年6月の東京・国立競技場でのゲーム。当時、鹿島アントラーズの選手だった上田綺世もメンバー入りしていたが、起用されたFWは古橋亨梧と前田大然。90分間ベンチで見守るという悔しい思いをしている。
直後にベルギーのサークル・ブルッヘに移籍。同年11月のカタールW杯メンバー入りを果たしたが、出番が与えられたコスタリカ戦では仕事らしい仕事ができずに敗戦した。「ドイツやスペインの試合に出たら、コスタリカ相手に何もできなかった自分は何ができたんだろうという思いもある。常に自分自身をアップデートさせないといけない」と強い危機感を募らせていた。
そこからベルギーでは加入1年目で22得点をマーク。2023年夏には名門・フェイエノールトへステップアップを果たしたが、いばらの道は続いた。確固たる地位を勝ち得たのは、かつて小野伸二と共闘したロビン・ファンペルシー監督が就任した昨季後半以降。3シーズン目の今季はここまで8戦8発とリーグ得点ランキングトップに立つ。本人も「噛み合っている状態」と言うように、上昇気流にあるのは間違いない。
「フェイエノールトに入ってから、うまくいかないことがいっぱいで。自分ができないこと、足りないことを一つずつやってきた。同じ環境に2年間いて、これだけ結果に差が出るというのは、そうやってうまくいかないことに向き合った結果だと思う。今年何かを変えたから成功したという感覚はないです」と彼は地道な積み重ねの結果だと強調する。紆余曲折を乗り越えた今の上田綺世は「どんな厳しい局面でも確実に点を取れる」というレベル感に達しつつあるようだ。
その底力を次戦で体現し、福田、玉田に続く“ブラジル戦で得点したFW”の仲間入りを果たせれば、8カ月後の大舞台に向けて大きな弾みがつくに違いない。3年前のカタールで挫折感を味わった分、次のW杯では持てる能力の全てを出し切って、大きな成功を手にしてほしい。サッカー王国との一戦をそのための大きな飛躍の場にするべきだ。
「(次の試合では)あるもの全部試したいですよ。自分に何ができて、何ができないのか。それはチームもそう。できることを最大限ぶつけて、自分たちの現在地を知るというのが大事だと思います。結果が露骨に出た方がむしろいい。とにかく全部出すことにこだわりたいですね」とも本人は語気を強めていたが、ポジティブな感覚を得られるに越したことはない。「今の日本代表には上田綺世という絶対的エースがいる」というのをブラジルのみならず、世界中に広く知らしめるような圧倒的パフォーマンスを示してくれれば理想的。日本の命運はこの男に託されるといっても過言ではない。
取材・文=元川悦子
By 元川悦子