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自ら定めた「JFLで優勝、J3昇格」…38歳の元日本代表DFがFC今治で戦う理由

2019.09.19

昨シーズンまで福岡でプレーした駒野友一は今季、JFLでプレーを続けている [写真]=Jリーグ

「今年3度目のJ3挑戦で、今までは『昇格だけ』を目標にやってたみたいですけど、『優勝して昇格する』方が次につながると思います。昇格だけを目標にしていたら、今年だけで終わってしまう。しっかりと将来的なことを考えて、チームが上のステージに行ったときにいい戦いができるようにしたいと思って、優勝を目指してやっています」

 まだ蒸し暑さの残る9月15日、JFL第21節で東京武蔵野シティFCと対戦したFC今治は、敵地で3-1で勝利し、HONDA FCに続く暫定2位をキープした。残りは10試合。J3昇格条件である上位4位以内がおぼろげながら見えてきた。だが、サッカーは最後の最後までどうなるか分からない。日本代表として78試合に出場し、2006年ドイツ、2010年南アフリカ両ワールドカップで天国と地獄を見た駒野友一は、その厳しさを嫌というほど味わってきた。だからこそ、「目の前の試合を1つずつ勝っていくことが大事」と決して気を緩めることはないのだ。


 2000年にサンフレッチェ広島ユースからトップ昇格を果たし、J1・374試合出場19得点、J2・150試合出場6得点を記録してきたベテランが今季、JFLに身を投じたことは、多くの関係者を驚かせた。

「昨年まで所属したアビスパ福岡に『契約を延長しない』と言われたとき、最初はJリーグでやりたいって気持ちが強くありました。でも、小野(剛=FC今治監督)さんと岡田(武史=同代表)さん、木村(孝洋=同トップチームGグループ長)からすぐに電話をもらった。小野さんはユース代表、岡田さんは代表、木村さんは広島時代からお世話になっている方。家族とも話し合いましたけど、奥さんも『恩返しのタイミングなんじゃないか』って言ってくれました。僕も自分なりにJFLはどんなものか調べましたけど、最終的には来なければ分からないと思ったし、サッカーすることは一緒。そう思って決断したんです」

 人生初の4部リーグ参戦となったFC今治で、彼が最初に手掛けた仕事が「優勝」という目標設定だった。開幕前のキャンプの際、「自分たちで決めた目標ならどんなに苦しくてもやれるはず。俺は外に出ているから決めてくれ」と小野監督に言われ、新加入の37歳が号令をかけたという。「もともと駒野は口数が多くないけど、口を突いて出る一言に重みがある。若手にとってロールモデルになれる選手だと思う」と20年超にわたる付き合いの指揮官は絶大な信頼を寄せている。そんな恩師の下、駒野はここまで戦い抜いてきたのだ。

「JFLの難しさは、相手がいろいろな戦い方をしてくること。今日の武蔵野もロングボールを徹底的に入れてきましたし、前節の(ヴィアティン)三重も全面マンツーマンという珍しいやり方だった。チームによって戦術が違うので簡単じゃないですけど、勝っていくことで自信につながると思います。それにアウェーのバス長距離移動とかJリーグとは全く違う環境にも戸惑いを感じました。だけど、J3に上がればもっといい環境でできる。早くそうなるように頑張りたいですね」と本人は今、前だけを見据えている。

 今治では福岡時代に続いて単身赴任をしている。選手が栄養バランスのいい食事を摂れる環境が用意されていた福岡と違って、今治では全て自分の努力次第。駒野も今年から自炊を始め、コンディション維持に努めているという。
「今は違う面で頑張ってます(笑)。携帯に出ているレシピを見ればだいぶ作れますよ。煮物系とかも。面倒くさくなったら炒め物とかばっかりになっちゃいますけど、食事は自分に返ってきますからね。7月に誕生日が来て38歳になりましたし、体のことを考えてやらないといけない。そういう自覚はあります」

 かつて、駒野ら1981年生まれの選手たちは「谷間の世代」と言われていた。それでも、親友の松井大輔(横浜FC)は今季からボランチとして新境地を開拓し、ジュビロ磐田で長年ともにプレーした前田遼一(FC岐阜)もJ2残留のために全身全霊を注いでプレーを続けている。J1でプレーする同世代たちは少なくなったが、駒野は「サッカー選手の現役年齢が上がっているので、僕もまだまだ現役でやりたいですし、試合に出て頑張っているところをみなさんに見てもらいたい」と目を輝かせる。その表情はJ1とJ2を行き来していた磐田時代、ケガで思うように試合に出られなかったFC東京時代、J1昇格が叶わなかった福岡時代より遥かに晴れやかだ。

「JFLで優勝してJ3昇格」という目標に手が届いたときこそ、駒野の表情はより一層輝くだろう。その日は果たしていつ訪れるのか。FC今治の悲願達成のために、38歳のサイドバックは力強く、献身的に走り続ける。

文=元川悦子

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