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痛恨黒星の広島に響いたスキッベ監督の激情…新井直人「自分たちが目を覚ます必要がある」

2025.06.30

広島を率いるミヒャエル・スキッベ監督 [写真]=J.LEAGUE

 試合直後の円陣でミヒャエル・スキッベ監督は、いつも以上に激しい身振りで選手たちに話していた。その後の記者会見では厳しい表情で、「まず前半のパフォーマンスに関しては理解できないところがあります」と切り出して試合を振り返った。

「サンフレッチェに来てから、(やってきたことと)全く逆のサッカーをやったと思います。本来だったら高い位置からボールを奪いにいきたかったですが、ボールを奪ってもバックパスが非常に多かった。ただ、後半は選手交代も含めて、アクティブで強くなったと思います。最後の方は、もう少しで同点に追いつけるようなチャンスもあったと思いますが、残念ながらそこまでいけませんでした。今日は試合の最初の10分ぐらいと後半の最後も良かったと思いますが、その部分だけが良くても、こういったJリーグの均衡したサッカーの中では勝利を掴むことはできません」(スキッベ監督)

 サンフレッチェ広島は6月28日、明治安田J1リーグ第22節で名古屋グランパスと対戦し、1-2で敗れた。試合の立ち上がりは広島が勢いを持って入ったが、18分に大きな決定機を逃すと、21分にミスから失点。相手GKのロングボールが最終ラインに流れてくると、DF荒木隼人が「ボールを後ろに流して処理できると思ったけど、相手が見えていなかった」と見誤り、後方のFWマテウス・カストロにボールがつながって仕留められた。

 失点後は、マンマークで強度の高い守備を貫いた名古屋に対して、広島らしいアグレッシブな姿勢が影を潜めた。40分にはGK大迫敬介のパスが中盤のMF東俊希との連携ミスでつながらず、ボールをカットされて再びマテウスに得点を許した。バックパスを受ける回数が多かった大迫は、「前半は(味方の)足元につける感覚がすごく良かった」と立ち上がりから中盤や前線へ果敢なキックを見せていたが、「相手もヘディングが強かったので、できるだけ足元でつなごうという意識を持った中で、俊希と少し意思疎通が合わなかった」と悔しさを滲ませた。

「僕が(バックパスを)受ける回数も多かったけど、ミラーゲームで相手の寄せが早かったので、僕が1つ高いポジションを取ってバックパスを受けたときも結構プレスが来ていた。逆にそこで剥がしたシーンもあったので、僕がその役割を少し担えば良かったと思った。ただ、2失点目がやっぱりチームとして重くなったと思います」(大迫)

 リーグ最小失点でチームを何度も救ってきた守備陣が珍しくミスを重ねて2失点。ただ、それはチームとして前向きに戦えなかった影響が濃かった。スキッベ監督は2失点目について、「自分たちが後ろ向きにどんどんプレーするようになったが故に、敬介がパスのコースを選択しなければいけないシーンがたくさん増えてしまった。本来であれば(大迫は)ゴールを守って、フィールドの選手がそこを受け持って前に進まないといけないところで、多くの責任を彼(大迫)に背負わせてしまった部分がある。敬介もあれだけバックパスが来ればミスをすると思います」と指摘した。

 広島は後半のスタートからMF中島洋太朗を投入。「(前半は)相手が前から来る中で、うまくボールを持つことや前に運ぶところが少し難しそうだった」とベンチで戦いを見ていた19歳は、「もっと自分たちのゲームにできたらいいなと思っていた」と静かに闘志を燃やしていた。ピッチでは「人もボールもどんどん動かしていかないとスペースは空かない」と落ち着いたプレーで攻撃を作って持ち味を発揮していたが、自身のプレーについては試合後に「納得はしてないです」ときっぱり。「引き分けや勝ちに持っていきたかったし、あまり何もできなかったという感じです」と話し、「(ピッチに入ったときの歓声は)ものすごくうれしかったし、だからこそ勝利を届けたかったので、すごく悔しい気持ちです」と心境を明かした。

 後半は選手を入れ替えつつチームも前に出る姿勢は見せたものの、攻撃がうまく噛み合わず、逆に相手のカウンターに再三脅かされた。それでも90分、MF新井直人がペナルティエリア前の中央でボールを持つと、「ワンタッチでいいパスをもらえたので、もうシュートしか考えてなかった」。前を向いて左足を振り抜き、豪快なミドルシュートを叩き込んで1点を返した。「結果的に勝てなかったので、どう映っているかわからないけど、自分としてはいいゴールが決まったと思う」と振り返った。

 嫌な流れを切り裂くような一撃。ゴールへとつながったのは個で打開する強気な姿勢だった。新井は、「ミラーゲームだからこそ、(目の前の)1対1で勝ることができればいいだけの話というのがシンプルな答えだと思うので、いかに個人がどう剥がしていくだとか、3人目でどうやっていくだとか、ミドルシュートもそうだと思うし、そういう部分でやっぱり違いを作る必要があると再認識しました」と力強く話した。

 広島は大歓声を背に最後まで得点を目指したが、反撃は実らずに1-2で敗戦。下位で苦戦する名古屋に前半戦と同じスコアの1-2でシーズンダブルを喫し、5位に後退した。試合直後のお決まりの円陣では、いつも以上に厳しい表情のスキッベ監督が激しい身振り手振りで選手たちに話しかけていた。内容はわからないが、それはミスや負けへの感情よりも、自分たちの力を最大限に発揮することへの情熱だろう。

 指揮官の激情に触れた新井は、「今のチームとしては負けを許されるチームではないと思うし、それだけ戦力を持っていると思う。監督もチームがこんなもんじゃないと思っているので、監督が言ってくれて当然だと思いますし、この相手に負けるチームではないと思っているので、そこは自分たちが目を覚ます必要があると思うし、間違いなく次戦に響くような監督の声だったと思います」と奮い立たつ。

 とはいえ、同じ相手に2敗したのが結果であり、名古屋の方が相手のミスを得点につなげる力があったのも事実。それが広島の現状でもある。だからこそ、その言葉は試合で証明するしかない。

 次節は中3日の7月2日に行われる4位のヴィッセル神戸とのアウェイゲーム。荒木は、「今日の自分自身のプレーは反省するところがたくさんあって悔しい思いをしたけど、またそれをエネルギーに変えて良くなれると思うので、今日の借りをしっかり返したい」と切り替えて挽回を誓う。

 新井は、「ミスが起こるスポーツだし、それは誰かを責めるものではない。個人のミスと捉える人もいるかもしれないけど、これはあくまでチームのミス」と振り返り、次戦への修正について「チームとしてのミスを減らしていくこと。それは安牌なプレーを選ぶわけではなくて、ミスをしていい場所とミスをしてはいけない場所、そこの判断をもう一度チームで統一していくということ。あと、前半にチャンスがあったので、そういうところで決め切らないと、神戸戦は相手のストライカーを考えると間違いなくやられてしまうと思うので、だからこそ自分たちで先制しないといけない」と力を込めた。

 中3日と短い期間だが、改善点は明確。大迫は、「自分自身の感覚はいいし、失点のところはお互いの意思疎通のところだけだと思うので、それを逆に合わせればもっといいサッカーができると思う。この短い時間で修正して、神戸戦に向けて準備したい」と気を引き締めた。

 熱い夜に響いた指揮官の激情。「こんなもんじゃない」。その思いに選手たちが燃えないわけがない。

取材・文=湊昂大

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By 湊昂大

Kota Minato イギリス大学留学後、『サッカーキング』での勤務を経てドイツに移住して取材活動を行う。2021年に帰国し、地元の広島でスポーツの取材を中心に活動中。

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