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王者・川崎ついに暫定首位浮上も “新背番号14”脇坂に求めたい「数字」

2022.03.14

名古屋戦、後半途中までプレーした脇坂 [写真]=宮地輝

 2月12日の『FUJIFILM SUPER CUP』浦和レッズ戦での苦杯に始まり、J1開幕2戦目では横浜F・マリノス戦に4失点完敗と、今季は思うようなスタートを切れずにいた王者・川崎フロンターレジェジエウ大島僚太車屋紳太郎らケガ人も重なり、鬼木達監督も選手のやりくりに苦悩する日々が続いた。

 まさに苦しい台所事情を強いられたが、その後は鹿島アントラーズ、浦和を撃破。ガンバ大阪とも引き分け、ともにAFCチャンピオンズリーグ出場の兼ね合いで消化試合数が多い横浜FMと同率首位というところまで巻き返してきた。


 こうした中で迎えた12日の名古屋グランパス戦。長谷川健太監督率いる新体制で再出発し、リーグ戦1勝1分とまずまずの出足を見せている彼らは難敵と目された。案の定、序盤はアグレッシブな入りを見せ、最前線の酒井宣福仙頭啓矢らが奮闘。何度か危ない場面も作られた。

 それでも、王者はそう簡単には崩れない。守備陣中心にしのぎ、一瞬のスキを突いて前半25分に先制点を奪う。チャナティップのスルーパスに抜け出したマルシーニョが右足を一閃。電光石火の一撃には名手ランゲラックも防ぎきれなかった。

 この得点場面でチャナティップにボールを供給し、ゴールの起点となったのが、今季から背番号14をつける男、脇坂泰斗だ。右インサイドハーフで先発し、相手のギャップを突いた巧みな位置取りで名古屋守備陣を翻弄。精度の高いスルーパスや華麗なターン、鋭いFKで数々の見せ場を作った。

 先制後、川崎が絶妙な距離感で中盤を支配し、優位に試合を運べたのも、脇坂が要所要所でタクトを振るっていたから。浦和戦での2アシストが大きな自信になったのか、シーズン開幕直後よりもキレや鋭さが増してきたのは間違いない。

 川崎は1-0での勝利によって、横浜FMをかわしてJ1単独首位に浮上。少し気が早い話だが、リーグ3連覇への希望も開けてきそうだ。

 ただ、脇坂自身はもっとパフォーマンスを上げられるはずだ。中村憲剛という偉大な先人が長くつけていた14番を継承した人間には、より強いインパクトが求められる。そのためにも勝負を決めるゴールを奪うことが最重要命題と言える。特に後半から相手がギアを上げ、一気に巻き返しを図ってきた今回の名古屋戦のような試合となれば、なおさらだろう。

 しかしながら、脇坂は後半28分に遠野大弥との交代を命じられ、ベンチに下がることになってしまった。今季リーグ6戦を見ると全て途中交代。フル出場は1つもない。間もなく36歳になる家長昭博が6試合中4試合にフル出場していることを考えると、貢献度はまだまだ足りないと言わざるを得ないのだ。

「14番をつけることになって、いろいろな思いが湧いています。『やらなきゃ』という気持ちもありますし、プレッシャーもありますし、ここでグッと成長したいという思いもある。注目してもらっている分、ハードルも上がりますし、自分に何ができるかをより求められる。憲剛さんからは『泰斗なりの14番を作り上げてくれ』と言われたので、そこは一番大事にしなければいけないと自分も思っています」

 1月の日本代表国内組合宿に参加した際、脇坂は神妙な面持ちでこう語っていた。

 川崎をJリーグ屈指の強豪クラブへと引き上げ、自身も日本代表として2010年南アフリカワールドカップに参戦した中村憲剛を超えるというのはそう簡単にできることではないが、脇坂は十分可能だと判断されたからこそ、エースナンバーを託された。本人は今、必死にもがいているが、今一度、偉大な先輩からの言葉をしっかりと受け止め、毅然と前を向くべき。そして貪欲にゴールへと突き進むべきなのである。

 2018年に阪南大学からユース時代を過ごした川崎に戻ってからというもの、彼が残した数字は2019年に5点、2020年、2021年にそれぞれ3点。今回対峙した名古屋の稲垣祥が昨季リーグ8点を挙げ、YBCルヴァンカップで得点王に輝いたことを考えれば、インサイドハーフという位置でももっとゴール数の伸ばせるはずだ。

 目に見える結果を出さない限り、大目標に掲げているW杯への道も開けてこない。現実の厳しさを本人が誰よりもよく分かっているに違いない。

 海外に目を向ければ、日本代表の攻守の要である遠藤航がブンデスリーガでキャプテンマークを巻き、得点を重ねている。かつての川崎のチームメートである守田英正田中碧も勇敢かつタフに戦い続けている。脇坂は現時点で日本代表のラージグループに入っているものの、8カ月後のカタールW杯へ逆転滑り込みを目論むのなら、一気にスパートをかけて彼らを上回る存在感を示す必要がある。

 それは、非常に高いハードルではあるが、脇坂ならば可能性ゼロとは言い切れない。高度な技術と創造性、非凡なサッカーセンスを備えた男には、とにかく「川崎を確実に勝たせられる存在」に飛躍してほしい。王者がここから首位を独走できるか否かは、新14番の一挙手一投足にかかっているといっても過言ではない。

取材・文=元川悦子

By 元川悦子

94年からサッカーを取材し続けるアグレッシブなサッカーライター。W杯は94年アメリカ大会から毎大会取材しており、普段はJリーグ、日本代表などを精力的に取材。

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