2019年の新年度、プーマが新たに展開をスタートさせたキャンペーン『オレヲミロ』。高校生世代を中心としたプレーヤーに向け、トップレベルで活躍するプレーヤーとの差を表現し、『新たな高みへ』たどり着くためには何が足りないのかを考えるためのインスピレーションを与え、マインドを変えていくことをプーマがサポートしていく。
いつもの日常。繰り返す毎日。自分の日々にはフットボールしかないのに、輝かない。突き抜けない。上手くなっているのか下手になっているのかすら、わからない。焦る。もがく。海の向こうでは、トッププロたちが躍動している。あいつらとオレ、なにが違うんだろう。そんなに違うんだろうか。
様々な選手の経験から、次の一歩を踏み出すためのヒントを探るインタビュー連載企画。長谷部誠、久保裕也に続く、第3回は2月からベルギーでプレーする伊東純也に話を聞く。
高校、大学、J1、日本代表と駆け上がってきた、サイドを切り裂くスピードスターは2019年2月、新たなチャレンジを求め、ベルギーへと渡った。冷静かつ熱い魂を持つ彼は、どのようにして生まれたのか。今、新たな壁に挑んでいる伊東純也が見ている世界から、我々が得られるものとは。
インタビュー=湊昂大
構成=小松春生
■レベルアップのために外へ出ることが必要と思った
―――ベルギーに来て、少し時間が経ちましたが、環境には慣れてきましたか?
伊東 ある程度は慣れたと思います。食べ物は日本と全然違いますが、美味しいですね。日本食もできれば食べたいですけど(笑)。
―――街の印象はいかがでしょう。
伊東 そんなに外出する場所もないので、誘惑がないですね。サッカーに集中できる環境です。テレビもオランダ語なので、サッカーだけ見ていたり。そういう環境は、自分にとってプラスだと思います。
―――試合はかなり見ているんですか?
伊東 プレミアリーグやラ・リーガは中継も多いので、見ています。日本人選手がいるチームの試合は見たいと思いますし、気にしていますね。
―――チームメイトとのコミュニケーション方法はどのように?
伊東 いろいろな国の選手がいるので、基本は英語です。正直、言葉はまだわからない部分が多いですけど、徐々に理解できるようになってきています。英会話のレッスンはチームが用意してくれて、週2回ペースで受けています。
―――初の海外挑戦、ベルギーへの移籍について相談はされましたか?
伊東 酒井宏樹選手にはしましたし、移籍が決まってから細貝萌選手にも相談しました。移籍が決まる前はいろいろな人に「海外へ出たほうがいい」と言われていましたし、プレー経験がある人たちからも「チャンスがあったら出たほうがいい」とアドバイスされていました。
―――一番、何を求めて海外挑戦を決めたのでしょう。
伊東 自分のパワーアップ、レベルアップのために一度外の世界に出ていくことも必要だと思いました。一方で、日本人も海外でしっかり通用するとは思っていました。フィジカル面の強さは負ける部分もあると思いますが、テクニックやスピードの部分は通用すると思っていたし、実際にプレーしてみてからも、そう感じます。もちろん、もっとやらなければいけない部分もあります。チャンスは決めないといけないですし。
―――3月で26歳になりました。この年齢での海外挑戦ということに躊躇は?
伊東 大学を卒業し、ヴァンフォーレ甲府でプロ選手としてのキャリアをスタートし、一歩ずつ階段を登ってきたという感覚があります。周囲の人に比べたら年齢的には遅いですけど、あまり気にしていなかったですね。
少し迷ったところもありますが、最後に決断したのは「成長したい」という気持ちがあったからです。柏レイソルには3年在籍して、少し甘えてしまう部分も出ていたと思いますし、厳しい環境に身を置いたほうがいいと思いました。
―――いつ頃から海外移籍は頭にあったのでしょうか?
伊東 柏に移籍して2年目くらいからですね。海外からお話をもらうようになり、少し意識し始めました。でも、このタイミングで移籍が決まったことに特別な理由はありません。クラブ間の話がうまくまとまり、自分の「挑戦したい」という気持ちもあり、このタイミングになりました。
―――別の環境、厳しい環境に身を置くということへの不安やプレッシャーもあったと思います。
伊東 それはもちろんありましたし、寂しくなるときもあります。でも、ここで頑張っていくということがとにかく大事ですね。負けん気が支えになっているのかもしれません。とにかく負けることが嫌で(笑)。
■スピードやテクニック、ドリブルは求められている
―――冬移籍ということで、シーズン途中のチームに合流する難しさは?
伊東 首位のチームですし、ある程度完成されたチームに入っていくということで、試合でいきなり使ってもらえるとは思っていなかったですし、練習からアピールして、試合に出た時に、出場時間が短い中でどうアピールするかが大事だと考えていました。
監督は、日本でプレーしている時の攻撃の部分を見てくれていて、自分の良さをわかってくれています。スピードやテクニック、ドリブルの部分は求められているし、そこを期待されていると思います。
―――海外でプレーする難しさを感じる部分は具体的にありますか?
伊東 チームメイトとのコンビネーションは、意思疎通がまだそこまでできていないので、難しさはあります。ただ、自分の良さを生かすためにも、要求はしています。ほしいタイミングでパスをもらわないと、何もできないので。
難しさで言えば、グラウンドが日本と全く違うので、そのやりづらさもありますね。スパイクは『PUMA ONE』を履いています。シューズ自体は自分に合う感覚がある一方、日本ではスタッドの取替式をあまり履いてこなかったんですけど、ベルギーでは取替式を履かないとプレーできないと感じます。ピッチが柔らかいというか、滑るんです。日本のように芝がきれいではないですし、イレギュラーもありますね。なので、プーマさんにすぐ送ってもらいました。スタッド以外の点では日本と同じもので、まったく問題ないですね。
―――課題として、得点力の向上をJリーグでのプレー時や、アジアカップでも挙げています。改善に向けて必要をと考えていることは何でしょう。
伊東 技術面ももちろんそうですが、落ち着きや経験が重要だと思うので、精神面が一番大きいと思っています。大事なところで決められるメンタルが大事ですね。
―――そのメンタルを高めるためには?
伊東 普段から高いレベルでプレッシャーを感じながらやるのが大事だと思うので、海外ではそういうことを経験できると思います。
■その時々で「負けたくない」という意識を持っていた
―――伊東選手は、海外クラブへの移籍という新しい“挑戦”を選びました。新たなことに挑む10代の選手たちも増えています。伊東選手の高校時代のお話に、10代の子どもたちへのヒントがあると思うので、高校時代のお話を聞かせてください。どんな選手でしたか?
伊東 神奈川県の公立高校に通っていて、選手権は県予選ベスト32くらいで負けていました。インターハイも最高で予選ベスト8くらいです。弱小校ではないですけど、全国を目指すのが難しいなりに、選手権出場を目標に頑張っていました。選手権予選など、1年生の時から出場できましたが、3年間で上のステージに行けなかった悔しさはあります。一方で当時から、自分の武器という点ではある程度やれる自信はありました。
―――大きい舞台に立てない中、努力を続けられた理由は何でしょう。
伊東 シンプルに、「サッカーがうまくなりたい」「サッカーが好き」だから頑張っていました。大学もそのおかげで進め、1年生から試合に出られたので、高校時代に頑張ったおかげだと思っています。ただ、Jリーグのユースチームや強豪校に比べると、今思えば甘い練習をしていたと思いますね。
―――高校時代にプロ選手になることは意識していましたか?
伊東 全く考えていなかったです。なれるとは思っていなかったですけど、卒業アルバムには「プロになる」と書いていたみたいなんですけどね(笑)。
―――では、意識するようになったのは?
伊東 大学2年生くらいの時です。関東選抜に入れるようになり、例えばよっち(武藤嘉紀)のような、プロになる選手たちがいたんです。そこから、やれるという自信がつき、意識し始めました。それまでも、その時々で「負けたくない」という意識がありました。上を目指すというより、現実を見て、その場その場で最善を尽くして頑張ってきたことが、今につながっていると思います。
―――プロになってからメンタルで変わった部分はありますか?
伊東 大きく変わったことはないですね。ルーキーだと一番下からのスタートなので、ポジションを“争う”というプレッシャーはなかったですし、少しの時間で結果を残さなければいけないと考えていました。最初の8試合くらいは途中出場が多かったので、そこで負けたくないという意識はありました。その中でプロに入ってすぐ、しかもJ1で試合に出られるようになり、自分の武器が通用すると思えたことは自信になりました。
―――高校時代と比較して、不安や緊張への対応の方法は変わりましたか?
伊東 そんなに変わっていないと思います。緊張するタイプでもないと思いますね。正確には、緊張はしていると思いますけど、意識的に平静を装うと言いますか、平常心でいつも取り組むように意識しています。
―――平常心でいられることが、自身の強みだと思いますか?
伊東 ミスが多かったりすると、メンタル面がブレて消極的になることもあるかもしれません。でも、そういう試合になった時は「調子が悪いな」と割り切って、「ワンチャンスで決めてやろう」と、ゴールだけを狙いますね。決めちゃえば、チャラだろうという気持ちでいます(笑)。
―――ベルギーに来てからも、変わりませんか?
伊東 同じサッカーなので、あまりそこは考えていないですし、平常心でやれていると思います。日本でやっていることと変わりませんから。自分の持ち味を出す、攻撃面のいい部分を出すといったベースは一緒です。やらなければいけないことが、特別変わったわけではないですし、自分のことに集中するだけですね。
―――最後に、海外での挑戦を始めた伊東選手から、これから多くの“挑戦”が待っている高校生にメッセージをお願いします。
伊東 自分は高校生の時、あまりうまくいかないことの方が多くて。でも、やり続ければチャンスが来ると思います。自分もスタメンを勝ち取れるようにチャレンジしていくので、一緒に頑張りましょう。
By 湊昂大