[写真]=Getty Images
「Jリーグは非常に不甲斐ないプレーばかりで『なんで自分たちもこんなに勝てないんだろう』っていう歯がゆい気持ちですけど、それ以上にサポーターのみなさんが歯がゆい気持ちだと思う。そういう時こそ、今までやってきたことを冷静に考えてやり続けることが非常に大切。変なことをするのが一番の逆効果になりますからね」
浦和レッズは、J1で最近7試合未勝利と苦しんでいる。それでも、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)では17日の上海上港との準々決勝セカンドレグで1-1の引き分けに持ち込み、2年ぶりの4強入りを決めた(2戦合計3-3。アウェイゴール数により準決勝進出)。
昨シーズン王者の鹿島アントラーズが広州恒大に敗れ、浦和は日本勢最後の砦となった。チームをけん引するのはもちろん、エースの興梠慎三だ。苦しい戦いが続くチームにあって、彼は公式戦3戦連続ゴールと1人気を吐いている。「今のレッズは慎三くんに依存しすぎているくらいだと思う」とDF鈴木大輔も神妙な面持ちで言うほど、33歳の点取屋は圧倒的な存在感を放っている。
「俺、いつ交代しようかなと考えてた。左足に力が入んないし、右足首も痛いし、もうケガが治んないね。この年までケガなんかなかったんですけどね。30代になったからとかじゃなくて、今までのツケが回ってきたんじゃないかな。ちゃんとケアしてなかったし…」と上海上港戦後に吐露した通り、最近は両足に不安を抱えている。が、ピッチに立ったら幅広く動いて攻撃の起点となり、ゴール前で研ぎ澄まされた得点感覚を発揮する。関根貴大の左クロスに呼応し、いったん相手の視野から外れて前に飛び出して頭で合わせた上海上港戦のゴールなどはまさに圧巻。さすがはJ1初となる8シーズン連続2桁得点をマークしているストライカーだ。
これまでの興梠は「日本代表に縁のない選手」というイメージが強かった。2008年10月のUAE戦で同い年の岡崎慎司とともに代表デビューを果たしたが、技術的に下回ると言われた岡崎が代表通算50ゴールという偉大な記録を残した反面、興梠が代表に定着することはなかった。宮崎・鵬翔高校時代から「天才アタッカー」と評され、長友佑都に「慎三には本当に手を焼かされた」と言わしめるほどの傑出した才能に恵まれた男も、泥臭さと執着心という部分は少し足りなかったのかもしれない。それでも、万能型の点取屋としてJリーグでは突出した実績を残し続け、現在に至っている。そのコンスタントな活躍ぶりは誰もが認めるところ。30代半ばに差し掛かった今でも結果を残し続けることで、潜在能力の高さを証明している。
浦和のレジェンド・福田正博のクラブ通算91ゴールを更新した7月6日のベガルタ仙台戦後、興梠は興味深い言葉を口にしていた。
「FWはペナの中でどれだけ仕事をするかっていうのがすごく重要になってくる。自分としてはペナ内では『遊び』が必要だなと。やっぱり余裕がないと決めれないと思うし、力んだらダメなんで、いい具合で遊び感覚でやれてるのかなという気がしますけどね」
鹿島で柳沢敦やマルキーニョスらとともに戦っていた若い頃の彼には、そこまでのゆとりは感じられなかった。ゴール前の絶好機に力が入りすぎてシュートを枠を外したり、トラップをミスするようなシーンもあった。そうしたトライ&エラーを重ねて長い月日を費やし、33歳になった今、興梠は「ゴールのツボ」を体得するに至った。それが精神的余裕につながり、浦和が想定外の苦境に陥っている今も、広い視野でゴールへの流れを的確に読み切れる。相手DFやGKの動きを見ながら先手を取り、いいポジションに入り込んで確実に点を奪える。この男の存在があったからこそ、浦和はアジア4強入りを果たせたと言っても過言ではないだろう。
「準々決勝は鹿島とやりたいですね」
不敵な笑みを浮かべた興梠の願いは残念ながら届かなかったが、2年ぶりのアジア王者を目指す強い思いは揺るがない。もちろん、低迷しているJ1でも浮上のきっかけをつかもうと考え、天皇杯の連覇も狙っているはずだ。今季もシーズン終盤に入り、3つのコンペティションを掛け持ちすることは、慢性的なケガを抱える両足に大きな負担をかけることになるだろうが、興梠抜きで今の浦和は戦えないのだ。
「とにかく今は勝ちたいですね。今のレッズのメンツを見れば、勝たないといけないと思うし、J1でこの順位にいるチームではない。残留争いっていうのは僕もあんまりしたことはないので。そのためにもやっぱり決めるべきところで慌てないことが大事かな。チャンスは作れているので、ラストパスだったり、センタリングがちょっとうまくいかないとか、その辺を改善して、もうちょい冷静にプレーできればいいと思います」
自身がピッチ上で表現している冷静さと余裕をチーム全体に波及できれば、浦和は直面している壁を超えられる。興梠慎三の底力が今こそ必要とされる時だ。
文=元川悦子
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By 元川悦子


