FOLLOW US

データスタジアム社員が語る②…まだまだ試行錯誤の段階、データ分析の進化の可能性

インタビュー・文/池田敏明
写真/小林浩一

 2014年に開催されたブラジルW杯は、ドイツの優勝で幕を閉じた。準決勝で開催国ブラジルに7-1の大勝を収めるなど、機能的なプレーで相手を圧倒するドイツのスタイルは、世界に衝撃を与えた。

 そのドイツ代表が、数年前からデータ分析システムを導入していたことも、大きな話題を呼んだ。彼らが栄冠を手にした要因は、超一流プレーヤーたちの能力だけではなかった。彼らのプレーをデータに落とし込んで詳しく分析し、その質を向上させるための方策を導き出したことで、効率的なチーム強化を図ることができたのだ。

 ドイツに限らず、サッカー界では今、データ分析が脚光を浴びている。Jリーグでは2015シーズンからトラッキングシステムが導入され、我々サッカーファンも、選手たちの走行距離やスプリント回数といったデータを手軽に確認できるようになった。

 そのトラッキングシステムを運営・管理しているのが、サッカーや野球、ラグビーを始め、様々なスポーツにおいてデータ収集・分析を行っているデータスタジアム社だ。

 加藤健太氏は、データスタジアムのフットボール事業部 分析チームに所属し、サッカーの試合でのデータ収集、分析を行っている。試合会場でのトラッキングシステムの運用も行っており、まさにデータ分析の最前線にいる人物と言えるだろう。

 加藤氏がデータの重要性を説くのは、日本サッカー界の発展を願うからに他ならない。正しく使えば大きな武器になる「データ」というコンテンツ。その奥深さや活用法を、加藤氏が語ってくれた。

数字だけを見るよりも…コンセプトとの結びつきが大切

――スポーツにおけるデータ活用が注目されるようになってきましたが、いつ頃からそのような機運があったのでしょうか。
加藤健太 いつ頃から、というのはかなり難しい部分があると思うんですが、次の試合に最善を尽くそう、という思いは昔からあるわけで、今も昔も基本となるのは映像だと思うんですね。映像を見ながら相手の特徴を把握し、相手の良さを消すため、逆に自分たちの良さを出すためにはどうすればいいか、両方を並行して追い求めるわけですよね。そう考えると、データを使うのは「データ」というものが世に出てきた当初から行われているのではないかと思っています。

――2014年のブラジルW杯で優勝したドイツ代表は、データ分析システムの活用が大きく取り上げられました。
加藤健太 その取り組み自体は、弊社ではなくSAPさんの取り組みなので、弊社として言えることは限られているのですが、聞くところによると、ドイツ代表は自分たちの強みを最大限生かすためにデータ分析システムを使用したそうです。

――それは、どんな部分でしょうか。
加藤健太 特に重視したのが、選手たちがボールを受けてから放すまでの時間を短くすることだったそうです。そこのテンポアップに取り組んでいこうということで、ブラジルW杯の数年前から取り組み続け、当初は平均で2秒以上掛かっていたのが、本大会前には1秒を切るようになった、という話を聞いています。

――相手の分析ではなく、自分たちのプレー向上に使っていたと。
加藤健太 そのほうが多かったようですね。相手の分析は、昔からやっていたものを引き続きやっていたようです。ケルン体育大学と提携して、対戦相手とのシミュレーションで学生をアサインして、詳細に分析したという話は聞いたことがあります。ただ、それは以前からやっていたスカウティング作業の延長線上ですね。

――ドイツ以外で、データ分析に取り組んでいる国はありますか?
加藤健太 強豪国は、どこも何かしらやっていると思います。ただ、代表の活動期間は短いですし、メンバーもその時々で違うので、継続的に取り組むのは難しいのかな、という気がします。

――Jリーグのトラッキングシステムは、どのようにデータを算出しているのでしょうか。
加藤健太 生データとしてはかなりシンプルな感じでして、1秒間に25回、記録されていて、その1回ごとに、ピッチ上にいる全選手と審判の、誰がどこにいて、その瞬間に時速何キロで走っているか、といった情報が記録されます。それが1秒間に25個出てきて、90分間続くという形です。そこから計算されるのが最高速度やスプリント回数です。

――走行距離やスプリントの数値が高いほうがより優れたチームで、勝利も得やすいというイメージがあるのですが、Jリーグの場合は必ずしもそれと合致しない事例が多くあります。その理由はどこにあるのでしょうか。
加藤健太 昨年もいろいろな分析をしたのですが、基本的に走行距離やスプリント回数と勝敗の相関は「ない」と思っています。それはJリーグの勝敗を見てもそうですし、ブンデスリーガもすべてチェックしたんですが、やはり「走っていれば勝てる」というわけではないですね。相手より多く走らなければ互角の勝負にならない、というチームもありますし、逆に強いチームが走ることに取り組んでいるケースもあるので、一概には言えないと思います。個々の選手を見ても、毎試合14キロ走る選手、40回スプリントできる選手が代表になれるかと言えば、そうではないですよね。もちろん代表に入るような選手の場合、他の選手より平均的に上かな、という気はしますが、表向きの数字だけでは、チームの優劣や選手の優劣、勝敗への影響は見えてこないと思います。

――チームにとって効果的な走りができているかで左右される、ということでしょうか。
加藤健太 そうですね。ただ数値を見るだけではなく、チームとして求めていることができているのかどうか、という部分でデータを使っていただくことが大切だと思います。例えば、サンフレッチェ広島の場合は、平均の走行距離はそれほど長くないですし、スプリント回数もそれほど多くないんですけど、両サイドのミキッチ選手、柏好文選手は、すごくスプリント回数が多いんです。逆にボランチの青山敏弘選手は、スプリント回数は1試合でゼロの時もあるんですけど、走行距離がチームでトップクラスです。このように役割分担がある中で、選手たちが持ち味を発揮できているかどうか、という観点で見るのが有用かと思います。

――データを使った分析がこれだけ一般的になると、データアナリストになりたいと思っている方も増えてくると思います。そんな方々へのアドバイスをお願いします。
加藤健太 今は本当にいろいろな数字やデータがあるんですが、それをたくさん知っていればいいわけでもないし、たくさん集められればいいわけでもない。チームのコンセプトがあって、それが機能しているかどうかを判断するために、どのデータを参考にすればいいのか、何を見ていけばいいのかをしっかり把握し、継続的に見ていける視点を持っている方のほうが需要はあると思います。

――最後に、今回のセミナーで、参加者がどのような収穫を得ることができるかを教えてください。
加藤健太 それぞれ考え方やバックグラウンドが違うので一概には言えませんが、サッカーのデータってすごくたくさんあってうまく活用されているイメージがあると思うんです。ただ、実際のところはまだまだうまく使えていませんし、日本だけではなく、世界でも試行錯誤している時代だと思っています。さらに今あるデータをうまく活用すれば強くなるわけではなく、チームのコンセプトに沿っているかという判断が大切だ、というところもご理解いただきたいですね。それぞれ疑問に感じていらっしゃる部分もあると思うので、それに対して可能な範囲で回答させていただきたいですし、それで疑問が氷解して、より強い興味を持っていただければなと思っています。

 データが好きな人は、数値だけを判断基準にして優劣をつけてしまいがちになる。だが、加藤氏は「そうではない」と断言する。データはあくまで判断基準の一つであり、チームコンセプトの機能性をジャッジできる数値でなければ、分析する意味がないというのだ。日本代表の強化、そして日本サッカーの発展を願ってデータ分析の道に進んだ加藤氏ならではの言葉と言えるだろう。データ分析の世界はまだまだ発展途上にあり、大きな可能性を秘めている。今後、さらに有効活用できるデータ分析システムが確立されれば、加藤氏の思いも現実のものとなるかもしれない。

データスタジアム社員が語る①…活用できる場をもっと増やすべき、データ分析の未来 ? 予約済み
データスタジアム社員が語る③…活用できる場をもっと増やすべき、データ分析の未来 ? 予約済み

データスタジアム株式会社
フットボール事業部 兼 新規事業推進部
アナリスト
加藤健太

1981年生まれ。東京大学卒業後、システムインテグレーターにてSEとして官公庁向けシステムの開発に従事。
その後、ITベンチャー企業にてCTOとしてモバイルWebサービスの開発に携わり、2014年1月より現職。
現在は、チーム向けに提供する分析データやソフトウェアの作成/提供、データの管理および分析用データの抽出/生成などを担当している。

サッカーキング・アカデミーにて、データスタジアム株式会社 加藤氏の特別セミナーを実施!
▼詳細はこちら▼

SHARE

LATEST ARTICLE最新記事

RANKING今、読まれている記事

  • Daily

  • Weekly

  • Monthly

SOCCERKING VIDEO