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データスタジアム社員が語る①…チーム強化に繋がるデータ分析の重要性

2016.06.07

インタビュー・文/池田敏明
写真/小林浩一

 2014年に開催されたブラジルW杯は、ドイツの優勝で幕を閉じた。準決勝で開催国ブラジルに7-1の大勝を収めるなど、機能的なプレーで相手を圧倒するドイツのスタイルは、世界に衝撃を与えた。

 そのドイツ代表が、数年前からデータ分析システムを導入していたことも、大きな話題を呼んだ。彼らが栄冠を手にした要因は、超一流プレーヤーたちの能力だけではなかった。彼らのプレーをデータに落とし込んで詳しく分析し、その質を向上させるための方策を導き出したことで、効率的なチーム強化を図ることができたのだ。

 ドイツに限らず、サッカー界では今、データ分析が脚光を浴びている。Jリーグでは2015シーズンからトラッキングシステムが導入され、我々サッカーファンも、選手たちの走行距離やスプリント回数といったデータを手軽に確認できるようになった。

 そのトラッキングシステムを運営・管理しているのが、サッカーや野球、ラグビーを始め、様々なスポーツにおいてデータ収集・分析を行っているデータスタジアム社だ。

 加藤健太氏は、データスタジアムのフットボール事業部 分析チームに所属し、サッカーの試合でのデータ収集、分析を行っている。試合会場でのトラッキングシステムの運用も行っており、まさにデータ分析の最前線にいる人物と言えるだろう。

 加藤氏がデータの重要性を説くのは、日本サッカー界の発展を願うからに他ならない。正しく使えば大きな武器になる「データ」というコンテンツ。その奥深さや活用法を、加藤氏が語ってくれた。

代表強化のために…自分が絡めることはないか

――まず、データスタジアムの事業内容について簡単に教えていただけますか。
加藤健太 スポーツのデータを取得、分析して提供する会社です。データの提供先はリーグやチーム、あとはメディアが多いですね。野球とサッカー、ラグビーが三本柱なんですが、トラッキングシステムが出てからはいろいろな競技の関係者に興味を持っていただき、「データを活用してみたい」という問い合わせをたくさんいただいています。

――どのような問い合わせがあるのでしょうか。
加藤健太 明確に目的を持って「自分のチームを強くしたい」という形でお問い合わせいただくこともあれば、競技としてデータをあまり取得していないので、その整備をしていきたいというケースもあります。ただ、新しいスポーツの場合、我々も知見が足りず、またクライアント側がどんなデータを求めているのかを擦り合わせていかなければならないので、どういう目的があって、そのためにどのようなデータを取っていくかという話を最初にしなければなりません。

――ご本人のキャリアについても伺いたいのですが、大学卒業後の経歴を教えていただけますか。
加藤健太 データスタジアムに来る前はずっとIT業界で働いていまして、大学を卒業して最初に就職したのはシステムインテグレーターです。官公庁系のシステムの開発・運用を担当していました。そこで2年ほど働いた後にベンチャー企業に移りまして、そこではまずユーザー向けの携帯電話のウェブサービスを開発していました。その後マネジメントに移り、採用や人材育成などもやり、従業員が少ないのでカスタマーサポートも同時にやるような感じで(笑)。その後、元々スポーツ関連の仕事をしたいという気持ちがあったのと、その会社での役目に一区切りついたこともあり、2014年初頭から今の会社で働いています。

――元々スポーツはやられていたのですか?
加藤健太 自分自身サッカーをしていたわけではないのですが、中学生の頃からJリーグを見に行き始め、高校3年くらいからは日本代表の試合も見に行っていました。大学生の時に2002年日韓W杯があったので、ゴール裏で日本代表を応援するサークルを作りつつ、海外のサポーターをもてなし、日本の文化を体験してもらうというイベントも企画してやっていました。日本代表に強くなってほしい、W杯でいい成績を収めてほしいという気持ちでずっと見ていたのですが、なかなか自分の期待していたスピードでは進んでいかない。そこに自分自身が絡むことで、強化をスピードアップできないかな、という気持ちが少しずつ芽生えていました。

――その頃から、シュート数やポゼッション率などの数字を気にしながら試合を見ていたのですか?
加藤健太 最初に数字を気にするようになったのは、システムインテグレーターで働いている頃に、Yahoo!Japan さんで運営されていた『ファンタジーサッカー』というブラウザ向けのゲームをしていた時ですね。毎週のJリーグの試合で活躍しそうな選手を選び、その選手の活躍度に応じてポイントが入ってくるというゲームです。Jリーグも好きでずっと見ていたんですけど、全チームの選手を知っていたわけではないですし、どの選手が活躍しそうかの判断なんてなかなか難しかったです。そのため、一サッカーファンとして取得できるようなデータや数字を使っていろいろな公式を作り、分析して選手を選ぶようにしたんです。

――それで、どのような結果になったのでしょうか。
加藤健太 一度、全国1位になりました(笑)。でも、それで逆に危機感を覚えたというか、当時10万チームくらい参加していて、絶対に僕よりサッカーが詳しい人、一生懸命時間をかけてやっている人がいるはずなのに、たった数個のデータを使って選手を決めただけでそのような結果が出てしまうこと自体が、ちょっとまずいんじゃないかと。この国ではデータの分析や活用が、まだまだ不十分なんじゃないかなって思ったんです。2社目のベンチャー企業にいた時も、ずっと『ファンタジーサッカー』を続けていて、その時にデータの収集元がこの会社であることを知って話を聞きに来るなどし、その後、いいタイミングでこちらに移ってきました。

――その頃から、分析の重要性に気づいていたということですね。
加藤健太 そうですね。当時と今とでは、考えていることに少し違う部分があるかもしれませんが、データの分析も、日本という国が持つ強みの一つかなと思っていますので、そういった部分で少しでも世界との差を埋めていく、あるいはアドバンテージを取るような形にしないと難しいのかなとは思っています。

――加藤さんご自身の現在の仕事内容について、具体的に教えていただけますか。
加藤健太 フットボール事業部という部署に分析チームというのがありまして、今はそのリーダー的な感じで業務をしています。具体的には、Jリーグでは今、J1、J2、J3合わせて毎節30試合くらい行われていて、それぞれの試合でデータを収集しています。試合中に選手がボールタッチをするたびに、いつ、誰が、ピッチ上のどこでどんなプレーをして、その結果どうなったか、というのを、1試合あたり約2,000プレー位になるんですが、そのすべてを記録してデータベース化していきます。それとは別に、昨年からトラッキングデータの収集も始めていまして、こちらのデータも全国からすべてこちらのオフィスに集約されます。一昨年前くらいまではボールタッチの分析を主眼にやっていたんですが、昨年頃からはトラッキングデータの分析をしつつ、それまでのプレーデータとトラッキングデータを組み合わせて、もっと深い分析をしていこうという取り組みもしています。

――トラッキングデータは、専用のカメラを使用するわけですよね?
加藤健太 そうですね。私も昨年は15回くらい現地で撮影しましたが、なかなか大変です(笑)。試合の5時間くらい前に現地入りしてセッティングをし、カメラから入ってくる映像にピッチを認識させるなどの工程を経て、試合中もずっとオペレーション。機材撤収までの約7、8時間、現地で作業を行います。また、同じ時間帯に何試合もやっているので、社内にはトラッキングのクオリティーをコントロールするセンターがあり、そこと情報を交換しながら精度を高めていく作業もします。

――その際、特に気をつけなければならないことは何でしょうか。
加藤健太 運用的な話になってしまうんですが、画像認識の技術を使っているので、精度的には100パーセントではないんですね。システム的な限界が必ずあって、必ず問題になるのは、選手同士が重なる時ですね。例えば10番の選手と9番の選手がいたとして、重なると片方はカメラから見えなくなるじゃないですか。その時に「見えなくなりました」とエラーが出てしまう可能性があるし、重なって離れた時に、データ上で2人が入れ替わってしまう可能性もゼロではない。だから試合中はずっと監視して、そのような問題が起こった時にはすぐに修正しなければなりません。

――最初に設定したら、完全にコンピュータ任せ、というわけではないのですね。
加藤健太 そういうわけにはいかないですね。ただ、スタジアムや実施環境にも左右されるところはあって、例えばサッカー専用スタジアムで、真上の高い角度から撮影できる場合は、かなり精度が高くなります。逆にピッチがカメラエリアから遠くて、しかも高さも足りない場合はちょっとハードになりますね。

データスタジアム社員が語る①…活用できる場をもっと増やすべき、データ分析の未来 ? 予約済み
データスタジアム社員が語る②…活用できる場をもっと増やすべき、データ分析の未来 ? 予約済み

データスタジアム株式会社
フットボール事業部 兼 新規事業推進部
アナリスト
加藤健太

1981年生まれ。東京大学卒業後、システムインテグレーターにてSEとして官公庁向けシステムの開発に従事。
その後、ITベンチャー企業にてCTOとしてモバイルWebサービスの開発に携わり、2014年1月より現職。
現在は、チーム向けに提供する分析データやソフトウェアの作成/提供、データの管理および分析用データの抽出/生成などを担当している。

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By サッカーキング編集部

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