2012.12.26

ブンデスリーガのジャパンブランド、「9人のサムライ」の現在地

[サムライサッカーキング1月号掲載]

昨シーズンまでの香川のブレイク、清武や乾の活躍もあり、ブンデスリーガにおいて、日本人選手の活躍は珍しくない状況となった。そのドイツで、現地記者は日本人選手をどう見ているのか、9人のプレーヤーの現在地を、ドイツ人記者が分析する。

ブンデスリーガのジャパンブランド、「9人のサムライ」の現在地
Text by Thomas ZEH Translation by Alexander Hiroshi ABE Photo by Getty Images

 流行とは恐ろしいものだ。日本の雑誌に執筆している私のような記者にまで、チーム関係者の質問が及ぶ。

「誰か目ぼしい日本人選手を知らないか?」

 おいおい、待ってくれ。私は代理人じゃないぞ。それに君たちはほんの3年前まで、「日本だって? スポンサーなら大歓迎するよ」と極東の選手たちを嘲っていたじゃないか。

 それがどうだ。今や誰も彼もが日本人選手を褒め称え、新たな人材確保に血眼になっている。恥を忘れた変節ぶりもここまで来たら見事なものだ。

 こうした流れを一気に作り出した要因が香川真司や長谷部誠のプレーであることは言うまでもない。ブンデスリーガで隆盛を極める“ジャパンブランド”。その光り輝くラインナップを、私なりに解説してみよう。

長谷部誠「チームに欠かせないピース」

 気まぐれな前指揮官、フェリックス・マガトによって生み出された犠牲者の数は計り知れない。長谷部もその一人だった。独裁者がようやく追放され、ロレンツ・ギュンター・ケストナー新監督が就任するや、彼もピッチに戻ってきた。干されていた時期の長谷部は典型的な日本人であった。すなわち、「諦めず、努力を怠らず、文句を言わずに耐え続ける」ことを忘れず、自己鍛錬を欠かさなかったのだ。

「自己犠牲を厭わず目的を貫徹する姿は美しい。チームへの無上の忠誠心を体現している」。腐ることなく黙々とトレーニングに打ち込む長谷部の姿について、第二次世界大戦で名を馳せた日本軍のカミカゼ特攻隊を引き合いに賞賛するメディアもあったほどだ。

 もっとも、いくらピッチ外で殊勝な態度を見せようとも、サッカー選手の評価を決めるのはピッチ上のプレーである。その点、ケストナーは長谷部を「様々な戦術的指示に必ず応えてくれる」と高く評価する。最大の貢献は、中盤で労を惜しまず行われる司令塔ジエゴのサポートだ。長谷部はボールキープ能力の高さを生かしてチームを落ち着かせつつ、守備が嫌いなジエゴを背後から積極的にフォローしてゲームの下作りに汗をかく。ヴォルフスブルクの成功の鍵を握るのがジエゴのクリエイティビティーであるのは間違いない。だが、長谷部による陰の支えがなければそれも発揮されない。その意味で長谷部は今や、ヴォルフスブルクにとってジエゴ同様に欠かせないピースとなっているのだ。

乾貴士「最大のセンセーション」

 間違いなく今シーズン最大のセンセーションだろう。2部のボーフム時代、激しさとスピード溢れる攻撃的サッカースタイルに慣れていたことがブレイクの下地となった。

 乾を発見したアルミン・フェー監督は2部の試合を小まめに観察し、現場で徹底的にリサーチしていた(その点、マガトは大雑把でテキトーだった。かつてオオクボ(大久保嘉人)を獲得する際、『YouTube』で見て決めたというのだから……)。

 15試合で3ゴール、5アシスト(15日のヴォルフスブルク戦でも得点し4ゴールに)。専門誌『Kicker』の評価点は平均「3.11」、“新入生”としては成績上位の優等生だ。フェーはインタビューにこう答えている。「ウチのチームに欠けていたパズルのピースを埋めてくれたよ。左サイドから切り込み、積極的に攻撃に絡める選手をずっと探していた。2部の試合は肉体のぶつかり合いが多いが、ブンデスリーガはテクニックが重視される。タカシのテクニックはボーフムで群を抜いていて、私はすっかり魅了されたのさ」

 見る目がある監督に引き抜かれた幸運も、乾の実力の内だと言っておこう。

内田篤人「最も“高価な”ブランド」

 ネットで〈www.transfermarkt.de〉をチェックしてみよう。ここはファンや専門家による選手評価を移籍金額に換算して紹介するサイトで、内田の“移籍金”は400万ユーロ(約4億円)でブンデスリーガの日本人トップだ。

 一対一での競り合いの強さ、走りのスピード、そして豊富なスタミナ。今やお馴染みとなった彼の特長が移籍金を上昇させている。ただ一方で、克服すべき課題もある。それがクロスの精度であることは誰もが知るところ。クロスを上げる際、誰に、どのポイントで、どれほどの緩急で合わせるのか、といった精度が備われば、まさに“鬼に金棒”だ。

 シャルケに加入した当初、内田は同僚ジェフェルソン・ファルファンとのコンビネーションに苦しんだ。ファルファンの走り出しと内田のパス出しが合わず、そのため練習で「正確さとタイミング」を繰り返し反復し、ようやく息が合うようになった。

 DFとしての守備力はリーグの中でも水準以上のレベルにあるのだから、攻撃時のプラスアルファに磨きをかければ、チームへの貢献度は更にアップするだろう。本人は守備の優先度を口にするが、それだけに留まるのはもったいない。エース、クラース・ヤン・フンテラールのゴール数を増やすも減らすも、内田の右足次第なのである。

酒井高徳&岡崎慎司「カギを握る日本人コンビ」

 ユース代表歴を持ち、高い評価を受けるティム・ホークランドからポジションを奪った酒井は、相手チームから“危険な右サイド”と警戒されている。マルティン・ハルニックとのコンビネーションも冴えており、強気の攻撃参加はチームの貴重な武器だ。昨シーズン既に“ミニブレイク”している酒井だが、確実に経験を積み重ねており、リーグでも有数のサイドバックに成長したと言えるだろう。

 そんな彼とホットラインを築くのが、同胞の岡崎。今シーズン長らくゴールに見放されていたが、その間もチャンスメークと前線からの守備で存在感を示してきた。下位に沈むチームの中で無得点のアタッカーが起用され続けたという事実だけでも、信頼の高さが分かるというものだ。待ちに待った今シーズンのリーグ戦初ゴールを機に、得点力でもチームに貢献し始めるに違いない。

 2人とも高い学習能力という日本人の美徳を備えるだけに、チームが安定すればより高いレベルのプレーを見せてくれるだろう。いや、むしろチームの戦いぶりを安定させるのが2人のプレーだと言える。

 2度のリーグ優勝を記録しているシュトゥットガルトだが、リーグの定位置は「中の上」。酒井、岡崎ともにそのポテンシャルを考えると、現在の「中の上」からもっとステップアップしなければならない。

酒井宏樹「『10秒ルール』で生きる」

 もう一人の酒井は、34歳のスティーヴン・チェルンドロとポジションを争っている。アメリカ代表80キャップのライバルから実戦向けのヒントを会得しているが、まだまだ十分に活用できているとは言えない。

 ここまでブンデスリーガ6試合に出場し、ヨーロッパリーグではアシストを決めている。私は酒井を安定した選手と評価したいが、知人の『Kicker』記者の意見は正反対だ。ハノーファー担当の彼が酒井に与えた平均評価点は「5.25」。1〜2がベストイレブン、3〜4が及第点、6が最低だから、5点台は非常に出来が悪いということになる。担当者は酒井の消極的な守備と、攻撃参加の意思の弱さでマイナス評価としたと言うが、私はそれでも彼の将来性を悲観はしない。それはなぜか。

 ミルコ・スロムカ監督はチームに「10秒ルール」を導入した。いったんボールを奪ったらスピーディーな展開で10秒以内にシュートまでもって行き、相手に反撃の余地を与えない戦法である。そのために監督は屈強でスピードがあり、コンディションに優れる選手だけをチョイスする。この視点で見ると、素晴らしい身体能力を備える酒井はまさに監督が求める条件に合致するのだ。現在のマイナス評価は、出場経験を積めば改善されるはず。『Kicker』担当者が「俺の目利きが悪かった」と悔やむ日を私は秘かに待ち望んでいる。

清武弘嗣「“キヨタケのチーム”を築く」

 乾と並び今シーズンの日本人選手の中で最大の話題となったのが清武である。異論のある人はいないだろう。プレーの長所、将来性、課題……といったテーマは既にどのメディアでも取りざたされているので、ここでは別の視点から清武を捉えてみたい。

 当初、清武を狙っていたのは財政的にニュルンベルクを上回るナポリだった。ニュルンベルク加入の決め手となったのがスポーツディレクターのマルティン・バーダーである。彼は足しげく日本の彼の元へと通い、ラテンの情熱的なノリとは対照的に具体的かつ誠実に話を続け、その熱心さでついに口説き落としたのだ。

 日本人選手が戦術理解に優れるのは以前から指摘されていることだが、最近は「体力面でも欧州、アフリカに並んできた」というのが定説だ。現在の清武のプレーも、その見解に説得力を与えている。ピッチ狭しと旺盛に動き回る彼ならイタリアサッカーでもある程度の活躍はできたに違いないが、この選択は正しかったはずだ。何しろ今、ニュルンベルクは紛れもなく“キヨタケのチーム”になっているのだから。

宇佐美貴史「“宝の持ち腐れ”はもったいない」

 大都会のチームをお払い箱になった宇佐美。心機一転、田舎町で花を咲かせるはずが、思いどおりに事は運ばない。

 成績不振によりマルクス・バッベル監督が解任され、誰にでも出場チャンスが巡ってくる状況にあるが、彼だけは例外のようだ。

 その原因は、辛らつに言えば彼の「エゴ」。今の宇佐美は、ボールを味方に渡すタイミングが分かっていない。一対一のドリブルシーンであれば、確かに彼は勝者になる。だが一対二になってもやることは同じ。たとえ強引に突破できても、3人目が待ち受けていることを理解せず、周りを活用しようとしないのだ。かつてリーグのベストプレーヤーにも選出されたシュトゥットガルト戦の“4人抜きドリブル”のイメージが捨て切れないのか……。しかし、あんなプレーが何度も成功するはずがない。味方がラインを上げて攻撃参加しているところで、みすみすボールを奪われたらどうなるのか。誰だってその後の混乱が予測できるだろう。

 南米選手も唸らせるテクニシャン。ピッチで輝ける才能を持ちながら、このままのプレースタイルが変わらなければ宝の持ち腐れに終わってしまう。それはあまりにもったいない話だ。

細貝萌「遅れてきたジョーカー」

 序盤から堅調に順位を上げてきたチームにあって、細貝はコンスタントに出場機会を得ていた。それもこれもミハル・カドレツの負傷によって左サイドバックのポジションが空いたから。レンタル先で経験を積み、体力的にたくましさを増したとはいえ、細貝はあくまで“穴埋め”のプレーヤーだったはずだ。

 それが、リーグ戦半ばに差し掛かった今、2位まで浮上したレヴァークーゼンにあって彼は欠かせないピースになりつつある。特に絶妙の間合いで相手を制するその守備は、指揮官の大きな信頼を得ているようだ。シャルケ戦ではファルファンをほぼ完璧に封じ、“スズメバチのようだ”との賛辞とともにベストイレブンに選出された。

 とは言え、彼の本業はセントラルMF。持ち前の守備に加え、攻撃の組み立てやチャンスメークでも能力を発揮して初めて、実力を示したと言えるだろう。サイドバックでユーティリティー性をアピールし、ラース・ベンダー、シモン・ロルフェス、シュテファン・ライナルツといった新旧ドイツ代表が名を連ねる中盤に勝負を挑む。その時、細貝は好調レヴァークーゼンのジョーカーと評されるに違いない。


 日本人選手9人の現状を分析してみたが、彼らがドイツでこれほど受け入れられたのはテクニック、規律、自己犠牲の精神に優れているからだ。だからチャンピオンズリーグにレギュラーで出場していても、もはや全く驚かない。

 内田、乾、清武がレギュラーに定着した今、日本人選手には次のステップアップが求められる。それはリーダーとしての役割である。特に長谷部には「マスト」となる。日本代表でキャプテンを務める長谷部は『ドイツ組』の最年長者で、ピッチの内外を問わずチーム関係者から最も信頼されている人物だ。

 では、リーダーとはいかなる存在なのか。リーダーとはどんな役目を果たせば良いのか。長年ドイツに住む長谷部はリーダーの定義を肌で理解していると思う。ビジネス同様、サッカー界でもリーダーなくして生存競争は勝ち抜けない。

 その点で、日本人選手について私が気になるのは、小柄で攻撃的なサイドプレーヤーに人材が集中している点だ。大型で屈強なDF、ゴールに飢えたストライカー、攻守をまとめられるセントラルMF、いずれもセンターを担える選手が見当たらない。

 だが反面で、この事実が日本の躍進を支えているとも言える。サッカーの格言に「攻撃は試合を制する。守備はタイトルを獲得する」とある。リーダーがチームをまとめ、守備を整えるチームとなれば、日本サッカーは史上稀な急成長を遂げた新サッカー王国として、確固たるブランドを築くことになるだろう。