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ベッカムが“サッカー不毛の地”にもたらしたモノ「正しい発展の道を歩んでいる」

2012.12.09

ワールドサッカーキング 1220号 掲載]

 

インタビュー・文=ピーター・クラーク
翻訳=阿部 浩 アレクサンダー

 

 

 37歳にして、なお人を惹きつける。やはり、デイヴィッド・ベッカムは“永遠のスター”だ。「最後の挑戦をしたかった」

 

 MLS(メジャーリーグサッカー)カップ決勝を目前に控えたタイミングでの退団宣言。12月1日のホームでの“ラストマッチ”を前に、そこが「別れの舞台」であることをサポーターに伝える粋な心遣い。彼に魅了された人々は、“別れの準備”を整えることができたはずだ。

 

「引退を決断してもおかしくない年齢」という、少しばかり攻撃的なこちらの言葉にも、ジョークを交えながらスマートに切り返す。現役にこだわる理由はただ一つ、「サッカーが好きだから」だ。

 

 この夏、パリ・サンジェルマンを新天地に選んだズラタン・イブラヒモヴィッチは言う。「世界中からたくさんのオファーが彼の元に届くだろうね」と。

 

 インタビューでベッカム自身が語るように、イングランドの「ベストクラブ」で「最高のスタート」を切り、そこで「数多くのタイトルを獲得」し、スペインで「世界一有名なクラブ」の一員となり、イタリアで「戦術の重要性」を学んだ彼は、「アメリカサッカー界とMLSを発展させるミッション」に全力で取り組んだ。去りゆくスターの背中は、アメリカでの充実した歩みを物語る。

 

「僕を温かく迎えてくれたアメリカのファンにお別れをするのは難しい決断だった。クラブのスタッフ、監督、選手、そしてすべてのファンに感謝したい」

 

 プロキャリア20年、《永遠のスター》が選んだ「最後の挑戦」から目を離すな。

 

アメリカのサッカーは正しい発展への道を歩んでいる

 

2007年から所属するLAギャラクシーからの退団を発表しました。MLSでのプレーは6年。この間に、アメリカのプロサッカー界はどのような変化を見せましたか?

 

ベッカム(以下B)――5年前にギャラクシー入りが決まった時、「これでMLSは世界最高峰のリーグへ発展する」と、僕の加入をまるで“特効薬”のように捉えた人もいたようだけど、僕自身は「過度な期待は非現実的」だと考えていた。一人の力で変えられるほど、サッカーは底の浅いスポーツではないからね。ただ、アメリカのサッカー界は確実に発展している。それは事実だ。この国のサッカーは、正しい発展への道を歩んでいると思うよ。

 

著名なアメリカ人ジャーナリストのグラント・ウォール氏(CNNスポーツでサッカーを担当)は、自著『The BeckhamExperiment』の中で、「ベッカムの心はギャラクシーよりもミランに魅せられていた」と批判しています。この指摘についてはいかがですか?

 

B――僕はギャラクシーへのリスペクトをしっかりと持っている。ただ一方で、世間にはこれまでの僕の仕事をきちんと評価しない、したくないという人がいるようだね……。ヨーロッパで再び通用するようにと、オフシーズンにもそれなりのトレーニングを積んできたことは事実だ。でも、ギャラクシーには“人生一度きりのチャンス”を与えてもらって、とても感謝している。僕はアメリカサッカー界とMLSを発展させるミッションに関わってきた。その点については、一度たりとも手を抜いたことはないよ。

 

それでも、多くのファンは「我々が期待していたほどアメリカのサッカーは発展していない」というネガティブな意見を持っているようです。

 

B――それは、アメリカのサッカーをヨーロッパと比較するからだと思う。そもそも、その比較自体がナンセンスだし、比較する基準が違うんじゃないかな。ヨーロッパでは、サッカーはほとんどの国でナンバーワンの人気を誇っている。ライバルと呼べる競技が存在しないくらいにね。でも、アメリカにはアメリカンフットボールにベースボール、バスケットボールやアイスホッケーがあって、いずれもパーフェクトなプロ組織として運営されている。莫大な額のテレビ放映権が発生し、多くのファンが熱中するスポーツが4つも存在するんだ。サッカーはまず、“自分の居場所”を探すべきだと思う。それでも、「アメリカのサッカーが発展していない」なんて、まるで“たちの悪いジョーク”だ。事実、この数年でいくつもの新しいスタジアムが建設された。もちろん、オールド・トラッフォードのように巨大なスタジアムばかりではないけど、快適な作りで地域とサポーターをしっかりと結びつけている。リーグに所属する選手のレベルだって高い。だってそうだろう? それとも君は、ティエリ・アンリやラファエル・マルケスが一流選手じゃないとでも言うのかい?

 

では、代表チームの発展はどうでしょう。アメリカ代表の落ちぶれ方はひどいものです。10年前の日韓ワールドカップ(以下W杯)で健闘したチームが、今では世界レベルからはるかに遠いところで停滞しているのですから。

 

B――短期的な結果だけにとらわれて長期的な発展に視線が向いていない、それがそうした批判を引き起こす要因じゃないかな。確かに、今のアメリカ代表は強豪ではないかもしれない。それでも、僕は彼らがブラジルW杯に出場すると信じている。とはいえ、誤解のないように付け加えておくと、それを“当たり前”だと思うのは危険な考えだ。選手の努力、監督の指導力、ファンの応援、協会のバックアップと、総合的な力が発揮されなければW杯にはたどり着けないからね。そう、発展には忍耐と継続、みんなのサポートが必要なんだ。それより、アメリカでサッカーが本当に発展しているのかどうかを確認する簡単な方法があるじゃないか。

 

簡単な方法? それはいったい何ですか?

 

B――公園や駐車場に行ってごらんよ。至る所で子供たちが楽しそうにボールを蹴っている。この国のサッカーに未来がある何よりの証拠だよ。

 

アメリカに別れを告げたベッカム。その移籍先はどこに? 『ワールドサッカーキング 1220号』では2013年の移籍を大特集! 

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