2012.11.12

【インタビュー】吉田麻也「フットボーラーである前に」

サムライサッカーキング Dec.2012 掲載] Interview by Yuki NISHIKAWA Photo by Shu TOMIOKA

プロとして、日本代表として、許されるはずの自尊心やほんの少しの虚栄心も満たそうとはしない。人として、普通であることにこだわったまま、吉田麻也は世界最高の舞台にたどり着いた。

「プレミアのビッグ4に入りたい」

今、リキみなく発せられる壮大な夢には、確信めいた自信が宿る。港町の空に舞うカモメのように、飄々と悠然と。普通であることの底知れぬすごみをたたえ、その視線は新たな地平を見据えている。

6年前の“デビュー”を思い出した敵地でのアーセナル戦

── オランダから新天地イングランドにやって来て、少し時間が経過しました。改めて、世界のトップリーグに身を置いているという実感はありますか?

吉田 正直、まだあまり実感が沸くほどの余裕はないです。サウサンプトンに入ってから、この約1カ月半の間に日本代表の活動も2回あって、最初の1、2週間はチームのみんなとコミュニケーションを取ることもできなかったですから。やっぱり同じヨーロッパと言っても、文化的にもオランダとはかなり違うので、まだ分からないことも多いです。まず半年ぐらいは、そういうところに慣れるための時間だと思ってやっています。それは、オランダに初めて移籍した時もそうでしたから。ただ、オランダでは時間がかかったことでも、ここではもう少し早くこなしていきたいですね。オランダでの経験があっての、今なので。と言っても、外国では自分が思っているように物事が進んでいかないということはもう理解できているし、その分、気持ち的には楽です。周りの環境が完全に整っていないとしても、試合に出ればサッカーに集中できる。そういう気持ちの切り替えはできるようになっているので。

──ここまでプレミアリーグで数試合プレーしてみて、ピッチの内外で率直に感じたことは何ですか?

吉田 まずはどこに行っても、スタジアムが立派なこと! それだけでも、正直オランダとは違うな、という印象ですね。プレミアで初めて出場した試合がアーセナル戦で、エミレーツというすごいスタジアムだったのも大きかったと思います。あの試合は突然の途中出場だったけど、チャンスが回ってきてすごくラッキーでした。エミレーツのピッチに立った瞬間、思い出したことがあるんですよ。グランパスでのプロ1年目、デビューしてから3、4試合目に豊田スタジアムで浦和と対戦したんですけど……最後にワシントンに決められて、0-1で負けた試合ですね。それまでアウェーの甲府やホームの瑞穂など、陸上競技場での試合は経験していたんですけど、専用スタジアムでやるのは初めての経験だったんです。豊スタという立派なサッカー専用の競技場に3万人以上のお客さんが詰め掛けた状態で、試合前のアップをするためにピッチに出た瞬間、すごい歓声と拍手に包まれて。それに圧倒されて、僕が思わず「わあ……すげえ」みたいなことを言ったんですけど、そしたら横にいた(藤田)俊哉さんが、「どうだ! この雰囲気。プロっぽいだろ」って言葉を掛けてくれたんです。18歳の時に初めて感じたその感覚と、エミレーツスタジアムのピッチに入る瞬間の感覚がすごく似ていたんですよね。交代でピッチに入るのを待っている間、そんな6年前の“デビュー”のことをなぜか思い出していました。

──吉田選手はこれまでも日本代表やロンドン・オリンピック代表の一員として大舞台を経験してきましたよね。やはりプレミアリーグの選手としてイングランドのピッチに立つ瞬間は、また特別な感覚があったということですか。

吉田 そうですね。プレミアは何より注目度がすごく高いリーグでもありますから。オランダでプレーしていた頃は、日本での注目度はそれほど高くなかったと思うんです。気にも留められないような試合も多かったんじゃないかと思いますけど、(香川)真司がマンチェスター・ユナイテッドに移籍したタイミングということもあって、プレミア自体の注目度がまた上がっていますよね。これだけ注目されていると、試合ごと、ワンプレーごとで評価も変わってくるでしょうし……。そういう緊張感はオランダと違って常にあります。

──ステップアップしたわけですから、周囲もこれまで以上に厳しい視線で見てくるでしょうね。

吉田 かなり厳しい見方で評価されるようになるのは覚悟しています。サポーターやスタジアムの雰囲気も、こっちは試合やプレーによってすごくシビアだと感じますからね。玄人が見て、「いいなあ」、「渋いなあ」と思うようなプレーに対して、スタジアム全体で歓声が起きるという環境ですから。盛り上がり方もすごくて、何と言ってもゴールが決まった瞬間のどよめきがすごい。プロとしてプレーする空気感に関しては、プレミアはピカイチだと思いますね。

──ここ数日取材をしていて、今のところは土地にも環境にも問題なく適応しているように感じます。英語に関しても、オランダ時代に引き続き、通訳を介さずに話していますね。

吉田 オランダの時より、プライベートは楽ですよ。なんせ、周りが全員英語を話せるので(笑)。オランダ語で細かいことを話されると、やっぱり難しいところはありましたから。今は、会話のスピードだけはみんな速いので聞き取るのが大変だけど、理解はできます。だから精神的に落ち着けますね。コミュニケーションが楽に取れるので、外に出て活動的にもなれますし。

──その感覚が吉田選手らしさの一部なんじゃないですか? 中には言葉を覚えることを苦にする選手もいると思いますけど。

吉田 英語を苦に感じるのはしょうがないというか、日本人的な感覚なんでしょうね。イギリスに限らずヨーロッパでプレーしようと思ったら、好き嫌いに関わらず、やっぱり英語を使うしかないわけで。日本は島国なので特殊というか、今でもヨーロッパや大陸の国に比べると、日常での外国との接点は多くないでしょうし。そのせいかは分からないけど、例えば日本では、英語をうまく発音しようとすると、ちょっと恥ずかしいみたいな感覚もあるじゃないですか。そういうところは、コミュニケーションに関して出遅れてしまっていると思うんです。こっちでプレーしていて、技術の差や体格の差は簡単には埋められないところがあるかもしれないけど、その分、英語でのコミュニケーションを含め意識で埋められる差はどんどん埋めていかないといけない。そうしないと、時間がもったいないですよ。