2012.10.06

【コラム】長友佑都 再建の礎となれ

ワールドサッカーキング増刊 カルチョ2002 1015号掲載]
チャンピオンズリーグ出場権の奪還―。
これがインテルが掲げる今シーズン最大の目標である。その実現のため長友佑都には自身のさらなるレベルアップや、新戦力との連係構築など、求められるものは少なくない。一時、地元メディアは長友に対して懐疑的な見方を展開したが、実際の長友は“不可欠な存在”として左サイドで躍動し続けている。

「何かを変えなければならない」 すべてがゼロからスタートした

 長友佑都は、今シーズンもインテルのレギュラーとして活躍できるのだろうか?
『CALCIO2002』編集部から届いたこのテーマに対する答えが簡単でないのは、インテルというチームそのものが“再建の年”をスタートさせたばかりだからだ。

 開幕前、長友をレギュラーに推す地元メディアは少なかった。マイコンの退団が決まるまではその復活を信じ、彼を右サイドバックに引き続き据え、ハビエル・サネッティを左サイドバックに回すというのが一般的な予想フォーメーションで、左サイドバックの2番手を長友とイブライマ・エムバイェが争うと主張するメディアもあった。もっとも、これはシーズン前にファンを盛り上げるため、新鮮味のある名前を挙げたかっただけだ。エムバイェは確かに大きな潜在能力を秘めているし、アンドレア・ストラマッチョーニ監督にとっては下部組織時代の教え子でもある。しかしまだ17歳で、インテルのようなタイトルを目指すチームで即戦力と見なすことはできない。また、サネッティにしても、彼の本職は右サイドバックだし、ロベルト・マンチーニ監督時代からもう何年も中盤のバランサーとしてプレーしている。多くのメディアがこういった事情を無視して必要以上に長友を軽視することは、私には少々理解し難いものだった。

 もっとも、ファンの“世論”を作る地元メディアの論調は無視できない。オーナーや監督がそれに影響されることもしばしばあるからだ。では、長友はなぜ過小評価されたのか。理由は簡単。昨シーズンのインテルは極度の不振に苦しんだ。その戦犯の一人というイメージを持たれ、「何かを変えなければならない」という前提があったからだ。ただし、このマイナス評価はインテルの主力全員に下されたもの。例外はインテリスタが無条件に信頼を置くバンディエラのサネッティだけで、他の選手全員が「この選手に今後のインテルを任せられるのだろうか」という懐疑的な目を一度は向けられたのである。だからこそ、ジュリオ・セザルやマイコンのような黄金時代を築いた選手の放出に対しても、ファンは不満を漏らさなかった。

 メルカート終盤、不動の右サイドバックとして黄金時代を支えたマイコンがプレミアに去った後も、長友に対するマイナスイメージは払拭されなかった。現役ウルグアイ代表のアルバロ・ペレイラの加入が発表されると、メディアはこぞってインテルの新しいスタメンを「右サイドバックにサネッティ、左サイドバックにペレイラ」と予想したのだった。

 しかし、長友を控えに回すメディアの予想はことごとく外れた。ヨーロッパリーグの予選とセリエAの開幕から数試合、長友は堂々のレギュラーとしてピッチに立っている。

 そもそも、現在のインテルにとって“レギュラー”という概念は非常に曖昧なものとなっている。ご存知のように今シーズンのインテルはチャンピオンズリーグではなくヨーロッパリーグに参戦している。しかも予選3回戦からの出場で、2013年の5月16日、アムステルダム・アレーナで行われる決勝まで勝ち進むとすれば、既に消化した4試合を含めて18試合の長丁場となる。そして、チャンピオンズリーグよりもヨーロッパリーグは“辺鄙な場所”への遠征が多い。実際、グループリーグではルビン・カザン(ロシア)、パルチザン(セルビア)、ネフチ・バクー(アゼルバイジャン)と同組。遠征は決して楽なものではない。セリエAとコッパイタリアを含む3つの大会をこなすと、年間の公式戦が60を超える可能性もある。こうなると“レギュラー”という概念は通用しない。常に選手の疲労や調子を考慮してターンオーバーをしていくしかないのだ。

 しかも、インテルはレギュラーの半数が入れ替わる大改革を行ったばかりで、まだチームの基本構成さえ固まってはいない。基本システムは4-3-1-2。ディエゴ・ミリートを最前線に置き、やや下がり目のパートナーにはアントニオ・カッサーノ。そしてトップ下にウェスレイ・スネイデルがいる。この“攻撃トリオ”は固まっているが、3人のうち誰かを休ませる場合の戦い方は全く見えてこない。3ボランチの選手起用の優先順位となるともっと複雑だ。ここまではペレイラ、ワルテル・ガルガーノ、フレディ・グアリンがファーストチョイスのようだが、おそらく、ストラマッチョーニ監督自身もまだ明確な考えを持っておらず、テストを重ねながら形を見いだそうとしているのだろう。

 ここにはストラマッチョーニという監督の性格も表れている。ローマとインテルの下部組織を率いて結果を出したが、いわゆる“大人のサッカー”での経験は昨シーズン終盤の数カ月のみ。彼はユース年代の指導者として積み重ねた経験を生かそうとしているように思える。つまり、システムや戦術で選手を縛るのではなく、それぞれの選手の個性や特長を引き出す“個人主義”のサッカーだ。いつも一緒にやっているメンバーよりも、個々の選手の調子の良さを重視し、臨機応変な選手起用をする。開幕から1カ月間の起用法を見ていると、新加入選手に対しては特にその傾向が強い。そしてサネッティのような“古株”が彼らのフォローに回る。長友もすでに“古株”の側に分類されている。

 常識的に考えて、チーム随一のスタミナを誇り、複数のポジションでの使い勝手が良い長友が軽視されるとは到底考えられない。“不動のレギュラー”というものが今のインテルに存在するのかどうかは別にして、ストラマッチョーニ監督にとって長友が非常に重要な駒であることは間違いない。