2012.10.05

【クラシコ直前コラム】ドリームチームの新たな担い手に抜擢された新監督ビラノバの人物像とその可能性

 

伝統の一戦“クラシコ”

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ワールドサッカーキング 1018号掲載]
カリスマ的な指導力を発揮したジョゼップ・グアルディオラが去った後バルセロナはどのようなスタイルで新たな黄金期を築くのだろうか。大抜てきを受けたティト・ビラノバの人物像と可能性に迫る。
ティト・ビラノバ
文=グラハム・ハンター

 バルセロナは4年前と同じ状況に立っている。2008年にフランク・ライカールトが監督の座から退いた時、チームがサイクルの末期に差し掛かり、下り坂にあったのは事実だ。

 4年前も現在も、力を取り戻したレアル・マドリーにリーガのタイトルを奪われ、チャンピオンズリーグではプレミアリーグのクラブに敗れた。

 新たなサイクルを築くためのベースとして、下部組織出身の優秀な選手を擁していることも共通している。ジョゼップ・グアルディオラはバルサBからまだ無名だった選手(セルヒオ・ブスケやペドロ・ロドリゲス)をトップチームに引き上げた。そしてジェラール・ピケを呼び戻し、ダニエウ・アウヴェスと獲得し、リオネル・メッシをチームの中心にすべく鍛え上げた。

 現在のバルサにグアルディオラはいないが、後任にはその右腕だったティト・ビラノバが抜てきされている。この43歳の新指揮官を語る上で大切なのは、彼は常勝チームを引き継いだわけでなく、新たなサイクルを築かなければならないということだ。

まず立ち向かうのは前任者との比較や懐疑論

 背が高く、エジミウソンやパトリック・ヴィエラを連想させるような体格を持つビラノバは、1980年代のバルサBで現在のチャビの役割を担っていた。細身であったにもかかわらず、グアルディオラとサッカー哲学について討論をしている間に食堂の料理をぺろりと平らげてしまう。そんな彼についたあだ名は“大食漢”であった。

 性格は控えめ。現役当時は毎日のように両親から「自分が特別だと思うな。ただのサッカー少年でしかないんだ」と言われたそうだ。そのためか、バルサの監督になった今でも、彼は「自分にできることは、食べて寝て、サッカーとともに生きることだけだ」と語っている。ただ彼にとって「サッカーとともに生きる」とは、鋭い目で試合を観察し、選手たちのプレーを向上させるための分析を重ねることだ。

 監督になったビラノバは、バルサ流の4-3-3システムの中でいかに選手たちの実力を引き出すかを考え続けている。ただ、その点で迷いはない。「成功は人事を尽くすからこそやって来るものだ。成功と失敗、それは勝つか負けるかの微妙な違いでしかない。一日が終わると、どちらに転んでもおかしくなかったと常々思うものだ」

 これまでのように研究と分析を重ね、そこで得た成果をピッチ上で生かすことができれば成功できる。バルサの監督となった今、彼はそう信じて疑わない。

 グアルディオラの下でチャンピオンズリーグを制したメンバーが健在であり、どの監督もうらやむほど充実した選手層を擁している。だが、ビラノバの任務はそう簡単ではない。

 昨シーズンのバルサを失敗だったと評価される要因は、単にリーグタイトル獲得もチャンピオンズリーグ制覇もできなかったことにある。グアルディオラが退任を決断したのは、成功が重なりすぎたからだ。バルサは他のクラブとは全く異なる基準で見られるようになってしまった。タイトルを獲得できなければ失敗と見なされる……端的に言えば、このプレッシャーにグアルディオラは耐えられなかったのだ。それは恐らく選手たちにも言えることである。「100点満点以外は落第と見なされてしまう」ことに疲弊しない者はいない。ビラノバの最初の任務は、そんな選手たちに新たな刺激を与え、体力面、精神面ともにプレッシャーに立ち向かうだけの力を取り戻させることだ。

 もっとも、グアルディオラの黄金期に立ち会っていた彼自身もプレッシャーと戦わなければいけない。メディアからの懐疑論や前任者との比較に慣れることが必要なのだ。

 もう一つの問題として、ライバルが強大であることも挙げられる。リーガであれチャンピオンズリーグであれ、バルサがタイトルを獲得するにはR・マドリーを倒さなければならない。

 ジョゼ・モウリーニョ率いるR・マドリーを打ち倒すには何が必要か。まずはバルサが昨シーズンの失敗から立ち直り、実力を100パーセント発揮できるだけのコンディションを取り戻すことだろう。昨シーズンのバルサは心身ともに万全とは言い難い状況にあった。メッシはシーズンを通して絶好調をキープし、様々な記録を塗り替えたが、全員が彼のように好調だったわけではない。

 ビラノバは「ケガも選手たちに責任を持たせる良い機会だ」と言う。これはつまり、ケガのリスク管理も選手の責任であるという指摘だ。昨シーズンに故障で苦しんだダビド・ビージャ、ピケ、チャビ、ペドロ、セスク・ファブレガス、アレクシス・サンチェスにとっては厳しい意見であるに違いない。

 例えばピケはケガにより休養を取った。5月に復帰したが、その時はベンチ要員からの再出発を強いられている。彼はプレーすることへの喜びや充足感を失い、引退さえも考えたそうだ。「僕にとっては辛い時期だったけど、すごくたくさんのことを学んだ時期でもあった。勝っているうちは自分がいかに幸福であるかに気づかないものだ。そのことが実感できたし、その時期を乗り越えられたからこそ、これまでよりもっとサッカーを楽しめるようになった」

 ファブレガスも苦悩した一人だ。加入1年目の昨シーズン、立ち上がりこそ得点もアシストも上々の数字だったが、後半戦に入ると深刻なゴール欠乏症に陥った。「序盤戦は僕本来のプレースタイルよりも得点力が評価された。そのうち、ゴールを決められないと批判されるようになると、僕は自分が何をすればいいのか分からなくなり自信を失ってしまった。昨シーズンに2歩後退してしまったから、今シーズンは歩前進したい」

 ピケやファブレガスは自分で立ち直るきっかけをつかんだのかもしれないが、全員がそうだとは限らない。ビラノバはリーダーとして全員に手を差し伸べる必要がある。

世界中どこを探したって彼以上の適任はいない

 バルサ再生の中心選手となるべきはやはりメッシである。メッシはユース時代からビラノバの世話になっている。02年から03年にかけて、ビラノバはカデテ(15歳~16歳のチーム)の指揮を執り、まだ幼かったメッシの才能を見いだして2つのタイトルを獲得した。ちなみに当時の主力メンバーがメッシ、ファブレガス、ピケである。

 08年にメッシをFWとして起用するようグアルディオラに助言したのもビラノバだった。このことについて彼はこう振り返る。「人々が初めてメッシを見た時は、こんな小さいやつにサッカーができるものか、と鼻で笑っていた。センターフォワードとして起用した時も、小柄なことを理由に通用しないと決めつけられたものだ。だが、メッシは非常に優れたテクニックを持ち、天才的なゴール嗅覚も備えている。何かを教えればすぐにそれを吸収し、自分の物にしてしまう。私は彼のことを13歳の頃から知っているんだ」

“教え子”の一人であるファブレガスはビラノバについてこう語る。「ティトは選手の力を最大限に生かすにはどうすればいいかを常に考えている。きっと世界中どこを探したって彼以上の適任者はいない。僕はクラブが彼を監督にした選択は大正解だったと思っている。ティトがいる限り、バルサの未来は明るいよ」

 最後に、チームを去るにあたって後任にビラノバを推薦したグアルディオラの言葉を紹介しよう。「ティトはバルサが14のタイトルを獲得するに当たって大きな貢献を果たした人物だ。彼なしでは、我々はどのトロフィーも獲得することはできなかっただろう。確かに今回、彼が担う課題は難しい。しかし、彼にはそれを乗り越えるだけの力がある。私が思うに、バルサは彼という優秀な人材を得ることができて非常に幸運だった」

 果たして、ビラノバにはクラブを統べるだけの力があるのか。答えはそう遠くない未来に明示されるはずだ。