2012.08.18

リーガ・エスパニョーラ展望、ペップがバルセロナから去った以後の世界

ワールドサッカーキング0906号(No.229号/8月16日発売)』掲載

[写真]=ムツ・カワモリ

 

 昨シーズンのリーガ・エスパニョーラは、美しいゴールは当然として、口論や殴り合い、場外乱闘までもが次々と飛び出す奇想天外な1年だった。そして、絶対王者と見られていたバルセロナが、宿敵レアル・マドリーにタイトルを明け渡すという予想外の結末を迎えた。

 

 この夏の移籍市場において、スペインの2強は世界的なビッグネームの獲得を控えている。それでも、変化の振れ幅は例年以上に大きい。バルサに黄金期を築き上げたジョゼップ・グアルディオラが退任したからである。バルサはリオネル・メッシを筆頭に、ワールドクラスの選手を多数擁しているが、その強さを支えていたのはペップ(グアルディオラの愛称)のサッカー哲学と戦術、マネージメント能力だった。彼はカンプ・ノウで監督を務めていた4年間、申し分のない内容と結果をもたらしていたが、その仕事が多大な精神的重圧を伴うものであることは容易に想像できる。「私は休養を必要としている」という彼の言葉には何の偽りもなかったのだろう。

ビラノバの仕事は《対モウ》ではない

 卑怯な悪者、ジョゼ・モウリーニョに唯一立ち向かうことのできた英雄がリーガから姿を消す──。この出来事はバルセロナの人々に虚脱感を与えたに違いない。勝利を当然のものと感じていた人々にとって、モウリーニョにリーガのタイトルを奪われたことは大きなショックだが、ペップ退任はそれ以上のものだろう。

 

 モウリーニョとマドリーの力は年々強大になっている。グアルディオラの力を持ってしても、それを抑え込むのは容易ではなかった。ペップの右腕として常勝チームを築くことに貢献したティト・ビラノバは、バルサを率いるに適した監督だろう。だが、モウリーニョと対峙し、互角に渡り合うだけのパーソナリティーはあるのだろうか?

 

 もともと政治的な思惑もあって常に火花を散らせていたバルサとマドリーのライバル意識は、両クラブが同時にヨーロッパ最大の力を持つに至ったこの数年で、過去に例がないほど過熱している。そのため、今回の監督人事に対するバルセロニスタ(バルサのファン)の大多数の意見はこうだ。「バルサの新監督がモウリーニョに目つぶしを食らわされた人物だなんて、素晴らしいニュースだ!」

 

 だが、これは新シーズンも口論と衝突には事欠かないと決まったことに単純に興奮しているだけだ。昨夏のスーペルコパで乱闘が起きた際、モウリーニョはビラノバに目つぶしを食らわせている。試合後の記者会見でこのことを聞かれると、「ピト・ビラノバなど知らない」と返答した。《ピト》とはスペイン語で「男性器」を意味するスラングである──。

 

 そう、彼らは人々の期待を裏切ることなく、両チームの不仲の象徴としての役割を立派位に演じるに違いない。もっとも、ペップの後任監督として本当にやるべき仕事は他にある。その点を置き去りにしてライバル意識を煽ることに終始する姿勢は、スペインメディアの大きな謎だ。

 

 それはメディアだけでない。昨シーズンのコパ・デル・レイ決勝は、スペイン代表がユーロ2012開幕に向けて行った直前合宿が始まった後に設定された。こんな馬鹿げた日程が組まれる国は他にない。だが、スペインサッカー連盟は、日程への気配りは忘れていても、マドリーとバルサの対抗心を煽るためのベストな方法については理解している。モウリーニョ、ビラノバの両者とも、先述した乱闘騒ぎによりベンチ入り停止処分を受け、スーペルコパをスタンドから見守る予定だったが、連盟はこの処分を撤回し、2人にベンチで指揮を執らせる《計らい》を見せた。

バルサの不安はクラブ体制のもろさ

 新シーズンもリーガはマドリーとバルサの2強を軸に展開される。チームのスタイルは異なれど、戦力は互角。だが、勝負を分けるポイントはいくつかある。その最大のものがチームの安定感だ。38試合、9カ月間の長丁場の中で、好不調の波があるのは仕方ないこと。調子の良い時に勝つのは当然として、万全ではない中でいかに勝ち点3を取り続けるかがポイントとなる。

 

 そこで両チームを比較すると、体制の盤石ぶりという点でマドリーに分がある。モウリーニョはクラブ内で非常に強い権力を持っており、今や選手もファンも彼の言うことには決して疑いを持たないというほどの心酔ぶりである。クラブはマンチェスター・シティーやチェルシーに彼を奪われることを恐れ、2016年までの新契約を提示した。モウリーニョの権力はフロレンティーノ・ペレスをも上回る。モウリーニョは、もし自分が退団を決意してもペレス会長に後任の当てがないことを承知しており、この状況を利用して自身の影響力を更に高めようとしている。権力の集中は時として危険だが、モウリーニョを頂点として完璧な指揮系統が機能しているマドリーの現状は、極めて安定している。それと比較すると、バルサは脆さを抱えている。

 

 ビラノバはペップも認める後継者であるが、この監督人事は決してグアルディオラ主導で決まったものではない。この決定を下したサンドロ・ロセイは、地位を守るには会長選挙で勝たなければならない立場にある。彼にとって、人々の動揺は好ましくない。ビラノバが思うような成績を残せない場合、監督交代の決断は人々が思うよりも速やかに行われるだろう。

 

 ビラノバとしては、早い段階で自身の手腕を周囲に認めさせる必要がある。その課題をクリアして初めて、モウ・マドリーと向き合うことができると言っても過言ではないのだ。スーペルコパの2試合はビラノバにとって非常に重要である。モウリーニョとの因縁などに気を取られる余裕はない。

ライバル意識の象徴メッシとロナウド

 モウリーニョとビラノバ以外に、クリスチアーノ・ロナウドとリオネル・メッシのライバル関係にも注目だ。異なったプレースタイルを披露する、互いに実力を認め合う2人。サッカー史上に残るトッププレーヤーによるライバル関係、エースとしての意識の激突は見ものである。

 

 C・ロナウドは昨シーズン、46ゴールを挙げてチームのリーガ制覇に貢献しながら、個人成績ではリーガで50ゴール、公式戦総計で83ゴールというとてつもない数字を残したメッシの後塵を拝した。日頃は「個人的なライバル意識は全くない」とポーカーフェイスを装おうとするC・ロナウドだが、ユーロ2012の試合中に相手サポーターからメッシ・コールを浴びせられるという屈辱を受け、試合後に次のような言葉で不満を爆発させた。「メッシは去年の夏、自国開催のコパ・アメリカで負けたじゃないか!」

 

 この点、マスコミの前に立つことを極力避けるスタイルを貫いているメッシのほうが賢いのかもしれない。彼はいつもの笑みを絶やさず、平常心を保ってプレーし続けるはずだ。しかし、世間がこれだけ注目する2人のライバル関係に、メッシが何とも思っていないとは考えづらい。ゴール記録をどれだけ打ち立てても、タイトルを奪われたのは事実であり、メッシにリベンジの意識がないはずはない。

 

 ここで考えたいのは、なぜメッシがサッカー史に残るゴール記録を次々と打ち立てたにもかかわらず、タイトルを失ってしまったのかということだ。一つの理由は、メッシがチームメートに頼ることなくプレーしていたからだろう。メッシは個人の記録のほぼすべてを塗り替えたが、バルサの総得点はマドリーの121を下回る114得点だった。C・ロナウドは得点王にはなれなかったが、カリム・ベンゼマ、ゴンサロ・イグアインとともにバランス良く得点を積み重ね、タイトル獲得を引き寄せたのである。

 

 メッシもC・ロナウドも、「自分にゴールがなくても、チームが勝てばいい」と言うが、より実践できていたのはC・ロナウドだったということだ。イグアインとベンゼマはC・ロナウドの46得点に次いで22得点、21得点を挙げている。ところがバルサの2番手は12得点(アレクシス・サンチェス)。ダビド・ビージャが復帰すればこの状況は改善されるだろうが、そうなってもメッシは仲間と馴れ合おうとせず、自分の体の限界まで自分主体のプレーを繰り広げるだろう。一方、C・ロナウドはマドリーの32回目の優勝に向け、どうすればチームと自分にとって最も大きな壁であるメッシを破ることができるのかを研究し続けている。

《2強以外》の王者バレンシアの憂鬱

 現在のサッカー界における《頂上決戦》とも言うべきクラシコに注目が集まるのは理解できる。だが、それはリーガのタイトルの行方に大きな影響をもたらすわけではない。見る者にとっては直接対決こそが「強いのはどっちだ?」という興味を最もストレートに満たしてくれるため盛り上がるが、リーガのタイトルは獲得可能な114ポイントのうちどれだけを確保できるかの争いである。つまり9カ月を通してより堅実な戦いを見せた側がタイトルを獲得するであろうということだ。

 

 そして、ここで重要なのは、そのためには「高貴な戦い」を演じる必要はないということ。一昨シーズンまで、マドリーはクラシコでなかなか勝てなかった。だが、実際にタイトルの行方を左右したのは直接対決の結果ではなく、アウェーゲームでの勝敗だった。

 

 昨シーズンはそれが入れ替わった。バルサはレアル・ソシエダに引き分け、ヘタフェに敗れるなど、アウェーで18ものポイントを落とした。これに対してマドリーがアウェーで落としたのは8ポイントのみ。ホームゲームと同等の実力を発揮し、アウェーゲームでの史上最多記録を樹立して、タイトルをサンティアゴ・ベルナベウに持ち帰ったのである。

 

 では、この2強に対抗できるチームはあるか、という議論になるが、その答えはノーである。昨シーズンはバレンシアが《残り18チーム》のトップに立ったが、マドリーとは39、バルサとは30ものポイント差があった。18位で降格したビジャレアルとバレンシアの差は《わずか》20ポイントしかなかったというのに、である。

 

 バレンシアを率いていたウナイ・エメリは3年間の成功や、選手やサポーターとの信頼があったにもかかわらず辞任を決めた。2強とその他チームの境界を演じることに疲れを感じるのは当然だろう。後任はバレンシアOBのマウリシオ・ペジェグリーノ。彼にしても2強の牙城を崩そうという野望は持っていない。

勝ち点20にひしめく18チームの争い

 他のチームについても分析してみよう。マラガは大富豪をオーナーに迎えて将来は明るいと見えたが、今の天候は曇りどころか雷雨である。昨シーズンの成績にしても、4位に食い込めたのはチームの実力というより、アトレティコ・マドリーやセビージャが自滅した結果だ。38試合で14敗も喫したチームが4位とは、なかなか考えづらい状況である。ちなみに降格したビジャレアルが喫した敗戦は13だった。

 

 このことからも分かる通り、2強を除くリーガの勢力図は混沌としている。2部で3位に食い込むのがやっとだったバジャドリーが宝くじに当たったような昇格を引き当てて、今からどんなひどい目に遭うのかは想像が付く。しかし、サラゴサやヘタフェ、グラナダあたりは、残留を目標として開幕を迎えるが、何かの弾みで上位に食い込まないとも限らない。残留争いは戦力よりも勢いと運で決まる感がある。

 

 それではヨーロッパカップ戦の出場権争いは? これはシーズンを通してモチベーションと集中力を維持し、一貫したプレースタイルで戦うという条件を満たした全チームに可能性がある。華やかさには欠けるが、それはそれで先の展開が全く読めない面白さがあると言えるのかもしれない。

 

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