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川崎FW小林悠、初めての選手権は「悔しさで涙は出てくるわ、雪で寒すぎるわ(笑)」

2015.12.15

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インタビュー=高尾太恵子 写真=岩本良介

 初めて立った夢の大舞台は吹雪と涙で何も見えなかった。2度目はPK戦で敗れた瞬間にピッチでうずくまった。川崎フロンターレのFW小林悠が在籍した麻布大附属渕野辺高(現麻布大附属高)は、神奈川県代表として2004年から2年連続して全国高校サッカー選手権行きの切符を手にした。しかし、全国での勝利は遠かった。小林からは今でも当時の悔しさが消えることはない。それでも彼は一度も勝利を味わうことができなかった晴れ舞台を「楽しかった」と笑顔で振り返る。全国の高校生が夢見てやまない高校選手権のピッチを今、彼はどのように受け止めているのだろうか。

悔しくて涙が止まりませんでした

――2004年に神奈川県予選で初優勝を果たし、麻布大附属渕野辺高として史上初の選手権出場を決めました。当時の記憶はいかがですか?
小林 本当にただただうれしかったですね。すごく盛りあがったことを憶えています。

――1回戦で玉野光南高(岡山)と対戦しました。初の大舞台は吹雪でしたね。
小林 真っ白で何も見えなかったです(笑)。今思うと、せっかく勝ちあがったのにかわいそうですよね。できれば晴れた中で、ちゃんとしたグラウンドでやりたかったです。

――雪も選手権ならではの風物詩です。
小林 そうなんですよね。観戦している人にとって雪の試合は印象に残るんですけど、負けた方は結構つらいですよ。負けた悔しさで涙は出てくるわ、寒すぎるわで(笑)。

――この試合は0-2で敗れました。自分のプレーは出せましたか?
小林 僕たちはつなぐサッカーをしていました。言い訳になるかもしれませんが、雪でボールをつなげる状況ではなかった……。悔しいですね。その当時、僕のポジションはサイドハーフで、途中出場から流れを変える役割だったんですけど、出番が回ってきた時にはすでにピッチが真っ白。吹雪で逆サイドが見えない状況で何もできませんでした。力不足を感じて、試合後にめちゃくちゃ泣きましたよ。これでお世話になった先輩たちとサッカーができなくなると思うと、さらに悔しくて涙が止まりませんでした。

――その悔しさをバネに、2年連続出場を果たしました。
小林 正直、2年生の時は神奈川県予選を運良く勝ちあがった印象がありました。でも、3年生の時は良いメンバーがそろっていて、全員が「絶対にもう一度行こう」という強い気持ちを持って戦ってきました。

――高松商業高(香川)との初戦はPK戦の末に敗れました。当時の心境を教えてください。
小林 やっぱり悔しかったですね。僕は3番目か4番目にPKを蹴りましたけど、外したら引退かと思うとすごく緊張しました。実はPKを蹴る人が決まっていなくて、蹴りたい人が蹴ったんですけど、最後に止められたのが2年生で唯一出場していた後輩でした。PK戦はサドンデスまでもつれて5-6で負けたんですが、後輩がとても責任を感じていたんですよね。ホントならすぐにでも声をかけるべきだったんですけど、試合終了直後は悔しすぎてうずくまって涙を流していたんで、それどころではなくて(苦笑)。もちろんあとで声はかけましたけど、何だか悪いことをしてしまったなと思っています。

負けても勝っても、その経験が自分の宝物になる

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――同級生には太田宏介選手(FC東京)や小野寺達也選手(栃木SC)がいます。当時の印象に残っている思い出はありますか?
小林 面白いエピソードがありすぎて……宏介は本当に悪ガキだったので、言えないことの方が多いかもしれません。達也と僕はいい子だったんですけど(笑)。そういえば、選手権出場が懸かっている県予選の決勝前日に「勝ったら踊ろう」って話になって、『渕野辺ダンス』と名付けてみんなで練習しました。絶対に勝つと思っていたし、負けることなんて考えていませんでした。そういう時は自然とチームの雰囲気も良くなりますからね。実際、優勝した後にみんなで踊りましたよ。あと、選手権でも初戦前にふざけたことをしていました。高松商業高に勝てば、野洲高(同大会優勝校)と当たることになっていたので、勝ちあがるために石井(孝良)監督から「高松商の映像をしっかり見ろ」と言われていたんです。ただ、相手チームを見ていても面白くなくて、自分たちのいいプレーを見ようってことになって。対戦相手のプレーを見ずに、自分たちのプレーを「ウマっ!」と言いながら見ていたのを憶えています。しょうもないというか、高校生らしいというか。結局、見ている最中に監督が戻ってきたので、あわてて映像を変えましたけどね(笑)。

――やはり石井監督は“怖い存在”でしたか?
小林 怖かったですね。ただ、たくさん怒られもしましたけど、選手権で負けた時は優しかった。2年生の時に「来年、絶対にまた戻ってこよう」と声をかけてくれたのを憶えています。その言葉があったから1年間がんばれました。

――今でもOBとして母校の応援に足を運んでいるそうですが、現役の高校生から刺激を受けることはありますか
小林 試合を見ていると、やっぱり「青春だなー」って思いますよ。今年の県予選で敗れた時に選手たちが泣いている姿を見て、こっちまでうるっとしました。当時のいろいろな感情がよみがえってきて、僕もがんばらなければと心に誓いましたね。

――小林選手にとって選手権はどういう大会なのでしょうか?
小林 仲間と戦う最高の舞台です。ずっと目標にしてきた大会ですし、懸ける想いが全然違う。本当に楽しかったですね。練習をがんばってきても、出られない選手がほとんど。そういう選手たちの思いも背負って出る素晴らしい大会なので、そのピッチに立てたことは一生の宝物です。

――最後に、選手権に出場する選手たちへメッセージをお願いします。
小林 どんなに一生懸命プレーしても、優勝チーム以外は悔いが残る大会になってしまうと思います。だからこそ、一瞬一瞬のプレーに自分の持っている力のすべてを出してほしい。負けても勝っても、その経験が自分の宝物になるはずなので、楽しみながら一分一秒を全力でファイトしてください。

By 高尾太恵子

サッカーキング編集部

元サッカーキング編集部。FIFAワールドカップロシア2018を現地取材。九州出身。

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