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ナイキアカデミーへの参加権を手にした渡邊凌磨「世界のいい部分を、日本に還元していく選手になる」

2015.07.01

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インタビュー=安田勇斗 写真=兼子愼一郎

 イングランドのセント・ジョージズ・パークで5月に行われた「NIKE MOST WANTED」グローバルファイナルを勝ち抜き、日本人として初めてナイキアカデミーへの参加資格を獲得した渡邊凌磨。前橋育英高校での活躍も記憶に新しいスター候補生は、世界を舞台に自分の実力を証明した。それから1カ月、渡邊は海外で挑戦する決意を固めた。

イングランドでは受かるという確信に近い自信があった

――まずは改めて「NIKE MOST WANTED」にチャレンジしたきっかけを教えてください。
渡邊 世代別の日本代表には入っていましたが、そういった肩書きなどがない中、自分の実力だけで勝負できるかを試してみたかったんです。それで自ら参加を決めました。

――「肩書き」を気にしていた?
渡邊 はい。代表っていう先入観を持って見たら、誰でもうまく見えると思うんです。なので、そういう名前なしで、日本の同世代の選手たちに自分がどれだけ通用するのか、自分の本当の力を試してみたかった。その意味で「NIKE MOST WANTED」はいい機会だったのでチャレンジしました。

――周囲から「代表でプレーしている選手」という目で見られることを感じていたんですね。

渡邊 試合会場ではやっぱりそういう目で見られているのを感じましたね。そういうのが本当に嫌でした。「NIKE MOST WANTED」では、「今日良かった選手が選ばれる」と最初に伝えられたので、本当にいい経験になったと思っています。

――Jリーグ入りも期待された中で最終的には声が掛からなかったという悔しさもあったのでしょうか?
渡邊 そうですね。山田(耕介)監督からも大学進学を勧められましたが、正直なところ、最初はプロに行けなかったことを受け入れられない部分もありました。結果的には早稲田大学への進学を選びましたし、それもあって日本高校選抜に入れたので良かったと思います。選抜の試合をしている時点では進学を決めていましたが、一方では海外に挑戦するチャンスを得るために、どうしたらスカウト陣の目に留まるかを考えてもいました。今は、大学に進学したからこそ今回のチャンスをもらえたと思うので、そこは前向きに捉えています。

――「NIKE MOST WANTED」ジャパンファイナルでは自分の思うようなプレーができたという実感はあったのでしょうか?
渡邊 最初は周囲のレベルが予想以上に高くて思っていたのとは違うなと感じました。ただ、自分の特長などを周りの選手に表現できたからこそ、“日本代表”に選ばれたのかなと思っています。

――「思っていたのとは違う」とはどんな部分でしょうか?
渡邊 参加する前はそこまで「セレクション」っぽくないだろうと思っていました。でも実際は全然違って、参加者の意識がものすごく高かった。だからこそ自分の緊張感も増して「もっと本気で挑まないと」という気持ちになれました。

――プレーしてみて手応えはありましたか?
渡邊 いや、終わった時は全然なかったですね(苦笑)。イングランドのグローバルファイナルでプレーした時は逆に確信に近い自信はあったんですけど、ジャパンファイナルの時は正直、受かるとは思っていませんでした。

――「受かるとは思わなかった」のに受かり、海外では受かる自信があったというのは、海外挑戦までに大きな心境の変化があったのでしょうか?
渡邊 やっぱり日本の代表として行くので、大きな重圧も感じていましたし、絶対に受からないとダメだと思っていたんです。その気持ちが大きかったのかなと。グローバルファイナルでは、コミュニケーションが取れない難しさなど、この先海外のチームで外国籍選手と一緒にプレーしていくために必要なことを感じられたのでいい経験になりました。

海外の選手はそこまでうまくはない

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――海外でプレーするという意識はどれくらいから持っていたのでしょうか?
渡邊 高校に入ってから、U-17ワールドカップ(FIFA U-17ワールドカップUAE2013)を経験した時には海外でやりたいという思いを強く持っていて、その頃から具体的に考え始めるようになりました。U-17W杯以外にも海外の選手と戦う機会はありましたが、この大会を通じて海外でプレーする楽しさや、日本にはない海外の選手の力強さを感じて、また新しいサッカーの文化を採り入れたいと思ったので、そこで強く「行きたい!」と思いました。

――「新しいサッカーの文化」というのは、U-17W杯で何か大きな違いや特長などを感じたんですか?
渡邊 正直、海外の選手はそこまでうまくはないんです。でも一発で確実に点を取ってきたりするのを見て、「サッカーはうまければいいスポーツではなくて、点を取らないといけないスポーツ」であって、その中に個人の技術があることを痛感しました。それに、「技術」の中にもいろいろあって、「ボールを扱う技術」だけがすべてではないんですよね。日本高校選抜でデュッセルドルフ国際ユースサッカー大会に行きましたが、そういうサッカーの本質の部分を一番大事にしているのがドイツやイングランドで、それが突出しているから世界でも戦えるんだと自分では考えています。そういうところを日本に還元できるような選手になりたいですね。

――「海外の選手はそこまでうまくない」と言われましたが、例えば足元の技術は日本の選手の方が上だと感じたのですか?
渡邊 そうですね。単純に足元の技術だけであれば日本人の方がレベルは高いと思います。それはイングランドでも感じました。

――イングランドでは他にどんなことを感じましたか?
渡邊 海外での戦いを経験しているのは大きなアドバンテージになっていたなと感じました。自分の経験が活きたからこそ受かったと思います。正直、海外の選手はフィジカルが強くて球際で勝負したら勝てないし、相手に寄りすぎて吹っ飛ばされたりもしました。海外のどの国の選手でもそうというわけではなかったですんが、それは頭に入れて考えながらプレーしました。

――合格が発表された瞬間はどういう心境だったのでしょうか?
渡邊 実は「受かるな」と感じたのは最終日の3日目のゲームの時だったんです。そこで、自分の中では8割くらいはいけるんじゃないかなって。でも1日目、2日目は、コミュニケーションが取れなかったり、コーチの言っていることが何もわからなかったりして厳しいなと感じていました。だからこそ、一番最初にホッとした気持ちがありました。合格した時というよりも、ゲームで力を出せてホッとしましたね。

――合格を確信した瞬間もそうですが、一番アピールできたところ、力を発揮できた部分はどんなところでしょうか?
渡邊 自分の中では日本人選手よりも海外の選手を相手にする方がやりやすいんです。海外の選手は一対一の間合いが遠いためにプレッシャーがないように感じますし、飛びこんでくる相手もすんなりかわせて、自分が思っていた以上のプレーを出せたんじゃないかなと思います。点を決めることはできませんでしたが、ドリブルや間で受けることなどは比較的できていたという感触がありました。

――日本人だとどういうところがやりづらいんですか?
渡邊 海外の選手は一発で取りに来るんですけど、日本人選手にはそれがない。絶対に抜かれないような守備をするので、かわすのが難しいですね。

――グローバルファイナルから1カ月以上が経って、改めて今はどんな気持ちですか?
渡邊 やっぱり少しは自信になりました。一つの権利を勝ち得たことは今後の自分のサッカー人生にとっても大きなプラスですし、今は早稲田大学でその経験をいい方向に還元できたらいいなと思っています。

――合格してからはどのように過ごされてきたのですか?
渡邊 早稲田で毎日トレーニングしていますが、大きくは変わらないですね。でも日本でできることはとりあえずやっておかなきゃいけないと思ったので、語学の勉強も一生懸命やっています。

――語学は英語がメインですか?
渡邊 英語とドイツ語です。ドイツ語は単語を見て覚える程度ですけど。英語も元々得意ではないんですけど、イングランドに行ってみて感覚的にできない感じではなかったですし、もう少しやれば話せるようになるんじゃないかなと思います。

――昨年のグローバルファイナルに参加した楠本卓海選手(東京国際大学)も、「やりながら言っていることがだんだんわかるようになってきた」と聞いたのですが、そういう感覚ですか?
渡邊 そうですね。耳もだんだん慣れてきて何となく単語が聞き取れるようになりました。最終的にはコーチの指示もわかるようになってきて、ほんの少しですが手応えを感じました。

いいプレーを一つずつ真似すれば自分の理想に近づく

――目標にしている選手はいますか?
渡邊 誰が好きというのはないですが、プレーを参考にするのはバルセロナの(アンドレス)イニエスタ選手ですね。ターンやトラップなどはお手本にしています。

――イニエスタ選手の一番すごいところは?
渡邊 ハイプレッシャーの中で相手とぶつかり合いをしないで前を向いてプレーできるのは誰が見てもすごいと思いますし、状況判断やボールが来る前に何回も首を振って状況確認する部分なども勉強になります。それに足元の技術やドリブル、ボールを蹴る前の動作やマークを外す動きもうまい。ただその中でも一番すごいのは、そういった質の高いプレーを90分通してできるところですね。

――他にも参考にしている選手はいますか?
渡邊 海外だと(マリオ)ゲッツェ選手ですね。わざと狭いスペースへ行ってボールを受けてまたはたいて、次は自分で前を向いてゴールを決めるという、簡単そうで難しいプレーを当たり前のようにやっているんです。ああいうプレーもよく真似しています。

――イニエスタ選手もゲッツェ選手も比較的日本人と体格が近いので参考にしやすいのかもしれないですね。
渡邊 そうですね。あと日本人だと柿谷(曜一朗)選手や(中村)俊輔選手ですね。

――中村俊輔選手は意外ですね。
渡邊 キックフェイントは、すごく参考にしています。俊輔選手はキックがすごいからこそ、みんな分かっていても(打たせないように)取りにいっちゃうと思うんです。だからこそ、キックフェイントがすごく効果的なのかなと。

――いい選手の秀でた武器を参考にしているんですね。
渡邊 一つずつ真似していけば自分の理想の選手になっていけると思うので。柿谷選手は1年ぐらい前にセレッソ大阪の練習会に参加させてもらった時に一緒にプレーできる機会がありました。ボールが吸いついている感じで絶対に相手に取られないし、映像で見るよりも生で見る方がずっとすごいなと感じました。それに繊細なボールタッチも、すごく考えてタッチしている印象を持ったのですごいなって思いました。

――それを自分で真似るにはどういったことが必要なのでしょうか?
渡邊 意識だけでも相当変わると思います。それに、足の角度やボールの運びだしのタイミングとかは何となく分かるんです。誰かのプレーを真似するのは得意なので、そこからいろいろアレンジしていくという感覚ですね。

自分の目標に向かって一番いい道を選んでいく

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――では、サッカー選手として一番のこだわりを教えてください。
渡邊 どんな時も最高の準備をして臨むことはいつも心がけています。自分の体のケアは24時間しっかりやっていますし、これからも心も体もいい準備をして練習でも試合でも変わらずにやっていければいいと思っています。

――「準備」や「ケア」は具体的にはどんなことをしているんですか?

渡邊 まだそんなに知識がないので、代表などで教えてもらうことを採り入れたりしています。例えば食事であれば何を食べるのか、ストレッチや体をほぐすタイミング、試合の前日はあまりお風呂に浸からないとか、そういった細かいことまで意識しています。やればやるほど自分が見えてくるので、この先はトレーナーなどがいなくても自分で全部できるようにしていきたいです。

――食事はどんなことを意識していますか?
渡邊 今の段階では、体脂肪率をそれほど上げないように、油やカロリーなどを気にしながら食べています。

――線は細い方だと思うのですが、海外選手とぶつかり合った際に、もっとサイズを大きくした方がいいと感じたことはありませんでしたか?
渡邊 ぶつかり合いなどでは、もっとやらないとマズいなって感じたことはありませんでしたね。おそらく、体幹トレーニングをずっとやってきたことが大きいと思います。

――そうなんですね。筋肉はあまり付けないんですか?
渡邊 筋トレは必要最低限しかやりません。でも逆に体幹は毎日、練習前やチームの筋トレの日に体幹を入れたりしています。この先に必ず、筋肉が必要だとか、何か気がつくことがあると思うので、そこでまたパワーアップしていければいいのかなと思っています。

――ナイキアカデミーへの参加資格を獲得しましたが、この先の選択など、決意はもう固まっていますか?
渡邊 ナイキアカデミーに限らず、自分にとっては他の国も含めていろんな選択肢があると思うので、自分の目標に向かって一番いい道を選んでいけたらいいなと思いますし、これから決めていこうと思っています。

――まだはっきりとは決まっていない?
渡邊 そうですね。海外挑戦はするつもりですが、その中でどんな道を選ぶかは両親やコーチなどにも相談しながら決めます。大きな選択の前には大きなメリット、デメリットがあると思いますので、自分にとって一番いい決断を探したいと思います。

――では、この先の目標は?
渡邊 世界で活躍するプレーヤーになりたいですし、その過程で日本代表になることはマストです。これからもっともっと努力していきます。

渡邊 凌磨(わたなべ・りょうま)
1996年10月2日生まれ、埼玉県出身。
技術、体力、判断力などすべての面で高い水準の能力を持つ万能型MF。各世代の日本代表経験があり、多くのプロチームがその才能に注目する逸材。1月の全国高校サッカー選手権で前橋育英高の準優勝に貢献し、この春から早稲田大学へと進学。ナイキが主催する若き才能を発掘する世界規模プロジェクトで、日本人として初めてナイキアカデミーへの参加資格を獲得した。

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