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「健全経営」「観客動員」「グローバル化」…隆盛を極めるブンデスリーガのキーマンが明かす成功秘話と新たな挑戦

2015.12.09

すべてのクラブが健全経営を貫き、スタジアムはどんな試合でもほぼ満員。理想的な運営体制を築いているドイツのブンデスリーガは、どのようにしてその成功を手に入れたのだろうか。CEOとしてブンデスリーガを優良コンテンツたらしめたクリスティアン・ザイファート氏が、その成功秘話を語ってくれた。

人々にとって、クラブは大切な存在

――現在、世界中のスポーツのプロリーグの中で、ブンデスリーガの観客動員数は世界トップレベルです。これだけの成功を収めた理由を教えてください。

ザイファート ブンデスリーガを上回るのは、アメリカのNFLだけです。ブンデスリーガの観客動員は1試合平均約4万3000人で、92パーセントの動員率を誇っています。それには、いくつかの理由があります。様々な社会階層の人に来ていただけるよう、チケットの値段設定を考えていますし、親子で一緒に観戦できるようファミリーゾーンも設けています。ドイツでは人口の75パーセントの人々が、ブンデスリーガを重要なものだと考えており、自分の地域のクラブに対して誇りを持っています。地域の人々にとって、クラブはとても大切な存在なのです。

――イングランドやイタリアでは、海外の投資家が参入することでクラブが豊富な資金を得るという風潮がありますが、ドイツではそのようなケースを聞きません。何でも、20年以上クラブを保有していないオーナーは、最高でも49パーセントまでしか保有権を持つことができない、という「50+1ルール」があるそうですね。

ザイファート よくご存知ですね。先ほど申し上げたように、クラブは地域社会やそこに住んでいる方々にとって大切な存在であり、売買できる製品以上のものだと我々は考えています。投資家の参入は歓迎しますが、長期的なコミットメントを行ない、社会を守る意思があり、クラブや市、地域に対して関心を抱いているということを証明しなければなりません。それが「50+1ルール」の概念です。ブンデスリーガを物のように扱ってほしくないのです。お金は非常に重要ですが、お金だけが重要というわけではないのです。

――ブンデスリーガは現在、18クラブ構成ですが、そこにこだわっている理由はありますか?

ザイファート 欧州のトップリーグの中では、ブンデスリーガだけが18クラブ構成です。20クラブで実施している他のリーグに比べ、シーズンあたり74試合、少なくなります。そのおかげでウインターブレイクを設けることができるのです。選手の健康面を考えると最適なスケジュールですし、代表チームにも利益があります。イングランドの上位クラブでプレーする場合、20チームでのリーグ戦に加えてFAカップ、さらにはリーグカップ、そしてチャンピオンズリーグを戦うことになります。選手は非常に疲れ切った状態で代表の試合に臨むことになります。医師や監督も、ウインターブレイクは選手にとって重要なものだと言っていますので、現行の18クラブを変えるつもりはありません。

――ユースカリキュラムについてもお伺いします。1部、2部の36クラブに対して1億2000万ユーロ(約160億円)と、育成に多額の資金を投じていますが、なぜ、それが可能になるのでしょうか。

ザイファート ユースアカデミーはブンデスリーガが発展するために不可欠です。年間1億2000万ユーロというのは、放映権料の4パーセントにすぎません。私は、リーグに若手を育てるお金がないから育成ができない、というアプローチは間違っていると思います。むしろ逆で、お金が十分にない時こそ、若い選手を育てなければなりません。スイスは2009年のU-17ワールドカップで優勝しました。ベルギーはFIFAランキングで現在1位です。いずれも非常に小さな国で資金も少ないですが、若い選手の育成に投資を増やし、優秀な選手を手に入れることに成功しました。

将来、アジアはさらに重要なマーケットになる

――今夏、ドルトムントはアジアツアーを行い、日本とシンガポールで試合を行いました。アジアのマーケットについてはどうお考えですか?

ザイファート サッカーはグローバルなスポーツになりました。世界中の人たちがサッカーに興味を持っています。ですからアジアやアフリカ、ラテンアメリカ、北中米などのマーケットに対し、我々は非常に強い興味を持っています。その中で、アジアとは特に強い関係があります。多くの日本人選手がブンデスリーガでプレーをしているからです。アジアツアーを行ったドルトムントも、チームに対して示されたスピリットや愛情に感銘を受けたようですし、日本に対して非常にいい印象を持って帰ってきました。

――3年前には、シンガポールに事務所を開設したそうですね。

ザイファート アジアのファンについてもっと知りたいと思ったからです。アジアの人々はブンデスリーガの何に興味があり、何を期待しているのか。それらを知ればSNSやWEB、テレビ番組を通じて、アジアの人々が欲しているものをお届けすることができます。将来的には、アジアがさらに重要なマーケットになると確信しています。

グローバル化を進め、社会との結びつきも強化する

――ブンデスリーガが今後、チャレンジすべきことは何でしょうか。

ザイファート 一番の挑戦は、各クラブをグローバルな競争に耐えられる存在にすることです。問題はブンデスリーガのクラブが、これまで国内のマーケットに集中しすぎていたということです。グローバルな観点を持ったクラブが少なく、夏にアジアで試合をしたり、日本語サイトを開設したりといったことをしてきませんでした。そういったグローバルな観点を養う必要があります。衛星放送やYouTube、フェイスブック、ツイッターの普及により、競争はグローバル化しています。ブンデスリーガのクラブがこのことを十分に理解し、世界中でブランド力を高めるために投資し、戦略を立てて行動することが、我々にとって最大の挑戦になります。ドイツ国内におけるメディアの状況を変えることはできません。一晩にして有料テレビの契約者を1000万人にするという奇跡は起こせません。不可能なことです。しかし、世界中のメディアに対する戦略を変えることはできます。これが1つ目の大きな挑戦ですね。

――1つ目の挑戦、ということは、他にもあるのでしょうか。

ザイファート グローバル化を進め、世界中のファンからリスペクトされるリーグになると同時に、社会におけるルーツも忘れないようにしなければなりません。フランクフルトは世界中で知られるクラブになりましたが、フランクフルト市民は今でも「私のクラブだ」と思っています。これも大きな挑戦です。グローバル化を目指しながら、地元や自国との結びつきを強化する。この2つが私たちの大きな挑戦になります。

クリスティアン・ザイファート 1969年5月8日生まれ。
1995年から1998年までメディア・グループ・ミュンヘン(MGM)で生産管理部門の責任者を務めたのち、2000年までMTVネットワークスでマーケティングディレクターとして活躍。その後、、ヨーロッパ最大の小売・通販コンツェルン「カールシュタットクヴェレ」社では会長を務め、スポーツチャンネルのDSFを買収するとともに、FIFA2006ドイツワールドカップの放映権を獲得し、EコマースとTVコマースの分野に進出した。2005年7月にブンデスリーガを運営するドイツ・フットボールリーグ社(DFL)の最高経営責任者、ドイツサッカー連盟(DFB)の副会長に就任。

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