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データが指し示す“最強”…広島を支えたタフネスさと集中力の理由を探る

2015.12.08

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すべての広島の選手が口にする終盤への自信

 今シーズンのサンフレッチェ広島は「34試合制のJリーグで史上初、または史上最高」となる記録の宝庫である。

 例えば年間勝点74は、過去に浦和レッズ、鹿島アントラーズ、名古屋グランパス、柏レイソルが記録した72を上回る史上最多。勝利数23は、名古屋、柏と並んで史上最多タイ。得失点差+43は2006年に浦和が記録した+39を上回り、前人未踏の40点台に突入。平均得点2点台と平均失点0点台を同時に成し遂げる最強バランスを達成したチームもまた、34試合制では史上初。それ以前の歴史を見ても、1993年のヴェルディ川崎と2001年のジュビロ磐田しか例がない。

 過去のV川崎も磐田にしても、メンバーのほとんどは日本代表。だが広島には、佐藤寿人や森崎和幸のような名手の存在はあるものの、現代表は一人もいない。ドウグラスやミキッチという外国籍選手はいるが、かつてのストイコビッチのようなピッチのすべてを支配する選手ではない。なのに、ここまでの実績を発揮できた要因は何か。この謎を探るのは、サッカーだけでなくスポーツを科学する者としては、興味深いテーマであろう。

 ただ、数多くある理由の一つに、広島というチームが持つタフネスがあることは疑いない。

「0-0の時間が長ければ長いほど、僕らが勝つ確率は高くなる」

 森崎和や千葉和彦のような守備の重鎮ばかりでなく、ほぼすべての広島の選手が口にする終盤への自信。

 後半の得失点を見ていくと、38得点(リーグ2位)、18失点(同2位)で、得失点差+20は浦和とともにリーグ1位の数字。さらに肉体的にも精神的にも消耗が激しくなる前後半残り15分の得失点を見ても、31得点(1位)、17失点(7位)、得失点差+14(1位)という記録を残している。先制した試合は19戦で18勝1分け。前半をリードして終えたケースは15戦全勝で、長距離移動の連続で消耗の激しいアウェイ戦でも13勝3分1敗。うち逆転勝ちが5試合と、リードされても慌てないメンタルの強さも見せた。

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タフな状況になればなるほど発揮される強み

 広島がいかにタフに戦い、最後まで集中力を持ってプレーを継続できているかは、この数字が証明している。「タフで厳しいシーズンを乗り越えるために、我々は厳しいキャンプや日々の厳しいトレーニングをやってきました」と森保一監督は言う。

「キャンプでは中1日で練習試合を3連戦というハードなメニューをこなしてきました。選手たちには『夏場以降に必ず他のチームと差が出てくる』と言ってきましたし、その言葉の正しさを選手たちは結果を以て具現化してくれました。フィジカル的にもメンタル的にも、タフな状況になればなるほど、我々は強みを発揮できると信じています」

 その象徴的な事例が、まさに消耗戦となる夏場での戦いである。

「酷暑を制するチームはJリーグを制す」

 これは、世界でも希に見る高温多湿の環境で行われるJリーグにおいて、優勝への方程式と言っていい。

 例えば2015シーズンの明治安田生命J1リーグで年間1位の勝ち点を獲得した広島が7月から9月という真夏の3カ月で残した戦績は9勝1分け2敗。28もの勝ち点は、もちろんリーグナンバーワンだ。

 2位は2ndステージ準優勝と躍進した鹿島の25ポイントで、年間2位の浦和が23ポイント、年間3位のガンバ大阪が22ポイントと続く。最終節でG大阪の逆転を許し、得失点差で年間4位となったFC東京は21ポイント。実はこの3カ月間におけるFC東京とG大阪の勝利数は6勝ずつで、引き分け1つの差しかない。つまり、FC東京はこの期間にマークした3つの引き分けを1試合でも勝利するか、1点差負けとなった2試合で1試合でも引き分けに持ち込んでいれば、G大阪を上回ってチャンピオンシップ出場を果たしていた。いずれにしても、年間順位のベスト5と真夏のベスト5のクラブは一致している。また、一方でJ2降格を余儀なくされた松本山雅FC、清水エスパルス、モンテディオ山形は真夏のワースト3。前掲の方程式の正しさは、今シーズンも証明されたと言えるだろう。

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酷暑の浦和戦で見せた信じがたいスプリント

 その「真夏の王者」広島が酷暑での強さを誇示した象徴的な例が、7月19日に埼玉スタジアムで行われた浦和戦だ。ここまでリーグ戦19試合無敗を記録し、圧倒的な強さで1stステージ優勝を決めた浦和に、広島は前半から一方的に押し込まれた。気温29.1度、湿度80パーセントという過酷な気象条件は、広島から遠征してきた選手たちを消耗させるに十分。「今シーズン、最もダメだった前半。走れてもいないし、戦えてもいなかった」とDF水本裕貴が嘆いたほどの内容だった。

 だが、それほどの酷い試合でも前半を1失点で折り返し、ハーフタイムに森保一監督の「優勝する気があるのかっ!」という大激怒を受けたチームが蘇生する。球際の厳しさが増し、セカンドボールへの反応も速くなった。浦和のペトロヴィッチ監督が「過去最高」と自画自賛した相手チームの破壊力を前に苦境に立たされはしたが、そこには林卓人が立ちはだかる。

 我慢。忍耐。辛抱。

 森保監督が指導する広島のキーワードは、酷暑の埼玉で十分に発揮された。

 67分、水本のパスをドウグラスが受け、反転ドリブル。カウンターだ。だが、暑さと湿気に体力を奪われた浦和の選手たちには守備に戻る力はなかった。スルーパスを前線の浅野拓磨が受けた時、ダミーで走りスペースを作ったのは左ワイドの柏好文。自陣から一気に70メートルのスプリントを敢行した彼に追いつける赤き勇士はいなかったのだ。

 結果、広島は自陣から二つのカウンターを発動させ、浅野と青山敏弘が見事なシュートを決めて逆転勝利。無人の野を行くが如き浦和の進撃を止めた。特に青山の2点目は、彼自身が縦パスを出して浅野を走らせ、ボールが出てくると信じて60メートルの爆発的なスプリントから決めたダイナミックなゴール。84分という時間帯でもなお強烈な走力を見せた青山は、やはり“広島のエンジン”という称号にふさわしい。

 この場面、青山は「どうしてあそこまで走れたのか、それは分からない」と言う。「気持ちで走ったし、気持ちでゴールを決めた」とも語った。だが、気持ちだけでは体は動かない。走れるだけのエネルギーと、スプリントを可能とする肉体がなければ、絶対に不可能だ。

広島の“走る質”を支えるコンディショニング

 では、どうしてこの“埼玉の歓喜”が生まれたのか。浦和の選手たちが棒立ちになってしまうほど厳しい戦いの中、広島の選手たちは後半になっても、どうして走れたのか。本来、ボールを動かしている側のほうが疲れないはず。だがボール支配率では38.8パーセントと抑え込まれた広島が、浦和よりもタフなところを見せつけた。なぜか。

 その要因はやはり、コンディショニングに求めざるを得ない。フィジカル面でのトレーニングを一切任されている、松本良一フィジカルコーチの言葉を聞こう。

「開幕前の鹿児島キャンプでは、質・量ともに限界点に達するまで選手たちにトレーニングを課しました。その成果もあり、スプリントと休憩の間で見る(パフォーマンスの)アップダウンで、シーズン通していい傾向を続けることができたんです。それが、我々のコンディショニングのベースになりました。
 ウチは走行距離にしてもスプリントの回数にしても、それほど多くはない。だけど、それはミスが少ないことも意味しているんです。パスを回され、ミスからボールを失えば、それだけ走行距離もスプリント回数も伸びてしまうのは必然。でも広島は、監督やコーチがポジショニングやランニングのタイミングを指示しなくても自然にできるクレバーさがある。だから走行距離やスプリントの回数が伸びなくても、ダイナミックなサッカーが可能になるんです。
 その源泉は、森保監督がしっかりとチームを作ってくれていること。選手のスプリントパワーの発揮どころと、森保監督のイメージが合致しているかどうかもチェックしていたのですが、そこでもうまくいっていました。そういう積み重ねが、体力が厳しくなってもなお、パワーを発揮できる試合につながったと思います」

 たとえ走行距離やスプリントのデータで上位になくても、広島は「走る」サッカーだ。ただ、そこには「質」という問題が関わってくる。例えば、J1で最も走力があると評価されている湘南ベルマーレとのJ1最終節を前に、森保監督はこう語っていた。

「これまでも走行距離で相手に上回られている試合は少なくなかった。ただ、より効果的に走ってしっかりとボールを動かし、予測して動いていくサッカーができているのは、我々だったと自負しています。相手の走力に付き合って、自分たちが体力をロスするようなプレーではなく、相手が嫌がる走りを攻守ともに続けて、湘南相手にも走り勝ちたい」

 この試合、走行距離でもスプリント回数でも湘南が広島を上回った。だが、結果は5-0。89分、柏のクロスからドウグラスがハットトリックを決めた時、広島はペナルティエリア内に4人が入っていた。そのうち3人が自陣からのスプリント。走力とスタミナ、そして「今が走るべき時」という予測と決断なくして、このゴールは生まれないのだ。

 先の浦和戦で素晴らしいランニングを見せた柏は「マツさん(松本コーチ)のトレーニングは、引き出しが多くて頭を使うし、選手を飽きさせない。もちろんキャンプのトレーニングはハードだったけれど、それがあったから連戦でも夏場でも走れる」と語る。一方、強烈なランニングとシュートを見せた青山も「すべてのトレーニングに意味があるし、もちろんキャンプでの激しい練習も大きい」と振り返る。

 松本コーチのノウハウを生かし、森保監督が構築した練習が広島を創り上げたことは、疑いない。スタミナが持続するからこそ、勝負どころで集中力を発揮することもできる。それこそが広島の強さを支えているのだ。

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 クレバーかつタフネス。そんな広島の「走る」サッカーを実現させているのは、疑いなく質・量ともにトップクラスの練習とコンディショニング。そのベースを支えるツールの一つが、練習前に選手たちが摂取しているアミノ酸だ。運動で体脂肪を燃やす「VAAM」。10年以上もチームで活用し続けているという。

 松本コーチは、こう語る。

「練習前にVAAMを取り入れ続けている目的は、トレーニングや試合中に体脂肪のエネルギーを十二分に活用したい点にあります。優秀なエネルギー源である体脂肪を活用できることでガス欠の可能性を低め、長時間のトレーニングも可能になるし、90分間走り負けない体力も身につく。89分しか走れない身体を90分プラスアルファの時間まで戦えるように作り上げるために、VAAMを活用し続けています」

 J1年間1位を達成し、リーグ戦での連続未勝利は最長で3試合のみ(2位浦和でも4試合勝ちなしがある)。シーズンを通じて安定した強さを支えてきたのは質の高い日々の練習。そして、数あるアミノ酸の中からVAAMを選び、使い続けてできたコンディショニングの賜物といえるであろう。

 ローマは一日にしてならず。サンフレッチェ広島の強さもまた、普段の地道な取り組みにある。

文=中野和也(紫熊倶楽部)

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By 中野和也

サンフレッチェ広島オフィシャルマガジン「SIGMACLUB」編集長。長年、広島の取材を続ける。

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