2012.06.21

アーセナル復帰か3度目のローン移籍か、キャリア序盤の大きな岐路に立つ宮市亮の今

ワールドサッカーキング 2012.07.05(No.221)掲載]
 キレのあるドリブルでボルトンのサポーターを沸かせた宮市亮だが、シーズン終盤には相手のラフプレーに苦しめられることとなった。来シーズンに向け、彼には2つの道がある。アーセナル復帰か、3度目のローン移籍かーー。キャリア序盤の大きな岐路に立つ宮市亮の“今”を、現地記者が分析する。

Text by David McDONNELL, Organization and translation by EIS, Photo by Takeo YAMAGUCHI

 宮市亮はこれからどうなるのか? 世界屈指の魅力的な若手とたたえられる一方で、ボルトンの残留失敗によって、“日本代表の未来”の去就は不透明なものとなっている。

 今シーズンの後半戦、宮市は所属するアーセナルからローン移籍でボルトンに加入。プレミアリーグで先発8試合を含む12試合に出場し、2つのアシストを記録するなど随所で輝きを見せた。しかし、肩の故障や調子の低下もあり、シーズン最終盤にはレギュラーの座を失った。この夏にはアーセナルへ戻る予定だが、問題はアーセン・ヴェンゲル監督のトップチーム構想に入れるかどうか。もしそうでない場合、再び荷物をまとめて他のクラブへローン移籍に出されることになる。

■アーセナルに戻っても定位置確保は難しい

 宮市本人は、自分がアーセナルのレギュラーにふさわしいことを証明したいと願っていることだろう。そのためには自らの実力を認めさせなければならないが、ウイングのポジションにはセオ・ウォルコットとアレックス・チェンバレンのイングランド代表コンビが立ちはだかっている。アーセナルにはこの2人の他にもジェルヴィーニョやヨッシ・ベナユンといった優秀なアタッカーがいる。宮市と同様にレンタルに出されていたアンドレイ・アルシャヴィンなども含めれば、ライバルはかなりの数となる。

 ヴェンゲルは若手育成に積極的なことで知られる監督だが、だからと言って登録選手全員に平等な出場機会を与えるわけではない。ヴェンゲルの起用法にはメリハリがある。その目に「使える」と映れば、10代だろうが実績不足だろうが迷うことなくピッチに送り出す。しかし、「まだ準備ができていない」と判断されたら……。

 ボルトンでの宮市は、テクニックと積極性でオーウェン・コイル監督を始め、チームスタッフや選手、サポーターから称賛を集めていた。実際、ホームスタジアムでは、最終盤に失速するまで、充分なインパクトを見せてチームのアイドル的存在になっていた。それでも、アーセナルにはボルトンとは比較にならないほど才能が溢れ、しかも完成度の高い選手が複数いる。現状を見る限り、宮市がいきなりトップチームに入ってレギュラー、もしくはそれに準ずる地位に定着するのは相当難しいだろう。

 アーセナルでのトップチーム入りはいばらの道になりそうだが、ヴェンゲルを支えるチームスタッフは19歳の日本代表を評価しており、長期的な投資に値するだけの潜在能力を持った選手だと確信している。

「リョウはイングランドへ来て、ここまで本当によくやっている」と話すのは、アーセナルのトップチームでコーチを務めるニール・バンフィールド。「私たちの高い要求に苦しんだ時期もあったが、懸命に努力して戦っていたのが、いかにもリョウらしかった。トップチームの練習に参加し、その後ローンでボルトンへ行ったが、そこでもよくやっていた」

 しかし、そんなバンフィールドも、宮市がアーセナルでレギュラーに定着する可能性について尋ねられると「それはヴェンゲル監督が決めることだ」と言葉を濁した。

 若手の育成に力を入れるヴェンゲルは、キャリアの序盤で若手に過度なプレッシャーを掛けないよう細心の注意を払うタイプの監督である。そうした背景もあって、バンフィールドは宮市が新シーズンもローン先でプレーする可能性を排除しなかった。実際、その選択肢について、クラブはシーズン終了後もボルトンと話し合いを続けていると言われている。

「夏にはスタッフが集まって、すべての若手について新たなプランを立てる。リョウをアーセナルに残すか、それとももう一度ローンに出すかは監督が決めることだ。アーセナルでプレーする準備が整っていないと判断されれば、再度のローン移籍もある」

 このように説明したバンフィールドだが、宮市のことを知りたがる我々と日本の読者のために「ボルトンでのパフォーマンスは高く評価している」とフォローすることも忘れなかった。

■攻守を切り替える際の動きの質に課題がある

 ボルトンの前にもエールディヴィジのフェイエノールトにローンに出されていた宮市は、またもローン移籍させられるのを嫌がるかもしれない。結局のところ“本物”の評価を得られるのは、ビッグクラブでプレーした選手だけ。ワールドクラスと呼ばれる選手の価値は、プレミアリーグで上位争いを演じ、チャンピオンズリーグに出場する中でしか確立できないものだ。

 しかし、前述したようにアーセナルでのレギュラー争いに挑んだ場合、現時点では「勝算が薄い」と言わざるを得ない。ここイングランドでの宮市の評価は、「攻撃面は(今後の伸びしろも含めて)大いに期待できるものの、プレミアリーグでコンスタントに活躍するには、戦術理解とフィジカルが足りない」というのが大半を占める。

 ボルトンにおける宮市のデビューは鮮烈だった。卓越したボールコントロール技術とロケットスタートでDFを一瞬のうちに抜き去る。運動量も豊富で、自陣深くまで守備に戻った後でも動きが鈍ることがない。その上、積極的に仕掛けるプレーで攻撃を活性化させていた。彼の加入で、停滞していたボルトンは息を吹き返した。

 ただ、これでは良い面ばかりを見ているに過ぎない。課題も少なからずあった。まずは攻めから守り、守りから攻めに移る際の動きの質。スピードもスタミナもあるが、それをチーム戦術の中で最大限に発揮できていたわけではない。これはチームの問題であるとる宮市は、現代サッカーではかなり貴重な存在だ。両足を使えるためプレーのバリエーションが多く、相手DFとしては対処が難しい。この点は今後も宮市のストロングポイントであり続けるだろう。

 ただ、ボルトンで散見された課題は、アーセナルに行けば致命的な欠陥となり得る。実戦の中で経験を積み、課題を克服するとともに、戦術理解やフィジカルを強化するためにも、宮市は新たなローン移籍を受け入れるべきではないだろうか。

 もちろん、ローン移籍すると決めつけたわけではない。ヴェンゲルがフェイエノールト、ボルトンで経験は十分に積んだと判断する可能性もある。自分の手元でその潜在能力を100パーセント開花させる……育成志向の強い指揮官にとって、宮市ほど興味をそそる“素材”はないはずだ。

 それでも私としては、アーセナルにとどまることはリスクが高いと思う。トップチームに籍を置いたとしても、その序列が低いのでは、カーリングカップやFAカップを主戦場とし、ごくたまにやって来るプレミアリーグでの出場機会を待つことになる。それは今後のポジション争いの行方を見なければならないが、いずれにしても重要なゲームで常時出場する地位には手が届きそうにないのだ。

 ローン移籍を経験したことで大きく羽ばたいた選手の例はいくつもある。ジャック・ウィルシャーを筆頭に、マンチェスター・ユナイテッドではダニー・ウェルベックがサンダーランドへ、トム・クレヴァリーがウィガンへローンに出され、そこで貴重な実戦経験を積んで潜在能力を開花させた。同じようなことが、今の宮市にも必要なのではないか。

 ユナイテッドのアレックス・ファーガソン監督は、ローン移籍から戻ったウェルベックやクレヴァリーを、「少年として旅立って、男になって戻って来た」と表現した。次の12月でようやく20歳になる、この世界ではまだ「少年」の宮市にも、同じように成長する可能性があるはずだ。

■肉体的にも精神的にも、さらにタフになること

 ボルトンの降格が決まったプレミアリーグ最終節から10日後の5月23日、宮市はアゼルバイジャンとの親善試合で後半途中からピッチに立ち、日本代表の初キャップを記録した。

 彼の希望ははっきりしている。アーセナルの一員として、6万人収容のエミレーツ・スタジアムでプレーすることだ。宮市は「アーセナルで一番の選手、試合でチームを動かせるような選手になりたい」と話す。だが同時に、「ピッチに立って残留に貢献したかった。降格はすごく残念だった」と、機会を与えてくれたボルトンへの思いも語っている。

 宮市を新シーズンもローン移籍させる場合、アーセナルはボルトンとの交渉を最優先すると見られている。1シーズンでのプレミア復帰を目指すコイル監督は、故障により長期離脱を強いられていた韓国代表のイ・チョンヨンが戻る来シーズンも、宮市をキープしたい意向である。

「ぜひとも戻って来てほしい。意欲のある若手だし、そういう選手こそ新シーズンの我々に必要なんだ」とコイル監督は言う。「既にアーセナルとは話をして、こちらの希望を伝えた。まだオフシーズンは始まったばかりだから、どういう結果になるか楽しみに見守りたい」

 もし宮市がボルトンに戻ることになれば、間違いなく大歓迎されるだろう。チャンピオンシップ(イングランド2部)でのプレーは、本人にとって理想のシナリオではないかもしれないが、彼に求められるのは、肉体的にも精神的にも更にタフになることだ。だからこそ、自身の将来について決断を下す際は、レギュラーへのこだわりを最優先すべきだ。たとえ格下のプレミア勢、あるいはチャンピオンシップのクラブに移籍しなければいけないとしても、そこでコンスタントに出場することのほうが、アーセナルでたまにプレーするよりも、長い目で見た時のメリットは大きい。過去には複数のプレミアリーグのスター選手が同じ道を歩んでいる。下部リーグでの経験は、より強靭な宮市を形作る血となり、骨となるはずだ。

 宮市はワールドクラスの選手になれるだけの資質を持っている。アーセナルに残ろうと、再度ローン移籍しようと、そのことに変わりはない。ただ、そのずば抜けた才能に見合う選手へと順調に成長できるかは、本人の努力はもちろん、クラブの選択も重要になるだろう。新シーズンに向けた去就において正しい答えを出すことは、アーセナルにとっても、宮市本人にとっても、かなり大切になる。

 キャリアをスタートさせたばかりの若手にとって、ステップアップは何よりも重要な観点となる。プレミアリーグで手応えを得た今となっては、2部でプレーする気分になれないというのも容易に想像できる。だが、慌てる必要はどこにもないはずだ。飛躍の準備のためにもう1年費やしても、宮市はまだ20歳なのだ。

 今は試合にコンスタントに出場することで、トップレベルのフィジカルの強さやスピードに慣れることが先決だ。試合に出続けることができれば、ゲームをより深く理解できるようになり、戦術面でも成長できるだろう。

 成功に続く道は最短ルートとは限らない。少し遠回りしたほうが、より高い地点に到達できる。サッカー界ではしばしば起こり得ることだ。

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING @SoccerKingJP』の編集長に就任。

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