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GKからの確実なビルドアップも日本代表の課題

2012.06.07

この記事はサッカージャーナリスト養成講座(http://www.soccer-j-ac.jp/)が主催した短期セミナー『サッカー戦術眼向上セミナー』の「日本代表の戦術的長所と課題を読み解く」を『サッカーキング』掲載用に再構成したものです。
日本代表
協力:『小澤一郎の「メルマガでしか書けないサッカーの話」』 [写真]=足立雅史

アジア最終予選でファンを沸かせ、2014 FIFAワールドカップ行きのチケットを手にするには現状に満足して良いわけがない。アルベルト・ザッケローニ監督の指揮のもと、日本代表が5大会連続のW杯出場を果たし、2年後にブラジルの地から世界を驚かすには洗練していくべき要素がある。サッカージャーナリストとして活躍する小澤一郎氏が、今の日本代表が抱える課題を指摘した。



 日本代表の課題の一つにビルドアップが挙げられます。これはA代表だけでなく日本サッカーの大きな課題と言えるでしょう。

 GKがボールを持った時のセンターバック2人の幅に注目すると、そのチームの組み立てに対する意識が分かります。日本の場合、センターバックの幅が狭いのでボランチが中盤の底の位置ではなくサイドバックの位置に開きながら降りてボールをもらう場面が少なくありません。

 日本代表の試合、2012年2月に行われたウズベキスタン戦の前半13分を例に挙げましょう。センターバックの吉田麻也がサイドに開いた長谷部誠にボールを出します。本来ならセンターバックが幅を取ってボランチがアンカーの位置で三角形を作るのが理想的です。しかし、センターバックの幅が狭いためアンカーの位置でもらうための角度が悪くなり、その結果ボランチがサイドに降りることになります。

 すると、ボランチの選手が自分のポジションを捨ててサイドに出てしまうことになります。相手にとっては自分たちの守備ブロックを崩されないボール回しであり、比較的守りやすい。つまり、相手にとってあまり怖くないポゼッションなのです。バイタルエリアを制するためにはバイタルの手前のセンターのスペースに一度ボールを入れないと有効なサイド攻撃もできません。

 当たり前のことですが、単にボールを持っているだけがポゼッションではありません。ポゼッションの最終目標はゴールを奪うこと、その前段階としてバイタルエリアを制する必要があるということを忘れてはいけません。一般的にもっと認知されてほしいのは幅だけでなく奥を取るポゼッションです。奥というのはタッチライン近くのスペースのことですが、スペインでは「プロフンディダ」(スペイン語で「奥」の意)という言葉が育成の現場でもよく使われていて、指導者たちは日常的に「プロフンディダを狙え、取れ」というふうに言っています。

「奥を取る」プレーに関しての日本代表もまだまだ向上の余地がありますが、2012年3月に行われたU-23日本代表のバーレーン戦の先制点は今後に生かしていきたい場面でした。ボランチの扇原貴宏がなぜゴールエリア内に進入できたのか。原口元気が相手のディフェンスラインを下げさせた、つまり奥を取る攻撃ができたからだと思います。

 日本代表の課題としては、GKからの確実なビルドアップも挙げられるでしょう、ウズベキスタン戦の前半30分、センターバックの吉田が川島永嗣へバックパスした場面がありました。この時、DFやボランチの選手がもらう動きをしましたが、川島はリスク回避のロングキックを選択します。その結果、相手のスローインになりました。一見、「つなぐことを意識して致命的なミスをするよりも良い判断だった」と言えるかもしれませんが、簡単にマイボールを放棄すること主導権までも放棄しているデメリットについてももう少し考える必要があるでしょう。

 今まで以上に最終ラインから確実につなぎ、偶然ではなく必然性を持って能動的にバイタルエリアをとりにいく、チームとして前進していくようなサッカーをしないと世界トップレベルでは戦っていけないでしょう。日本代表が本気でワールドカップの上位進出や優勝を狙うなら、マイボールの時間をもっともっと増やしていく必要があります。

 強豪相手であってもいかにマイボールを大切にして、ボール支配率を高めて、自分たちのリズムと時間で戦っていけるかどうか。その重要性を日本サッカー界はW杯南アフリカ大会で痛感したはずです。ベスト16以上の結果を出すためにも、ザッケローニ監督と彼が率いる日本代表は、自分たちで主導権を握りながら効果的にバイタルエリアに向かっていくサッカーを追求していかなければいけないと思います。

構成協力:田中秀明(サッカージャーナリスト養成講座

6月7日(木)配信の『小澤一郎の「メルマガでしか書けないサッカーの話」』に「日本代表にとっては、能動的な守備、攻撃的なアタッキングプレスの熟成が必要」(仮)を掲載予定です。

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