[ワールドサッカーキング 2012.05.03(No.213)掲載]
ドイツでは現在、9人もの日本人選手がプレーしている。サッカーのレベルの差や言葉の壁がある欧州でのプレーは日本人選手にとって高いハードルであるにもかかわらず、なぜ、ドイツでは多くの日本人選手が活躍できるのか? 長年にわたってブンデスリーガを取材する6人のベテラン記者が気になる日本人選手について意見を交わし合った。
座談会メンバー/
■アレクサンダー・バルクラーゲ
発行部数36万部を誇るドイツの日刊紙『フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング』のサッカー記者
■イェルク・ストローシャイン
ブンデスリーガを幅広く取材するフリージャーナリスト。シャルケを中心にルール地方のクラブに精通する
■ギュンター・ポール
フリージャーナリスト。ラジオ実況者として活躍し、ボーフムを中心に、ドルトムント、シャルケなどを取材する
■マルコ・プライン
ドイツ日刊紙『アルゲマイネ・ツァイトゥング』のサッカー記者。ミュンヘンを拠点にブンデスリーガを幅広く追う
■マリオ・ヴォルペ
ドイツ最多の発行部数を誇る日刊紙『ビルト』のサッカー記者。バイエルンを中心に、ブンデスリーガを取材する
■マーティン・ヘーゲレ
元ジャーナリストで現在はバイエルンの国際担当者。過去18年で90回も来日する日本通としても知られている
『岡崎はお金を払うだけの価値がある選手だ。こういう選手はドイツでも貴重だよ』byマルコ・プライン
みなさんが個人的に気になる日本人選手はいますか?
プラインーー岡崎(慎司)は長い目で見て、活躍できる選手じゃないかな。香川(真司)は狭いエリアでテクニックを見せるけど、彼はよりダイナミックでスピードがある。岡崎はお金を払うだけの価値がある選手だ。こういう選手はドイツでも貴重だよ。
ポールーーハノーファー戦のオーバーヘッドは今シーズンのベストゴールの一つだね。
ヴォルペーーよく走り、素晴らしいシュート技術を持っている。岡崎はシュトゥットガルトにもうまくフィットしていると思う。
ヘーゲレーー私もシュトゥットガルトの関係者に知人が多いが、岡崎についてはいい話しか聞かないよ。
ストローシャインーーチームで(マルティン)ハルニック、(ヴェダド)イビセヴィッチらに次ぐゴールを挙げているんだから、シュトゥットガルトにとって既に欠かせない存在と言える。酒井(高徳)とのコンビは相手にとってやっかいだと思うよ。あれだけ動ける選手はなかなかいないからね。
バルクラーゲーー僕は細貝(萌)を評価したい。今ではすっかりアウグスブルクの中心選手に成長し、不可欠な選手になっている。豊富な運動量と強いメンタリティーでチームを引っ張るなど、下位に沈むチームにあって、他の日本人とは異なる部分も見せている。地味なポジションだから目立たないけど、チームへの貢献度はかなり高いと思う。
酒井の名前が出ましたが、1月に加入した彼についてはどのような印象を持っていますか?
ヴォルペーー酒井の活躍にはとても驚かされている。加入当初は控えだったが、(アルトゥール)ボカがアフリカネーションズカップで離脱し、(クリスティアン)モリナーロが出場停止になって回ってきた先発のチャンスを見事に生かした。香川と並んで現在一番勢いのある日本人選手なんじゃないかな。
バルクラーゲーー私も同意見だ。左サイドバックでのプレーも素晴らしかったが、右サイドバックでも同じレベルのプレーを見せている。シュトゥットガルトにとっては想像以上の補強になったと思う。
プラインーー短期間でチームになじめたのはチームメートに岡崎がいたことも大きな理由の一つと言えるだろう。
『世界レベルの選手がいるバイエルンで宇佐美がレギュラーになることは簡単ではない』byマーティン・ヘーゲレ
バイエルンの宇佐美貴史は、日本では非常に才能ある選手として評価されていました。しかし、ドイツに来て苦しんでいます。
ヴォルペーー彼のクオリティーについては、まだ定義できない部分がある。リザーブチームの試合に出ることはあってもトップチームでプレーすることが少なすぎるからね。リザーブチームのレベルはブンデスリーガの試合とは比較にはならない。バイエルンのようなスーパーチームでプレーするには、すべての面でレベルアップが求められる。
ヘーゲレーー私は立場上(※現在はバイエルンの国際担当者)、宇佐美についてはトレーナーが言っていることしか話せないが、(ユップ)ハインケス監督はいい意味で彼のポテンシャルの高さについて驚いている。だが、同時に少し時間が必要であることも漏らしている。仮に(フランク)リベリーや(アルイェン)ロッベンの代わりを務めるにしても、もう少しディフェンシブなプレーを学ぶ必要がある。いずれにせよ、世界レベルの選手がいるバイエルンで宇佐美がレギュラーになることは簡単ではないよ。
バルクラーゲーーロッベン、リベリー、(トニ)クロース、(トーマス)ミュラーと、バイエルンの2列目の人材は豊富。これは誰にとっても厳しい状況だね。
プラインーーバイエルンはドルトムントと比べても、そのプレッシャーは全く違う。香川だって、バイエルンに行っていたら試合に出ることすら難しかったかもしれない。
「試合に出場しなくても得ることは多い」。そんな声もありますが、一理あると思いますか?
ヘーゲレーー試合に出たければ、下位チームに行けばいい。ただ、宇佐美は「うまくなれない」と言っている。だとすれば、毎日レベルの高い選手とボールを蹴ったほうが、確実に学べることは多いだろう。
ヴォルペーー来シーズンに向け、バイエルンは既に(シェルダン)シャキリを獲得している。出場機会がある程度保証される下位クラブに行くことも考えなければならないだろう。
宇佐美と同じくボルシアMGの大津祐樹も出場チャンスを得られていません。
ポールーー(ルシアン)ファーヴルはあまりスタメンを変えない監督だということもあるが、ベンチに入れない日々が続いていることを考えれば、信頼を得られていないということだろう。
バルクラーゲーー来シーズンは(マルコ)ロイスが移籍するのでチャンスは回ってくるはず。ファーヴル監督は若手を起用することをためらう指揮官ではないからね。
『ボーフムにとっては幸運なことだが、なぜ乾が2部でプレーしているのか解せない』byギュンター・ポール
シャルケの内田篤人は、昨シーズンはコンスタントに出場し、チャンピオンズリーグでもプレーしましたが、今シーズンは監督の交代などもあって出場機会が減りました。DFとしては小柄でフィジカルに弱い点も指摘されています。
ポールーー確かに内田は昨シーズンほど試合に出場していない。ただ、(監督交代などで体制が変わると)サイドバックというポジション柄、前線の選手に比べてアピールの難しさはあるかもしれない。もちろん、守りを考えると、大柄な選手が多いという厳しさはあると思う。しかし、実際にテクニカルで状況判断などに問題がなければ、体格はそれほど問題ではない。バイエルンの(フィリップ)ラームが良い例だし、香川だって(マリオ)ゴメスではないが、違う良さを示している。
ストローシャインーーモダンなサッカーに背の高さはあまり関係ないよ。ラームだけじゃなく、チャビや(リオネル)メッシ、クロース、リベリーらは、みんな小柄だが世界のトッププレーヤーだ。内田も才能はあるので、経験を積むことで彼らに近づくことはできるだろう。必要なのは、DFといえどもいつも得点をイメージしてプレーすることじゃないかな。内田にはそれが欠けている。ゴールすることは彼本来の仕事ではないが、ゲームに臨む上では大切な観点の一つになるからね。
2部でプレーしている乾貴士についてはどのような印象を持っていますか?
ポールーー2部なので注目度は低いが、彼のクオリティーには驚かされている。スピードがあって、意外性のあるMFだ。ボーフムにとっては幸運なことだが、なぜ乾が2部でプレーしているのか解せない。
ヘーゲレーーJリーグ時代は香川と同じくらい評価されていた選手だから、1部でも活躍できるポテンシャルはある。ただ、実力を証明するにはチームを変える必要がある。
一昔前には欧州での日本人選手の評価というものは、それほど高いものではありませんでしたが、ドイツではそれが少しずつ変わりつつあるようですね。
ヘーゲレーーどの選手も良いプレーヤーとして認められている。香川や長谷部(誠)、内田、岡崎、細貝ら今ドイツにいる選手は、エキゾチックな存在として振る舞っているわけではない。すぐにこちらの生活や環境にもなじみ、他の選手と同じようにやっているよ。
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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING @SoccerKingJP』の編集長に就任。
ワールドサッカーキング No.213
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